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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
夢想編
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64話:夢想Ⅱ

 夢に見ていた。蒼銀の青年。運命の彼。だから、彼女は切に願う。自分の友が未来視した銀の天使を眷属にする正義の使者にして運命に囚われた【蒼】の末裔。絶対的正義と絶対的勝利を齎す【希望】の力。想いと夢を抱え、戦いの果てに死と絆を齎す【絆】の末裔。その力を自分のために、使って欲しいと。もう長くはない命を、少しでも有効に使うために。


 そして、囚われた。幸福な夢の彼方へ。でも、囚われただけでは、ダメだった。彼女は、欲する。蒼銀の青年を。そうして、今宵、彼女の幸福へと青年の夢が繋がった。


「お望みどおり、貴女の愛しの(ぼー)やは、この幸福深層に訪れたようよ?」


 そう声を発する眩い光。それは、この世界を構築する本人。第七典神醒存在だ。声色は、まるで妖艶な大人の女性のようだった。


「そー。やっと、やっと来てくれたんだね」


 そして、城の天辺。ファリエルの丘を越えた先にある夢見櫓の城。その頂点にて、燃え盛る紅蓮のような赤銅色の髪の十歳になるかならないかの女子がいた。


 赤銅色の髪を頭の上で大きく一房に結んであり、それは扇状に広がっている。幼い体型の通り、平たい胸だ。顔は、童顔、童女なので童顔で当たり前なのだが。大きくパッチリとした目。その瞳は七色の煌きを放っている。それは彼女だけが持つ特性、【勝利の魔眼】。どの伝承にも記されていない、彼女の一族に伝わる魔眼。そして、その瞳を縁取るようにまっすぐと長く伸びた赤銅色の睫毛。服装は、とても普通とはいえない、白のスクール水着と白のハイニーソ。不恰好なロングブーツ。肩に取り付けた不似合いのマント。手に持った☆と◇を組み合わせたようなモチーフのステッキ。その風貌は、まさに魔法少女(MS)だ。


「貴女、その格好、どうにかならないの?見ているこっちが恥ずかしいんだけれど」


 光を点滅させながら第七典が言った。確かに恥ずかしい格好である。普通に痴態を晒しているとしか思えない。


「仕方ないじゃん。これ、わたし達の正装なんだから」


 そう言ってはにかむ愛美。そう、愛美は魔法少女なのだ。と書くと、何の妄想だ、と言う話になりかねないが、一片の嘘なく、彼女は魔法少女であり、魔法の力を使うことができるのだ。そんな彼女達は、「正装」と言うより、「変身後」の姿があり、変身する事でより上位の力を使えるようになる。所謂「上位変身(クラスアップ)」である。それこそ、大小差はあるけれど、王司とサルディアの「終極神装(ラグナロク)」や彩陽のブリュンヒルデ化などもそれに該当する。


「八百歳の人間が、そんな格好しているとは……、寒気がするわね」


 第七典が引き気味の声で言った。ちなみに、愛美は、とある誓約の代償として永遠に年を取らない身体になっている。身体が年を取らないだけで普通に死ぬので不老不死ではなく、単なる不老だ。


「八百歳でも見た目は幼女ですぅー。魔法幼女うるとら∴ましゅまろん(☆ミ)ですぅー」


 魔法幼女うるとら∴ましゅまろん。何処となく、カードゲームにでてきそうな名前が入っている気がするが、かつての魔法少女……もとい魔法幼女だった頃の愛美の名前だ。∴の記号は、ゆえに、と言う意味であり、「魔法幼女うるとら∴ましゅまろん」とはウルトラゆえに「ましゅまろん」と言う意味である。結局意味分からん。


「恥ずかしくないのかしら?まあ、貴女がどう名乗ろうと関係ないのですけれど。それよりも、あの運命の彼は、きちんと戦えるのかしらね」


 第七典の意味有り気な言葉に、愛美は、頬を膨らませた。まるでハムスターのようだが、ハムスターではない、幼女だ。


「どーゆー意味か?」


 愛美の言葉に、第七典が、笑うように細かく点滅した。そんな点滅の差異で表情が即座にわかる場合は病院へ行くことをお勧めしたい。


「この世界は、私と貴女の夢から構築された世界。幸福の世界には、貴女の絶望も落ちている。と、言うことは、アレがこの世界にいるかも知れない、と言うことよ」


 第七典の言葉に、膨らませていた頬は、元に戻り、顔が蒼白になる。そしてわなわなと震えだす。


「まさか、アレを放っているのー……?!」


 アレ、と言うのは、かつて愛美が対峙した恐るべき怪物。全ての魔法少女を脅えさせた脅威の怪物。


「放っているとはよくないわね。私の意思じゃないわよ。強いて言うなら貴女の恐怖がアレをこの世界に解き放ったのよ。石眼の白蛇(メデューサ)をね」


 石眼の白蛇(メデューサ)。その愛称で恐れられたとある世界に巣食っていた怪物。愛美が年を取らない、要するに、一生魔法少女でいる代償に倒した三百人もの魔法少女を喰らった化け物である。


「で、でも、きっと、彼は、……祝福の子。予言の王子である彼ならば、負けない。わたしはそー信じる。際限なく勝利に愛された彼なら、例え石眼の白蛇(メデューサ)でも倒せるはずだよ」


 そう言って、愛美は笑った。何処までも王司を信じているから、笑ったのだ。それを見て、第七典は、素早く五度点滅して、言う。


「そう、貴女がそこまで言うのなら、きっと、勝てるのでしょうね。でも、忘れてはならないわよ。石眼の白蛇(メデューサ)は、貴女の同胞を三百人も喰らい殺しているほどの強敵。幾ら強かろうと、危険は多い。未だに動けぬ者も多く残っているのでしょう。しふぉんとか」


 しふぉんとは、「魔法幼女すぺしゃる≠しふぉん」のことである。


「大丈夫。彼は、そんなに柔じゃないよ。絶対に負けないもん」


 愛美はそう強く断言するのであった。

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