72話:夢想Ⅹ
さあ、夢が覚めるときが来た。夢想……「M」U「S」O。これもある意味MとSを……魔法少女を表す単語……。
王司が言葉につられ、第七典の光の後ろを見た。そこには横たわる一人の少女がいた。それも相当恥ずかしい格好をした。白スクハイニーソの、赤銅色の髪をした、美少女がそこにいた。何処のコスプレ喫茶かコミケ会場だ?と王司は思いつつ、神醒存在たちのほうを見た。
「えっと、この格好は何だ?」
王司の言葉に、神醒存在たちは、目を逸らした。全員、私たちは関与していない、といった様子だ。そしてサルディアが言葉を添えた。
「言いましたわよね。愛籐愛美は、……マナカ・I・シューティスターは、魔法少女であると。その格好はおそらく彼女の戦闘服、もとい、『クラスアップ』でしょう」
その言葉に、王司は、「魔法少女って皆、こんな恥ずかしい格好で戦うのか。いや、マニアには受けが良いのか」などと考えていたが、服装は、あくまで、MS独立保守機構の服装担当である仲間達から変態の称号を得た少女によるものであって、愛美の趣味ではない。
「そうか、魔法少女って大変なんだな」
無難な言葉を選び、こんなコスプレのような格好をして、と哀れんだ目で愛美を見た。まあ、今は、王司も人のことをいえない鎧を着ているのだが、少なくとも恥ずかしくはない。
「……ん?」
そんな時、愛美の目が開いた。赤銅色の睫毛がパチクリと上下する。大きな瞳が、愛美の顔を覗いていた王司を捉える。その愛らしい顔に、思わず王司がたじろいだ。
「え?……うわっ、……?誰?」
思わず愛美が驚いた。ちなみに、王司のことを話でしか聞いたことのない愛美は、王司の顔を実際に見たことはない。
「すっごいイケメン……」
思わず愛美は呟いてしまう。それを聞いた王司は、悪い気はしなかった。しかし、少しでれっとした瞬間、サルディアに、蔑まれた目で見られたような気がして、慌てて顔を取り繕う。
「えっと、あんたが、愛籐愛美、か?」
王司の問いに、愛美が顔を綻ばせる。愛美は、気づいたのだ。彼こそ、自分の待ちわびた予言の王子だと。王司を見て、目を輝かせた。
「うん、わたしが、愛美。待っていたよ。貴方が、ここを訪れるのを。ずっと……」
そう言って、王司に笑いかけた。王司を待ち、恋焦がれた、愛美は、その当人を目の前にして、そして、王司が近くにいるという実感を得るために、思わず抱きついた。寝転がった状態の愛美を覗き込む王司の首に愛美は手を回した。そして、思いっきり抱きしめた。
「さあて、みなさん。わたしたちをこの世界から解放してちょーだい」
ウィンクしながら愛美は第七典に向かっていった。その言葉に、王司が少し疑問の声を上げた。
「ん?この世界は、君……あんたが創ったんじゃないのか?」
サルディアが言っていた言葉の通りなら、この世界は、愛美が創ったものなのだと、王司は思っていた。しかし、事実は違う。
「ううん、この世界は、第七典神醒存在の創った世界。わたしは囚われていただけなの。まあ、こうやって、他の神醒存在が来てくれたお蔭ででられるんだけどね」
そう言う愛美。なるほど、そう言うことだったのか、と王司は納得した。そして、神醒存在が王司と愛美とサルディアを囲む。
そして、一瞬のことだった。眩い光が、三人を包む。そして、世界が暗く堕ちた。そのまま、王司の意識は、沈んでいく。何処までも、何処までも……。
眩い光が差し込んだことで、王司は目を覚ました。いつもどおり、一人ぼっちの部屋。ベッドには、汗がしみこんでいた。酷い寝汗だ。おそらく、あの長い夢の所為だろう、と思いながら王司は、時計を見た。いつもより少し遅い時間。されど、まだ学園には間に合う時間だった。王司は、渋々、制服に袖を通しながらサルディアに呼びかけた。
「なあ、相棒」
しかし、返事はない。どうやら、力を補充しているのだろう。また、いつものか、と王司は、気にしなかった。そして、あれが夢でも現実でもどっちでも良いか、と思う。携帯を開き、一日も経過していないことで、やはり夢だったのではないか、と思いつつ、夢にしてはやけにリアルだったな、などと思った。
そんな調子で、学園への道を歩き出す。大きな欠伸をしながら。少し遅いけれど、まだ間に合うな、などと思っているうちに、少しギリギリになってきたのか、軽く早足で、通学路を歩き、そして、ふと、空を見上げた。特に何もない、普通の空。太陽の眩しさが目に痛い。それでも、夢の中の光よりましだ、と思う。そして、ふと視線を戻すと、シュピードがいた。王司は、思わず驚いて、ゴシゴシと目を擦った。すると、もう、そこには、あのスーパーメイドの姿はなかった。
「気のせい、か……」
そんなことを呟きながら、王司は、自分の教室へと急ぐ。流石に生徒会役員が遅刻するのはまずい。そんなことを思いながら、通学する生徒で賑わう校門を抜け、昇降口を早足に抜け去り、階段を上って、教室へとたどり着く。いつもと変わらない教室の風景。教室に入った王司を目聡く見つけたルラと真希が声を掛けてくる。
「おはよ、王司」
「おはよう、王司」
二人の挨拶に、王司は、軽く笑いながら返す。
「おう、おはよう、二人とも」
そう言って、王司は、自分の席につく。少し騒がしい教室内の喧騒など、気にもせず、腰を下ろしたのだった。




