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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
灼月編
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84話:早朝の生徒会室

 祐司と八千代は、まだ朝早いというのに、何かに導かれるように生徒会室へ行った。普通なら誰もいないはずなのに、いると分かってしまう。祐司は、生徒会室のドアをノックする。コンコンと言うドアを叩く音が響いた。


「開いてるぞ」


 王司の声がした。祐司と八千代は、顔を見合わせ、頷いてから生徒会室のドアを開ける。静かに開いた生徒会室のドア。その向こうには、酷い顔をした王司と紫苑がいた。目の下に隈をつくり、資料を見ていた。


「失礼しまっ、うおっ!」


 失礼します、と言いかけて、思わず驚いてしまった祐司。王司は、実は、祐司と八千代の様子を見に来たついでに、生徒会室に寄ったら死にそうな顔をして必死に書類に目を通す紫苑と秋世に会い、尚且つ、秋世は、これからパーティーだから目に隈つくるわけにはいかない、と速めに帰って寝ることになっていたため、王司と紫苑の二人で大量の書類を片付けていたのだ。ちなみに、学内特別宿泊届けは、最初に祐司と八千代を保健室で見た後にすぐ取っていたので生徒会室に寄ったのは本当に気まぐれだ。


「ああ、祐司と烏ヶ崎さん、か。おはよう。無事で何より」


 王司が、気だるそうにそう言った。その言葉に何も言わない紫苑は、王司の思考を読み取っているからである。つまりは、昨日の一件も全て、紫苑も知っているのだ。


「あ~、青葉君は、彼らに《古具(アーティファクト)》の制御について教示しておいてください。残りは、わたしが片付けてしまいますから」


 そう言って、王司に笑いかける紫苑だが、つらいのは王司にバレバレ、と言うより、王司も紫苑の思考を読めるため、誤魔化しなど効かないのだ。王司は溜息をついた。


「いや、いい。紫苑、お前がこいつらに教えてやれ。あと顔を洗ってこい。少しはさっぱりするだろ」


 そう言って紫苑に休みを与える。王司が紫苑に休みを与えたのは、休んでもらうためと、もう一つ、紫苑も女性なのだ、目に隈ができた酷い顔で教室に行かせるわけにはいかない。せめて軽く休んで少しでも和らげるべきだ、と思ったからだ。


「もう、青葉君てば、わたしの隈なんて、クラスの皆、しょっちゅう見てるんですよ?」


 王司の思考を読んで紫苑が王司に微笑みかける。王司は、手でシッシッと追い払うような仕草を見せる。


「はいはい、少しお花を摘みに行ってきますよ」


 紫苑は、少しふらついた様子で、足取りも覚束ないが、生徒会室を出て、すぐのところにある女子トイレへと向かった。そして、王司は、少し呆然とした様子の祐司と八千代の方を見た。


「すまないな。紫苑……会長がみっともない姿を見せたな」


 そう言って謝る王司に対して、祐司と八千代は、なんと言ったらいいか分からず、「う~ん」と首を捻ってから、顔を見合わせて言う。


「いや、別に七峰会長のみっともない姿に関してはどうでもいいんだけど、やっぱり、王司の正妻は、七峰会長だったんだな」


 祐司の言葉に、王司が、「正妻が紫苑、か。いい得て妙だな」と思う、と同時に、外の女子トイレでゴンッと壁に何かが激突する音が響いた。幸い、聞いていた者はいないが。ちなみに、いい得て妙だ、と王司が思った理由は、秋世のように生徒と教師で後ろ暗い関係になる、と言う事がなく、サルディアの様に表に出てこない存在と言うわけでもなく、彩陽のように姉と弟と言う体裁も存在しない、所謂、清く正しい恋愛相手の見本のようなものだからだ。いや、まあ、前世で姉弟だったと言うことは、今世では関係ないと言うことにしておこう。


