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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
白城編
93/103

93話:チーム三鷹丘VS清二

 そんな話をしているうちに、彼方が、急にゆるりと動き出す。他のメンバーが動き出さないところを見ると、洗脳は一人一人、順番にゆっくり行っていくらしい。


「うわっちゃ~、全盛期ほどの実力は出せないなぁ~。夢見も中途半端だし、時間かかってるし」


 詩春の全盛期の頃ならば、数秒で人格を完全に書き換えて従順な奴隷にする事ができるほどだった。


「うぅ、たお、す……。倒す……。倒します」


 そう言って、彼方は、急に清二に抱きついた。「「は?」」と詩春と清二が固まった。何が起こっているのか分からなかった。


「押し倒します」


 はぁはぁと息を荒げさせて、清二を押さえつける彼方。この様子に、詩春は「あちゃー」と言う顔をした。


「あー、ゴメンね」


 パチリとウィンクしながら、ペロリと舌を出す詩春。そして、詩春は、申し訳なさそうに手を合わせた。


「君が(しもべ)とか言うから、まあ、邪念が入ったってゆーかー、まっ、まあ、どうにかしてね」


 詩春の無責任な言葉に、清二が焦る。彼方の豊満な胸が、清二の胸板にむにゅりと当たる。清二は動揺する。


(や、柔らかい……)


 妻子持ちの清二は、日々の彼方や煉巫の誘惑から身を守ってきたが、流石に、ここまで直接的に来られると、清二でもまずい。


「か、会長、離れて!」


 清二は、とりあえず突き放そうとするが、離れない。抱きついたまま、彼方は動こうとしないのだ。


「やべぇ、……可愛い」


 口から勝手に出た言葉に、清二が、「あっ」と思うが、それよりも動揺したのは彼方の方だ。


「か、可愛い……。清二君が、私のこと、可愛いって。可愛いって……」


 彼方が、清二を押さえつけていた腕を放し、真っ赤になった頬に手を当てくねくねと身をよじらせる。


「……せ、清二君❤」


 彼方が再び清二に迫る。しかし、腕の押さえが無くなり、身体に乗られていることくらいしか縛りが無い今、清二は、無理矢理彼方を押しとばす。


「きゃっ……。……って、ハッ、わ、私は何を……」


 急に我に返る彼方。自分が清二とくんずほぐれつしていることに頬を染めて、清二からバッと離れる。


「せ、清二君、一体何が……」


「あれ、元に戻った?いえ、そんなはずは……。書き換えたから戻るなんて……」


 この現状に詩春が動揺していた。そんなとき美園が動き出す。と言うか清二に飛び掛る。と言うか、抱きついた。


「せいじぃ~❤」


 誰だこれ、と清二と彼方に動揺が走る。さっきから皆動揺しまくりである。甘えた声で、清二を抱きしめ、頬擦りをする。普段とは全然違う美園。しかし、普段とのギャップで、清二の胸にズギュンと来るものがあった。


「ヤバイ、コレ、ヤバイ。か、会長。コレ、お持ち帰りしたいっす」


 清二のあまりにもおかしな言動に、彼方が、はぁ、と溜息をついて、呆れた声で清二に言う。


「落ち着きなさい、清二君。美園は清二君のモノなんだから、いつでもお持ち帰りしていいから。気絶でもさせてその辺に転がしておきなさい」


 猫を拾ったときの親と子のやり取りのようなことをしながら、……いや、まあ、猫を拾ったときに気絶させて転がしておくのは良くないのだが、そんなことはどうでもよく、清二は、美園の体内に【蒼き力場】を強制的に創りだし、【白夜の力場】を中和するとともに、気絶させて、床に転がした。


「もう、面倒だな」


 そう言って、清二は、フロア全体に、【蒼き力場】を作り出す。その【力場】は、【白夜の力場】を上書きし、全てを正常に書き換える。


「うへぇ、こんな【力場】量、もしかして、化け物か何かなのかなぁ~。零士ちゃんか音音(ねおん)っちに匹敵してるよ~」


 詩春の言葉。そして、【蒼き力場】は詩春にも届く。そこでようやく詩春は、【蒼き力場】と彼女(・・)の関係を悟る。


「そっか~、ひじりんだね」


 ひじりんとは聖のことであり、軽い態度の時の詩春は、そう呼んでいる。


「そう言えば、同じ神醒存在だったな」


「うん、この間会ったばかりよぉ~」


 この間と言うのは、愛美がいた第七典の夢世界の時のことである。


「いやはや、これは、わたしにとって害みたいだねぇ~。おそらく、この空間の【力場】濃度が一定を超えて、リセットがかかったみたいなのよねん」


 そう言って、淡く白く光りだす詩春。


「まあ、と言うわけで、わたしはコレで消えちゃいまーす。グッバイ」


 手を振って姿を消す詩春。清二は、ふぅと息を吐いてから、倒れている仲間達を見る。彼方以外はいまだ寝たままだ。


「ふぅ、暫く休んでいきますか、会長」


「はいはい。……あともう会長じゃないっつーの」

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