96話:第四階層
王司たちは、彩陽を心配しながらも、上の階層に上がって行った。その途中、愛美が不意に口を開いた。
「この塔、きっと、夢見と時空間の歪みが作用してるみたい。夢見専門のわたしだから分かるのかも知れないけど、この塔の上に、夢見の力が集約しているみたいなの。だから、きっと、この先には、色んな凄い人物がでてきちゃうと思うよ」
愛美の言葉の意図が分からず、真希が首を傾げたが、王司は、なるほど、と頷いた。そして、つまり、と要約する。
「俺たちの知っている何か凄い人物が夢見の力で選ばれ、時空間の歪みで呼ばれるということか?」
王司の要約に、「な、なるほど」と、真希がよく分かっていないながらに頷いた。それを見たルラが、「分かっていないなら頷かないほうがいいわよ」と言う目で見る。
「しかし、そうなると、誰が出てきても驚くなよ、ってことになるよな」
王司の言葉に、紫苑が、王司の頭の中を理解し、自分の中で整理して、「そうですね」と頷いた。
「おそらく、時間関係を無視して、どんな人物でも出てくるのでしょうから、もしかしたら、蒼刃蒼衣さんや七峰蒼子さんたちが出てくることもあるかもしれませんね」
紫苑の言葉に、ああ、と頷いた王司。そして、階段を登りきる。すると、そこには、一人の少女が居た。その少女の姿を見て、「嘘……」と声を洩らしたのは愛美だった。誰が出てきても驚かない、と言う風に思ってはいたものの、思わず愛美の口から漏れ出た。
「知っているのか?」
そして、少女のことを知っているであろう愛美に王司が問いかけた。王司の言葉に、愛美は、静かな声で呟いた。
「紫光坂しほりちゃん……」
そう言ってから、首を横に振った。そして、彼女の別の呼び方を、恐る恐る口にする。その名前は……。
「魔法幼女すぺしゃる≠しふぉん」
スペシャルではないシフォンと言う意味であるが、意味は不明である。かつて、そう呼ばれた魔法少女。だが、彼女がここに居るはずが無いのだ。
「しほりちゃんは……、石眼の白蛇に石化させられて、今は、魔法少女独立保守機構本部の地下で、同じ戦いで石になったままの仲間たちと一緒に眠っているの……」
その愛美の視線の先のしほりが、ニッコリと微笑んで、友人を見つけたような表情で愛美に向かって手を振った。
「まなちゃ~ん!」
そう言って、手を振るしほりを見ながら、愛美は、ステッキを握り締める。そして、王司たちに言う。
「王司さん、先に行ってください。しほりちゃんはわたしが相手をします」
そう言って、ステッキをくるりと回しながら、「上位変身~(☆ミ)」と言う。そして、愛美の衣服が光の粒子となって弾け飛ぶ。
赤銅色の髪は、頭上で大きく一房にまとめられ、扇状に広がった。見た目どおりの幼い体型で、平たい胸がトレードマーク。顔は、童顔、童女なので童顔で当たり前なのだが。大きくパッチリとした目。その瞳は七色の煌きを放っている。それは彼女だけが持つ特性、【勝利の魔眼】。どの伝承にも記されていない、彼女の一族に伝わる魔眼。七色の輝きなのは、最高度の魔眼であるからだ。と、言っても魔眼全てに色の規定があるわけではなく、【勝利の魔眼】の中でのランクだ。彩陽がなった「金色」の目も、【勝利の魔眼】の一種である。しかし、永続的なものではなく、勝利のルーンと通じて一時的になった目のため、ブリュンヒルデが、愛美の一族だと言うわけではない。あくまで、永続的な【勝利の魔眼】は、愛美の一族の者だけだ。そして、その瞳を縁取るようにまっすぐと長く伸びた赤銅色の睫毛。
弾け飛んだ服の変わりに光の粒子が集まって白のスクール水着、通称、白スクが形成される。そして、膝丈を越えるニーソックス、ハイニーソ。そして、不恰好なロングブーツ肩に取り付けた不似合いな真っ赤なマント。まさに魔法少女だ。
「大丈夫なのか?」
王司の言葉に、愛美は、こくりと頷いた。それを見た王司は、皆を連れて上の階へと登っていく。
「気をつけて」
「お前もな」
そんなやり取りをした愛美は、目の前のしほりと向き合った。そして、ステッキを構えた。
「なぁに?まなちゃん。いつもの模擬戦?」
そう言って、「クラスアーップ!」と元気いっぱいに変身をするしほり。その瞬間、しほりの服が光の粒子となって消し飛んだ。
濃紺の髪を頭の上でくるくると二つ団子にしている。見た目どおりの幼い体型をした平たい胸を持つ。服の代わりに光が粒子となって集まる。そして、濃紺のスクール水着、所謂スク水ではなく、水抜きの部分が存在する旧スクである。そして、ローラースケートに羽の生えたものをはいている。そして、腰元に旧スクの分割部分にフリルが咲いている。
「聖と星の使者、魔法幼女すぺしゃる≠しふぉん、颯爽登場です!」
ブワッと風を巻き起こしながらしほりが舞い降りた。
「じゃあ、いっくよぉ~!」
そう言って、しほりは【力場】を展開させる。極大の【力場】を。




