45話:黒き魔神
白き光を破るように、漆黒のスーツを纏い浅黒い肌と黒い髪の女性が因果の狭間へと現れた。
真っ黒な、それこそ墨を被ったように真っ黒な髪。
日に焼けた程度では成り様が無いほど浅黒い肌。
そして、真っ黒な、それこそ闇に紛れるための服のように真っ黒なスーツを着ている。
そう、本当に黒い。「漆黒」、「真黒」、様々な表現があるだろうが、本当に黒い。
紫の炎の中に、一人佇む真っ黒なその女性は、微笑んだ。まるで、炎に破壊された全てに興奮を感じるように。破壊に心を振るわせるように。
そして、その眼が光る。黒い右目とは違う、金色の左瞳。
紛うことなき、魔神バロールの登場だった。
「《勝利の大剣》!!」
まだ、その登場に紫苑と王司以外気づいていないが、だからこそ、王司は、《勝利の大剣》を叫んで呼んだ。
「王司?!」
美園の驚愕の声よりも先に、王司は、美園を突き放していた。なぜならば、黒い刃が王司へと迫っていたからだ。即座に黒い刃に《勝利の大剣》を振り替えす。
「ぐっ!」
その攻防で気づいていた紫苑以外の気づいていなかった面々がバロールの出現に気がついた。
「切り裂けっ!」
王司は《勝利の大剣》でバロールを潰しにかかった。しかし、バロールは《勝利の大剣》で傷つかない。全てを防ぎきる。
「なっ、《勝利の大剣》が効かないっ!」
王司の剣を全て防ぐ魔神。それを見た紫苑は、恐ろしい相手だと理解する。フラガラッハは、全ての鎧、盾を無効化し切り裂く。しかし、バロールにそれが効いていないのだ。おぞましい。
「《刀工の龍滅刀》!」
美園が即座に龍滅刀を手元に造り上げるが、それらは、バロールには意味をなさない。なぜなら、美園の力は、対龍戦用武装であり、バロール相手には分が悪い。
「一体、何?!」
秋世の叫び声は、バロールの炎の弾幕が燃え立つ音によってかき消される。その炎は、紫色をしていた。
「【我は、バロール】」
彼女……いや、それ、バロールが言葉を発した。その声は、酷く歪で暗くおぞましい声だった。
「バロール……!魔眼の魔神かっ!」
王司がそう言った。それと同時にサルディアが警告を告げる。その警告こそ、王司の指針。
「奴は……、奴は、【悪】なる者!【正義】の敵対者!【断罪】すべき、【邪悪】!」
その瞬間、王司とサルディアは一つになった。主従とか相棒とか、そんな概念なんてもはや二人の間にはない。一心同体、完全に、王司とサルディアと言う二人が一つになった瞬間。もはや、紫苑にすら二人の間に割り込むことはできないだろう。それほどまでに、唯一無二の存在になったのだ。
「【正義】は【勝つ】!絶対に!」
その言葉は、王司のものだろうか、サルディアのものだろうか、或いは、両方……。そして、その言葉と同時に、王司の周囲に莫大な【力場】が形成される。【力場】と言う概念は、元来、《古具》にはない概念であり、それを司るのは、神醒存在などの一部のみ。だが、王司は、それを形成している。それは、王司の中にあるサルディアの存在とサルディアの持つ力があるからだ。
「だからっ、力を貸しやがれ!サルディア!」
そして、王司はその名を呼ぶ。サルディアの名を。「相棒」ではなく「サルディア」と。その名を呼ぶということは、力の行使を意味する。
バロールと王司の攻防に、唖然としていながらも、加勢をしようとするルラと真希。しかし、それを紫苑と秋世が止めた。
「今は、だめよ。巻き込まれるわ」
秋世の言葉に、ルラと真希がたじろぐ。さらに紫苑が言葉を加える。紫苑も、この現状をいまいち把握できていないのだが、自分と王司が繋がらないという異常な事態から、何が起こるか分からないということが分かっている。
「今の青葉君は、普通の状態ではありません。おそらく、あの」
相棒と言う力を解放するのでしょう、と言う言葉は続かなかった。先に、王司の方に変化が巻き起こる。まるで因果の狭間を壊すような大きな振るえ。
眩い銀色の光。それは、驚くほどに明るい。後光のように王司に射すその光は、徐々に王司の手元に集まっていく。そして、それは、剣の形を成す。大きな、剣の形に固まる。まるで、光の剣。
それこそ、サルディア……【断罪の銀剣】のサルディア・スィリブローの持つ本来の力。天使たちの罪を裁く【断罪】の剣。サルディアと同じく銀色に輝きを放つ剣。




