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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
夢想編
65/103

65話:夢想Ⅲ

 王司とサルディア、メイドは、冒険へ出る事となった。しかし、いまいちテンションの上がらない王司は、あまり景気良くなさそうに、とぼとぼファリエルの丘の先の城を目指していた。どうやら、王司たちがいた場所からそう遠くないらしいのだが、間には化け物が巣食う洞窟や森があって通るのが難しいと言う風にメイドが言っていた。


「それにしても、石化の化け物と言えば、メデューサとかバジリスクとかいろいろあるけどよ、そんなん相手に勝てるもんなのか?俺の予想だと、ここで死ねば、現実の俺は一生目を覚まさないだろうし、かなりやばいんじゃないのか?」


 王司の弱気な発言に、サルディアが「はぁ」と溜息をついた。王司は、その溜息を聞いて、反論する。


「だってよ、ここは、あくまで夢だぜ。どんなありえない設定の化け物が出てくるかもわかんねぇ。不死身なり何なりがでたらかなりまずいぞ」


 その王司の台詞に、サルディアが呆れた顔で、王司の言葉に反論する。


「大丈夫ですわよ。不死身相手だったらどうとでもなりますわ。貴方は運がいいことに、《勝利の大剣(フラガラッハ)》の使い手ではありませんの。その剣は如何なる盾も鎧も関係なく切り裂き、相手に傷をつければ、その傷は治る事がない伝説の剣ですわよ」


 そう言えばそんな伝承もあったかな、と王司が首を捻った。どうやら、王司はいつもの調子が出ていないようだ。


「それもそうか。それにしてもなんだろうな。夢の中だからなのか。冷静さよりも焦りと暴力で解決しようとする思考が前に出てきそうになるんだが……」


 その言葉に、サルディアが目を丸くした。そして、何故そうなっているのかの検討も大体ついていた。


(おそらく、この世界に置けるなんらかの事象が、【蒼刻】を呼び覚まそうとしているんですわね)


 そう思ったが、あえて、それを口には出さなかった。あまり自覚させない方がいいだろうからだ。【蒼刻】は、その血を呼び覚ます魂の慟哭。身体の中に【蒼き力場】を展開させることから、思考が無意識に【力場】の制御へ回り、思考より直感で行動しがちになってしまうからだ。即ち、現在、王司の中に僅かに【蒼き力場】が展開され始めているのかも知れないということである。


「おっと、そんなことを言ってるうちに洞窟か。随分近いな。街を出てもないところに洞窟って、この夢はどんだけ適当なんだよ」


 そんな風にぼやきながら、王司を戦闘に、一行は洞窟に入った。





 洞窟は、そこまで深いわけではなさそうだった。その上、ご丁寧に松明に明かりが灯っていて、暗くなっているところがなく、楽に先に進めそうだった。その上、入り口付近には、噂の魔物はいないようで特に何事もなく進んでいけた。


「本当に怪物がいるのか?なんもいないけど」


 王司の言葉に、メイドが「私が言ってる事が嘘だとでも言いたいのか?つーかあんた等の方がよっぽど胡散臭いっつーの」と言う様な目で王司を見た。


「待って下さいな。この先に何かいますわ」


 サルディアが静かに怒鳴った。その言葉に、王司の意識が切り替わった。そして、即座に《勝利の大剣(フラガラッハ)》を呼ぶ。


「何の音ですの?」


 ズルズルと何かを引きずるような音が聞こえ、サルディアが不可解だ、と眉を顰める。しかし王司は気づく。


「蛇、か」


 そう言って、気づけば、王司の体内の【青き力場】が大きく形成されていた。既に銀に染まった髪が蒼に染まり始め、蒼白く発光する。それこそ、蒼銀のオーラ。銀に染まりし青年が蒼に染まり、交じり合う。


終極神装(ラグナロク)・モード(ブルー)


 気がつけば、銀色の大剣であった《勝利の大剣(フラガラッハ)》は、淡く蒼白いオーラを纏っていた。


「え……?」


 サルディアの唖然とした声。あまりにも一瞬で、姿が変わったからだ。ずっと前からこの状態になる準備がしてあったかのように一瞬の変化。


「ハッ!」


 そして、足元に、【力場】を形成し、遠方に作った【力場】と位置を入れ替える。ショートワープ、超短距離転移だ。この程度のことでもかなり【力場】を使いこなせなくてはできない芸当である。清二ですらまだできないだろう。王司は、そう言う意味で破格、規格外の青年なのだ。何でも使いこなす、と言う様な。


「白蛇……、石化の瞳持ちかっ!」


 ショートワープで、蛇との距離を詰めた王司。この蛇こそ、魔法少女三百人を喰らい、まだ多くの石化で動けぬ者を残したまま消滅した石眼の白蛇(メデューサ)の通称で恐れられた、化け物である。


「だが、関係ねぇっ!」


 全てを悟りつつそれを一蹴する王司。思いっきり飛び上がり、《勝利の大剣(フラガラッハ)》を振り下ろした。その瞬間、切っ先から【蒼き力場】が噴き出し、まるで刀身を延ばしたようになる。そして、石眼の白蛇(メデューサ)の身体に大きな切れ込みが入った。


「ハハッ、邪魔だっつーの!」


 いつもの悪人のような笑みが、より一層、悪人の如く見える笑みを浮かべ、王司は、石眼の白蛇(メデューサ)と距離をとるため大きく跳躍した。

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