69話:夢想Ⅶ
王司を知る神醒存在が勢ぞろいしていることなどつゆ知らず、王司とサルディアとメイドは、山越え谷越え、湖畔を渡り、丘を登り、そして、城の前までたどり着いていた。城はそれなりに大きい城だが、古城と言う雰囲気だ。そして、城の天辺は様々な色に光り輝いていた。
「なんだ、あのあからさまに怪しい場所は……」
王司は若干引き気味に、サルディアに問う。サルディアは、「私に聞かれても困りますわ」と、肩を竦めた。そして、大きな門に手を当てる。すると大きな扉は、ギィイイと錆付いた軋む音を立てて開いた。
「なんだ?トラップとか無しか?」
そんな風に王司が言うと、サルディアがバッとローブをはためかせながら振り返って怒鳴る。
「と、トラップがあるかもしれないのに私に開けさせたんですの?!」
その怒鳴り声に、王司は苦笑いを浮かべていた。そして、王司は弁解をするため口を開いた。
「いや、俺が開ける前に、お前が開けたんじゃないか。それに罠もなかったんだし。こっからは俺が先頭で行くから」
そう言って、王司は、我先にと城に足を踏み入れた。そして、その瞬間に、妙な【力場】を感じ取り《勝利の大剣》を呼んだ。
「射て【蒼き彗星】」
鋭い水の弾丸が、放たれる。ゆらりと揺らぐように【力場】が展開されていた。その水を放ったのは、一人の少女。水の弾丸を躱した王司は、その姿を認識する。
まるで深海のように深く暗い青色……濃紺の髪。海のように青い瞳。少女然とした幼児体型に、透通るような肌色。どこかの民族衣装のように胸元と腰元だけに巻かれた布の衣服。そして、普通の存在ではない証である薄透明の蝶々のような羽。
「何者だ……?!」
王司の声に、その少女は、静かに笑った。そして、短髪を靡かせながら王司に向かって言う。
「スーラ。原初の精霊にして水の精霊王スーラだ」
原初の精霊、と言っても、単なる小世界における【力場】……【霊子力場】と【霊力】を持つ存在のことであって、神醒存在達の精霊とは別の存在である。
「熔け【炎熱の紅牙】」
更なる追撃は、スーラとは別の方向からだった。超高熱の炎の弾丸が乱れ飛んだ。王司は、《勝利の大剣》で一薙ぎし、払い落とした。それを放ったのもスーラと同じで少女だった。
まるで太陽の紅炎の如き赤っぽいオレンジ色の髪。日差しのように黄色い瞳。少女然とした幼児体型に、焼けた肌。スーラと御揃いのような服装。そして、背中に生えた薄透明の蝶々のような羽。
「スーラよ、早計なのは相変わらずだな。レンク。原初の精霊にして火の精霊王レンクだ」
そう言って、ゆらりと【霊子力場】を展開させる。そこにさらに人が来る気配を王司は察知した。
「翔け【天空の走者】」
空気が乱れ、カマイタチのように風が空間を切り裂いた。王司は、ギリギリのところで躱した。
「二人とも足が速いな……。エーラ。原初の精霊にして空の精霊王エーラだ」
爽やかな草原のような新緑の色の髪。蒼穹のような瞳。少女然とした幼児体型に、透通るような肌色。どこかの民族衣装のように胸元と腰元だけに巻かれた布の衣服。そして、普通の存在ではない証である薄透明の蝶々のような羽。
まだ続く。別の攻撃が王司へと迫る。土の塊が砲弾のように王司に向かって飛んでくるのだ。それを王司は、【蒼刻】の発動による【力場】でいなした。
「弾け【槌重ね土竜】」
それが攻撃の名前だったのだろう。攻撃をした当人は、鈍色の髪をし、黒
い瞳をした、浅黒い肌の少女。同じく羽が生えている。
「ヴューム。原初の精霊にして土の精霊王ヴュームだ」
この辺りから、王司は、既に面倒になっていた。しかし、最後の攻撃が続いた。再び無数のカマイタチが吹き荒れた。
「絶て【風塵の結界】」
そのカマイタチの量は先ほどよりも遥かに多い。しかし、王司は【蒼刻】したことで、辺りに【力場】の多重結界を張ったことで、ノーダメージだ。
「この能力エーラと被るから嫌いっ。シューティ。原初の精霊にして風の精霊王シューティよ」
流石に、五人も出てくると相手が面倒になる王司。「はぁ」と溜息をついたかと思うと、体中に【聖痕】を浮かばせる。
「面倒だから、一気に片付ける」
王司がそう言うと膨大な【力場】が形成された。その【力場】の大きさに、【力場】自体の種類が違うとは言え、五人は驚きを隠せなかった。
「この【力場】っ……?!アンリーやイリューナ並みっ」
驚きを隙と見た王司は、気合の籠もった一撃を撃ち放つ。
――ズドォオン!
撒き上がる土煙。




