68話:夢想Ⅵ
愛美の話を聞いた第七典は、驚くように五度点滅した。そして、少し上ずった慌てた声で独り言のように呟いた。
「勝利のルーンに通ずる者……。まさかっ、ブリュンヒルデ?!」
第七典の叫ぶような声に対して、愛美は、訝しげな顔をした。意味が分からなかったからだ。
「ブリュンヒルデ?」
愛美の疑問の声に、第七典は、その無知に驚くように八度素早く点滅した。そして、その恐ろしき存在について説明をする。
「ブリュンヒルデとは、第五典神醒存在のことよ。最悪の神醒存在、ブリュンヒルデ。【炎中で眠る姫騎士】と呼ばれた元ワルキューレよ」
その言葉に、愛美の表情が変わった。神醒存在のことは、割と魔法少女達の中では有名な話だからだ。
「あれ、ってことは、他の勝利の天使って言うのも」
愛美の言葉に第七典は、考えるように一瞬光を失い、一度点滅する。そして、予想を立てた。
「おそらくシンフォリア天使団の超高域、サンダルフォンでしょうね。サンダルフォンは、元々裁きの天使だから」
天使たちは、所謂《聖具》名の方が有名である。一般的に知られているのも《聖具》名称の方だ。
「サンダルフォン……【断罪の銀剣】のサルディア・スィリブローだね」
愛美の台詞に、第七典は、笑うように点滅する。
「貴女がここに囚われてから早三百年。貴女は、もし、青年に逢ったとしてどうする気なの?」
そう、第七典はそれが知りたかった。ここには、愛美自身の意思で囚われているわけではない。愛美は、第七典に因果の呪縛で囚われている。彼女をここから解放できるのは、同じ神聖存在の残りの六人の誰かか、それ以上の存在の誰かのみ。
「大丈夫だよ。言ったでしょ?わたしの友達は、未来視の使い手だって」
そう、それは、未来を知っていると言うことである。第七典は、それでも続けて愛美に言う。
「何を見たかは知らないけれど、ここを簡単に抜けられると思わないことね。あくまで、この運命、幸福の呪縛は、私の領域。神醒存在でも二人以上こないとこの世界からは抜けられないわよ」
そう言って、光る第七典の横に急に淡い緋色の光と蒼い光と黒い光と金色の光と虹色の光が現れた。それの登場に第七典は驚愕した。
「貴方達は、……?!」
その驚愕の声にも、光たちは点滅し続けた。そして、緋色の光が口を開く。発光体に口はないのだが。
「あら、それはここにいる私たちがいればできると言うことですか?」
そんな風に言うその発光体の正体を第七典は知っていた。そして、驚いたように三度点滅。
「第一典……。まさか、貴女がこんなところにでてくるとは思わなかったわ……」
その言葉に、第一典神醒存在、狂ヶ夜緋奏が「うふふふ」と笑うように点滅をした。
「ええ、まあ。娘の成長を少し前に見てきましてね……。その後、色んなところを転々とさせてもらっていたのですが……。少し暇つぶしを兼ねて偶然寄ったところでこんなにも揃うとは恐ろしいですねぇ」
緋奏の言葉に、金色の光が点滅しながら喋る。喋ると言うより思念を飛ばしているようなものなのだが。
「まったくだね。私も、順々に神醒存在の縁の地を回っていたら、偶然にもこんなところで会うとは……」
金色の光の正体も第七典は知っていた。そして、さらに驚いたように三度ほど点滅をした。
「第二典……。偶然ですって?」
第二典神醒存在、リューラ・ハイリッヒ・ステラ。【流星を見上げる者】だ。彼女は、声を第七典の言葉に答えを返す。
「他の面々がどうだかは知らないが、私がここにきたのは偶然に過ぎない」
そんな風に言ってのけたスターゲイザーに、同意するように黒い光が点滅しながら言葉を発した。
「ええ、わたくしも、ここへ来たのは偶然ですわよ。戦乙女の名にかけて誓いますわ」
その言葉に、第七典が光った。先ほどまで噂をしていた相手だけに驚きが隠せないのだろう。
「第五典……。貴女が来たのは、貴女の呪いを受けた少女と繋がりを持った青年がこちらに来たからではなくて?」
第七典の言葉に、第五典神醒存在、ブリュンヒルデが、五度ほど点滅してから、不思議そうに聞く。
「わたくしに呪われた……?あの九龍彩陽のことですの?あの子と繋がりのあるということは、あの子の『恐れることを知らない男』と言うことですわよね?この世界にいるんですの?」
本当に知らないと言うようにブリュンヒルデが言ったのを聞いた後で、蒼い光が言葉を放つ。
「九龍彩陽の『恐れることを知らない男』って、青葉王司、よね?」
蒼い光の発言に、ブリュンヒルデは「さあ」と答える。そして、そのやり取りに、第七典が反応を見せる。
「第六典……。貴女は、何故知っているのかしら?」
その言葉に、第六典神醒存在、蒼刃聖は、第七典の質問に、飄々と答える。
「そりゃ、私の甥のことだもの。知っていてもおかしくないでしょ?」
そう言って点滅する。ちなみに、先ほどからチカチカしていて愛美は、眼がおかしくなりそうなので窓から外を見ることにしている。そして、虹色の光が追加で喋る。
「青葉王司って、ソウジさんの子孫の青葉王司くんのことですよね。って、シイロ引っ付かないでって言っているでしょう?」
世界が不安定なため、虹色の発光体の奥には二人の人物がいるらしい。虹色の光の言葉に、聖が問う。
「あら、第三典、貴女、知り合いなの?」
聖の言葉。第三典神醒存在、アデューネがその言葉に、ピカピカ光を放ちながら、答える。
「ええ。まあ。ってだからシイロ……ちょっ、くすぐったいですよ。……えっと、この間、少しあって、旧友のサルディア……シンフォリア天使団・超高域のサルディアに呼ばれて会いました。いま、サルディアの神遣者らしくて……ちょっ、きゃっ、ぁん❤。ど、何処を触っているんですか、シイロ!」
なにやら色っぽい声が混ざりながらアデューネが言った。そして、第七典が驚いたように言う。
「じゃあ、偶然にも第四典を除く全ての神醒存在が偶然集まって、そして、偶然にも第一典、第二典、私を除く全員が青葉王司と知り合いってこと?」
第七典の言葉に、スターゲイザーが、「あっ」と反応を見せる。何事かと、みんな点滅をする。そのたびに、背後でチカチカし、愛美の気分が悪くなっている。
「私も青葉王司とは知り合い。先祖の蒼衣と蒼子の関係で、この間、聖の生まれ育った場所を見に行ったときに遭遇したわ」
そんな風に言われ、さらに第七典が驚きを見せるが、そこにさらに緋奏の言葉が追加される。
「会った、と言うほどでは有りませんが、関係性がゼロとは言えませんね。まあ、それでも微々たる関係性ですが、私の娘をその青葉君の父に救ってもらった程度です。そうですよね、聖さん」
聖は、「ええ」と点滅した。さらに第七典は驚き発光をする。そして、愛美が発光に耐え切れなくなって気を失ったのだった。




