表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
白城編
94/103

94話:第三階層

 第三階層に登りついた王司たちは、不吉な雰囲気と、薄暗いフロア、そして、射殺すような殺気に、思わず息を呑んだ。そして、王司は恐る恐る、その姿を視認する。薄黒い龍の姿だった。なんと言っても、目立つのは、龍の額にある三日月型の模様だ。それを見た瞬間に、王司は、悟った。危険だと。あれは、危険すぎると。


「――『クロウ・クルワッハ』ッ!」


 王司は、短く叫んだ。その龍の名前を。そう、その龍は、神殺しの殺戮龍。バロールが生んだ最悪の一つ。


「ほう……、()が名を知る者か……。そう、(われ)こそは、【三日月の殺戮龍(クロウ・クルワッハ)】。最悪の龍である!」


 クロウ・クルワッハは、そう名乗った。クロウ・クルワッハは、神殺しの龍であり、神殺しの神でもある。太陽の神性を持った、なのに邪悪な存在。聖を持ち邪となった者。ケルトの神々を惨殺した龍なのだ。


「クロウ……?」


 烏?と首を傾げる真希だが、クロウとは烏ではなく、「三日月」や「輪」、「頭」を意味している。クルワッハとは、「血塗れ」や「山」、「積み重ね」などを意味する。その存在は、死の神として崇められていることもある。


「あれは、……まずい」


 王司は、思わず呟く。そう、クロウ・クルワッハは、王司たちにとって相性が悪いのだ。最悪と言っても過言ではない。


「『ロンギヌス』と並ぶ神殺しの代名詞だ」


 ロンギヌスとは、神殺しの槍と名高い聖書に登場する槍のことである。《死古具ダリオス・アーティファクト》にも模倣品があり、かつての名前を《神滅の槍ペネトレイト・ロンギヌス》、そして、今は《刻天滅具(こくてんめつぐ)》と呼ばれる。蒼刃蒼天を殺した槍でもある。そして、その神殺しの特性上、神の造った《創造物》である《古具(アーティファクト)》を無効化する事ができるのだ。


 そして、それは、クロウ・クルワッハにも同じ事が言える。この場合、王司の《古具》も、そして、天使である神性を宿す剣【断罪の銀剣(サンダルフォン)】も無効化されてしまうだろう。同じ理由で紫苑、真希、ルラ、秋世は、役に立たない。さらに、サルディアは神性を持つため弱点でしかない。愛美は、単体ではほとんど戦力にならないだろう。特に人外が相手の場合。魔法少女は人外を相手にするものなのだが……。


 そう、この場で、反撃の兆しを見せられるものがいるとしたら一人だけなのだ。神に追放された戦乙女の呪いをその身に受けた「魔性(ませい)」を宿す者。


「カッカッ、吾に恐れをなすか。正常な証だ。何せ、吾は、神をも殺す龍神なのだから!」


 そう言って吼えるクロウ・クルワッハ。そんな中、彩陽は、王司の焦りを和らげるように王司の肩に手を置いて、笑った。


「王司ちゃん、王司ちゃん達は先に行って。ここは、お姉ちゃんが請け負うよ」


 いつもよりも神妙な面持ちで、そう言った彩陽に対して、王司は、驚きの表情を向ける。この現状を理解しているのは、王司とサルディアと紫苑くらいだと思っていたが、彩陽は、ちゃんと現状を理解していたのだ。


「ほう、吾に対して、一人で立ち向かおうとは、貴様、馬鹿か?」


 クロウ・クルワッハが、彩陽に対してそう言った。それに対して、彩陽は不敵に微笑む。その様子に、さすがのクロウ・クルワッハも「む?」と顔を歪めた。


「さっき、この危機的な状況で、王司ちゃんはお姉ちゃんを見たの。それは、お姉ちゃんなら、この状況で戦えるってことだって分かっちゃうの。だから、お姉ちゃんが戦うわ」


 そう言って、一歩、前へと踏み出す。その瞬間、彩陽の周囲に黒い【力場】が生まれた。そして、ギュッと凝縮される。髪の色が鮮やかに移り変わる。


 流麗に靡く薄水色の髪。それを俗に言うハーフアップと言う髪型にまとめている。闇の象徴の様な一片の光も無い真っ黒な瞳。その瞳は、常軌を逸した尋常ならざるものを感じさせる。


 元から美しい顔立ちが、余計綺麗に見える。儚く淡く、美しいと言うのだろうか。水色の髪が、そんな雰囲気を際立たせる。


 そして、身体を包む、黒い【力場】でできた鎧。漆黒のアーマープレートは彩陽の豊満な胸にぴったりと張り付くように付いている。全身を包むように鎖のように編みこまれた帷子。腹や肩、腿などは帷子が丸見えで、さらにその奥の柔こい白い肌も見えている。黒い頑強そうな籠手が両手を包んでいる。腰も三枚の草摺(くさずり)がついているだけだ。足は、黒い鉄靴。一見、防御力の低そうな鎧だが、【力場】を高濃度に圧縮しているので強度もそこそこ。それ以前に、【力場】をコレほどまでに圧縮する力があるのならば、解き放てば、それこそ、鎧なんて必要ないくらいの防御力は出る。


「むぅん?!こ、これは……」


 クロウ・クルワッハが唸った。流石に、濃密過ぎる【力場】に驚きを隠せなかったのだ。そして、彩陽は、《炎呪の姫剣(カオス・ブレード)》を呼ぶ。いや、もはやそれは《炎呪の姫剣(カオス・ブレード)》と呼べる代物ではなかった。


「《炎呪の棘剣(ヒンダルフィヤル)》」


 漆黒のレイピア。それは、【黒き炎の棘森(ヒンダルフィヤル)】の写し身。《炎呪の姫剣(カオス・ブレード)》の真の姿だ。ここに来て、更なる真希不遇問題だ。《古具》の真の姿を現していないのは真希だけ。


「ブリュンヒルデに呪われた者、か」


 王司の呟きに、クロウ・クルワッハが、少し動揺した。その様子が感じ取れた王司は、彩陽以外の面々に言う。


「行くぞ、お前等」


 そう言って、スタスタと歩き出す。それに慌てて、皆が付いていく。王司は、ボソリと一言だけ。


「気をつけて、彩姉……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