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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
白城編
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91話:第二階層

 王司たちが階段を登る中、真希が唐突に言い出した。あまりにも唐突だったため、何人か踏み外しそうになった。


「さっきのおばさん大丈夫かな?」


 真希の唐突な言葉に対して、清二が、王司に問いかけるような目で見た。その目で大体のことを悟った王司は、真希を諭すように言う。


「大丈夫だ。さっきの相手は《光》と《影》の特性を持つ稀有な奴だが、秋世の叔母だぞ。そう簡単にはやられないさ」


 そう言って真希に微笑みかける。彼方が秋世に向かって「名前で呼び捨てられてるんだ」と言って、秋世が「ええ、残念なことに」と言おうとしたが「いいなあ」と言う彼方の声がして言葉を飲み込んだ。


「ねぇ、王司。《光》と《影》の特性を持つと稀有ってどう言うこと?」


 ルラの疑問に王司が、ルラの方を見た。ルラの他にも真希や真琴、美園などは理解できていないようで、王司の方を見た。


「光と影。逆的存在。しかし、両方あって両立するもの。だからこそ、二つとも持っているのは珍しいんだ。そもそも、水と炎のように、己自身で、対するものを宿していること自体珍しいことだが、さらに両方無くてはならないものなんて言うのは稀過ぎる」


 例えば、【氷の女王】なんかとは真逆の力である。【氷の女王】は、一つの強すぎる力を宿すが故に、その氷で、炎すらも凍らせる。しかし、夜空の力は、相反する力を宿し、それらを無理矢理一つにすることで大きな力にしているのだ。面倒くさい上に、個々の力は中途半端である。


「話中悪いが、そこまでだ。なんか、不気味な気配を感じる」


 清二がそう言った。そのとたん、その場の全員に、総毛立つ様な寒気が襲う。何か、得体の知れない化け物がいるかのような、そんな気配。そして、王司と愛美はその気配に覚えがあった。


「ありゃ、これは、第七典さんのお出ましかな」


 そう言って、愛美は、何処からとも無く出したステッキをくるくるとまわす。そして、変身するように言葉を言う。


上位変身(クラスアップ)(☆ミ)」


 パーっと愛美の身体が光に包まれて服が弾け飛ぶ。そして、光の粒子が服を形成する。白スクとハイニーソ、そして、不恰好なロングブーツだ。


「勝利と栄光の使者・魔法幼女うるとら∴ましゅまろん(☆ミ)!弾けて参上!」


 愛美は魔法少女、もとい、魔法幼女へと変身をしたのだった。そして、先ほどの発言に、清二が顔をしかめて、ついでにロリペタ幼女を見て、デレッとして、美園につねられつつ、清二が言った。


「第七典ってのは、第七典神醒存在のことか?」


 清二の問いに答えたのは、聖だった。気がつけば、聖は、清二の横に姿を表していた。その現象に聖を知らない現生徒会組がぎょっとする。無論王司は除く。


 蒼刃聖。体内に常時展開している【蒼き力場】によって蒼色に染まった髪。同じく蒼色に染まった瞳。どこかの中学校の制服を着た彼女は、何処となく浮世離れした雰囲気があった。そして、確かに血縁と言うだけあって、少し王司に似てなくもない顔立ち。中学生の見た目のまま年を取ることのなくなった……正確には思念だけの存在となった幽霊のような精霊である。


「ええ、この先にいるのは間違いなく第七典神醒存在。お兄ちゃん、あれは、中々に手強いよ」


 聖の言葉に清二が「そうか」と頷く。そして、上を見上げ、暫し、考えてから、清二は言った。


「チーム三鷹丘は全員ここに残ってもらう。王司たちは上へ向かってくれ。第七典神醒存在は、俺たちで何とかする」


 そう言う清二を見て、王司は「ああ、わかった」と頷いた。そして、王司は、人数を大体見て、言う。


「秋世はこっちについてきてもらおう。じゃあ、先に行ってる」


「ああ、頼む」


 親子でそんな会話をして、王司は仲間を引き連れ上へと向かう。その様子を見送った清二は、虚空へと呼びかける。気配がするところにだ。


「それで、第七典さん、姿を見せてくれないか?」


 そう言った清二の呼びかけに対して、何も無い虚空から一人の女性が現れた。十九歳か二十歳くらいだろう。


「へぇ~。私のコレ(・・)を見破れるんだ」


 でてきた女性に向かって、布が飛んだ。女性をくるむようにしたが、するりと擦り抜ける。《緋色の天女(スカーレット・マリア)》。彼方の《古具》だ。


「なっ、なにこれ」


 彼方の呆然とした呟き。そして、女性はにやりと笑う。嘲笑する。そして、女性は言う。妖艶な笑みを浮かべながら。


「さぁて、私は、どこにいるでしょうか?」


 そのとき、清二の顔に、初めて動揺が走った。気配が無数にある。そして、先ほどの彼方の《古具》が擦り抜けたのを見て確信した。


「実体は……、どれだ。いや、あの中に無いかも知れないのか……」


 驚愕だった。姿を隠す敵は多くいたが、気配をこうも欺ける者には清二も始めてであった。


「お前は、一体……」


 清二の呟きに、艶美な笑みを浮かべながら、こう言った。


「『夢見櫓の女王』。白城(しらき)詩春(しはる)。第七典神醒存在よ」

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