「ええ、凄く息があっていて……。阿吽の呼吸と言うのでしょうか。何も言わずとも、通じ合っているような」


 八千代が妙に鋭いことをいい、王司は、書類に目を通しながら、その指摘を笑って誤魔化した。暫くすると、おでこを押さえた紫苑が生徒会室に帰ってきた。


「もう、あ、青葉君、急に正妻とか、変なこと考えないでください……」


 おでこを押さえて拗ねるように言う紫苑は、子供っぽく可愛らしい。そんなことを思う王司の思考を読んで、頬を赤くする紫苑。その様子を見て、八千代が言う。


「も、もしかして、会長さんは、思考が読める《古具》を持っているのですか?」


 八千代の発言に、紫苑は、「あははっ」と軽く笑う。そして、王司の方を見てから、八千代を見て、頷いた。


「ええ、《心音の旋律(ハート・ログ)》と言います」


 その冗談は、王司と会ったときに言ったものと同じだ。その言葉を聞いて、八千代は、カァーと頬を染めた。自分が祐司のことばかり考えていることがバレていると思ったからだ。


「なぁ~んて、冗談ですよ。わたしの《古具》は、《神装の魔剣キルシュ・オートクレール》。二振りの剣を出す能力なんです。わたしが心を読めるのは弟と青葉君だけ。相互で読み合えるのは青葉君だけです」


 真面目なイメージの普段とは違う朗らかな紫苑に、祐司と八千代は驚いた。ちなみに、その外面よりも普段の様子を目にしている王司なんかは、こんな態度の方がいつもの態度に思えるのだ。


「七峰会長も、ア、《古具(アーティファクト)》ってのを持ってるんですね」


 祐司の言葉に、紫苑が王司を見て、「その辺の説明はどうするの?」と問いかけるように見た。そのことで思考を読み取った王司は、すぐさま、「俺に任せろ」と目で返した。


「ああ、紫苑も、ルラも、真希も、俺も、秋世も、この生徒会の人間は全員持っている。ついでに言うなら彩姉も持ってる」


 まあ、彩姉は、もっと別の力を持ってるんだけどな、と思いながら、王司は、説明の続きを始める。生徒会に入る前に自分の予測した、全てを祐司に教える。


「そもそも、この学園は、《古具》使いの観察及び監視下に置くための場所だ。そして、生徒会に《古具》使いを中心に組織することで《古具》使いを裁く《古具》使いの役割を生ませた。この三鷹丘市と言う場所自体が、《古具》使いを監視するためのものだ。だから、警察を含めた公共の施設の人間は、大半が《古具》に関する事情を知っている。お前が前に調べた、この市の警備体制のおかしさや、犯罪者の不逮捕の謎なんかは、そこに関わってくるんだ。全てが、対《古具》仕様になっているんだよ。しかも随分昔から。俺の両親や真希の両親、秋世の姉なんかが、かつて生徒会をやっていたこともあるくらいだからな。

 俺の親父曰く、《古具》は蒼刃蒼天が創ったものだそうだ。形あるものから無いものまで、様々な《古具》が確認されている。しかし、その多くには、未だに秘密が多い。真の姿を現す物とかもある。

 有名な偉人なんかは、大半が、この《古具》を宿していて……」


 話の途中、祐司が、ひそひそと八千代の耳に囁く。耳に息がかかり「ぁあん❤」と八千代が声を洩らしてしまったが、気にせず祐司は続ける。


「八千代。こうなると王司は話が長いぞ」


「は、はい……」


 そう言って、話しを聞き流す準備をした頃に、王司の頭の中で、サルディアが溜息をついた。そして、王司の頭なの中で言う。


(話が長いですわよ!聞く側のことを考えて話しなさいな!)


 突然怒鳴られて、王司の言葉が止まる。そして、紫苑が「くすくす」と笑い出す。至極最もな理由で怒られてる、と紫苑は笑うのだった。


「あ、頭痛ぇ。さ、サルディア、怒鳴るな」


(怒鳴らないと止まりそうに無かったじゃありませんの)


 サルディアが辟易とした口調で言った。ようやく王司の話が止まった。


「あ~、相棒が五月蝿いから、簡単にまとめて話すよ」


 そう言って簡潔に話すのだった。最初から簡潔に話せ、と言いたいのは、その場の王司以外の全員の感想だった。

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