49話:束の間の日常
清二が、ボロボロになって紫苑を抱えている様子を見て美園や彼方が仰天した。滅多に傷を負わない清二が此処までボロボロになっている様を見たら流石に驚くのだろう。
「ちょっ、ちょっと清二君?!何があったのよ?!」
彼方の声に、清二が「あははは」と照れ笑いをする。そして、紫苑の蒼っぽい髪に秋世が、「やっぱり」と頷く。
「清二さん、やっぱり、彼女、【蒼刻】を使えるんですよね?」
その言葉に、清二は秋世を見て、前にもあったのか?と目で問う。秋世は頷き返す。それだけで十分だった。
「王司は、【蒼刻】が使えるのか?」
清二は一応、秋世に問うてみる。秋世は首を横に振った。それに対し、サルディアが突如割って入った。
「一度きり、ですわね。発動しかけたことは何度かありますけれど、私が知る限り……いえ、私が聞いた限り、おそらく一回きりだと思いますわ。十二年前、私に会う直前。その一回きりだと」
そう、統轄管理局烈火……時空間統括管理局飛天王国理事六華直属烈火隊四番隊隊長こと四門、霧羽未来。彼女と王司がであったとき、そして、彼女が王司を庇って刺された時、王司の枷は外れ、【蒼刻】を解き放っている。
「あのビルの瓦解か……。まあ、いい。会ちょ……彼方さん、俺は、そろそろ、剣帝大会に出に行きますから。なるべく詳細調べといてください。後でいろいろやっと来ますから。美園、それじゃ、また今度な」
そう言って、清二は、紫苑を壊れたソファに寝かして扉から出て行った。それに次いで、彼方と美園も出て行く。美園は名残惜しそうに王司を見ていたが。
◇◇◇◇◇◇
王司は、翌朝、生徒会室で目を覚ました。翌朝、と言うのは、王司たちが因果の狭間に行った日の翌朝と言う事である。
「あ~、寝ちまったのか……」
王司は、そう言うと、上体を起こす。その際に右耳にチリンと言う音と重みを感じ、その違和感の正体がなんだろうとスマートフォンを鏡代わりにして見る。
「あ?ああ、神装した時の……」
何で消えてないんだろう、と思いながら、思考で、銀の世界へ行く。サルディアに呼びかけてみた。
「サルディア」
その言葉に返ってくる声がない。偶にあることだ。別に繋がりが薄くなっているとかではなくおそらく寝ている。昨日力を使いすぎたのだろう、と王司は推測した。しかし、右耳につけたままで教室に行くのは少し気が引ける、と王司が思って、再びスマートフォンの画面を見て気づく。
「うわぁ。髪の毛の何本かがナチュラルに銀色に染まってる。後遺症か?」
などと誰か居るわけでもないのに、オーバーリアクションで演技する。それは平静を保つための演技。
「で、どうすんだ?」
自問自答を繰り返す。そして、諦める。王司は、とりあえず、どうしようもないときは「なるようになる」と思って、行動をする。そして、本当になるようにしかならないのだ。当たり前ではあるのだが。
「とりあえず、教室に行くか」
そうわざとらしく呟き、生徒会室を出る。もう始業のチャイム寸前と言うこともあり、廊下には誰も居なかった。
「はぁ」
タン、タンと上履きが廊下に当たる音だけがしばらく空間を支配する。そして、チャイムが鳴った。お馴染みのチャイムを聞きながら、王司は歩く。すると後ろから、慌しく駆けてくる音がする。
「お~い、そこのちょっと不良っぽい人、遅刻だぞぉ~!」
そうやって叫ぶように騒ぐのは、王司の友、祐司だった。そして、王司に駆け寄って初めてそれが王司だと気がついた。
「って王司?!何それイメチェン?!かっけぇ!」
無駄に騒がしい祐司に微苦笑を浮かべながら、王司は、祐司を見て言った。
「ははっ、まあ、いろいろとあってな」
チャラと右耳の十字が揺れた。風に揺れる髪の中には、やはりまだ、銀色の部分が幾分残っている。しかも、染めた、と言う感じはなく、自然な銀髪のイメージに近いのがなんとも言えない。一本や二本ならば白髪と言って誤魔化せるかも知れないが、流石に無理に近い。
「ふぅん?まあ、いいけどっ。それで、チャイム鳴っても歩いてるってことは、今日、うちのホームルームないとか?」
そんな風に聞いてくる祐司に、王司は、「あ~」と少し声を出してから、にこやかに、わざとらしいくらい、にこやかに笑みを浮かべて言った。
「俺、遅刻覚悟で普通に歩いてたから、お前も普通に遅刻な」
「ええぇ?!」
王司が歩いていたのですっかり安心しきっていた祐司に衝撃が走る。そして、まくし立てて王司に言う。
「い、急ごうぜ、王司!い、今なら、まだ許してもらえる!」
そう言って、王司を急かす祐司。王司は、祐司に引っ張られて教室へと向かうのだった。
祐司が廊下を駆けて、慌しく扉を開けて教室に入る頃には、朝のショートホームルームが終わる直前だった。
「せ、セーフ?」
祐司の声に、秋世が、こめかみを押さえながら、しばらく、時間を置いて、一息して、怒鳴る。
「セーフな訳ないでしょ!」
その怒号に、祐司が「うぉっ」と思わず叫ぶ。起きたばかりの脳にその声が響き、頭を押さえる王司。
「朝っぱらからでかい声出すなよ……、頭に響く」
チャラと右耳の十字飾りを揺らしながら、王司が秋世に言った。すると秋世は驚いたように王司を見た。
「あら、起きてたの?」
そんな風に言うのはルラ。
「寝癖ボサボサだよ、王司」
そんな風に王司を笑うのは真希。
「まだ髪と耳飾りは、直ってないのね」
そんな風に肩を竦めるのが秋世。ちなみに、今日は、紫苑は学校に来ていないのだが、それを知っているのは秋世だけだ。
「直るって、なんすか?」
祐司が、そんな風に、秋世の言葉の怪しい点を指摘した。それをまずいと思った秋世は、咄嗟にフォローする。
「えっと、昨日少し、諸事情があって、王司君の髪を染めたり、王司君にネックレスやらイヤリングやらを付けたりしたんだけど、元に戻りきらなかったり、イヤリングが外れなかったり、それでこの有様なのよ」
そんな適当な誤魔化しでも、皆あっさり誤魔化されたのは、王司の性格や生徒会と言う事が大きいのだろう。
「そう言えば、うちの生徒会って変わってるよな」
そんなことを急に言い出す祐司。
「この学園、文化祭も体育祭もないのに、中々に忙しそうだよな」
その言葉に、再び秋世が怒鳴る。
「学園の業務全般押し付けられれば忙しくなるのよ!!」




