41話:龍神の子等
そして、そんな話題を挟みつつも、ようやくリテッドが口を開いた。龍神の元へ来てから大分経つのにやっとである。
「それで、龍神様。お願いがあって秋世嬢方に連れてきてもらったのですが、聞いてもらってもよろしいですか?」
リテッドの言葉に、龍神が「ふむ」と頷いた。おそらく許可しようと言う意味なのだろう。
「我々の剣帝大会に、参加する御仁を募っております。龍神様、貴方のお子さん達の中で剣が達者な方はいらっしゃいませんか?」
リテッドの言う龍神の「子」と言うのは、実の子ではなく、彼(と言っていいのかは疑問だが、)が育てた【裡に龍を内包せし者】である子供達のことである。その【裡なる龍】は、龍神のような似非龍ではなく、本物の龍である。
「ふむ、我が子等の中で剣が得意な者、か。居らぬな。強いて言うならば、雷璃だろうが。そもそも、我が子等はすでにもう巣立った身。今や何処で何をしているのか、検討もつかぬよ」
そう、龍神の子等は、【裡なる龍】の呪縛を自ら御し、もはや、龍神の元を去った身。ほとんどが自由に暮らしている。未だに龍神と交流があるのは、チーム三鷹丘の氷室白羅だけだ。
「そう、ですか。残念です」
そう言ってリテッドは悲しそうな顔をする。参加者を探しに、こんな遠方の地にまで来て、誰もいない、と言うのだから悲しくもなるだろう。しかし、そこに、龍神が朗報を齎す。
「だが、そう言えば、清二の奴は、今回の剣帝大会に出場すると言っていたな。だから、我が子等が参加しなくても十分に盛り上がることだろう。何せ、清二は『蒼刃』の血筋なのだからな。まさに剣帝大会に御誂え向きだろう」
その言葉に、リテッドは大変喜んだ。その喜びようとしては、まるで散歩に行くと分かった時の犬のようだ。
「では、な」
そう言って、即座にリテッドを時空の狭間から元の世界(リテッドにとっての元のと言う意味で、決してあの生徒会室に送り返したわけではない)に返した。
「龍神の子、か。どんな奴等なんだろうな」
それは、王司の純粋な疑問だった。そして、それに答える龍神。龍神は、懐かしむような声で言う。
「生まれた時点で化け物とされた哀れな【裡に龍を内包せし者】たちだ。合計で八人居る。しかし、二人ほどは、もう、居ないがな。【血塗れ太陽】や【黒髪の闇喰い姫】、【銀髪の雷皇女】、【第六典神醒存在】なんかが有名だな」
その龍神の言葉に、サルディアが大きく反応した。その所為で、王司の頭と紫苑の思考に痛みが走った。
「ブラッティー・サン……?!あの【氷の女王】の息子が?!まさかっ、だとしたら彼は何と言うスペックなのですの?!希咲家の息子にして、四之宮の養子でありながら、【輪廻】の三縞を隔世遺伝し、天月流剣術を全て習得したうえ、舞野の秘宝を身体に埋め込まれた五王族全てを知るもの。それでいて、二階堂の【赫】を持つ者であると言うだけでも異常ですのに、さらに【第六龍人種】だとでも言うんですの?!それは、もはや、人智どころか、神……、いいえ、【神】の領域ですら越えている存在ですわよ?!」
王司は頭に響き、頭痛と眩暈がした。紫苑も同様である。だが、さらにサルディアは続ける。
「それに、統括管理局の銀髪の雷皇女と黒髪の闇喰い姫が此処の出身でしたとは意外ですわ……。特に、雷皇女、細波雷璃。かの【雷霆の巫女】が、【第六龍人種】だったとは……」
サルディアは天使だけに様々なことを知っているようだ。しかし、それらに関しての情報元は、全てアデューネか、義姉のメルティア・ゾーラタである。
「細波雷璃……?」
王司は、サルディアの言葉の中で、きちんと人の名前だと判断できたものを声であげる。それに対して、龍神が訝しげに声を上げた。
「知っているのか?」
その問いに対して、王司は何と答えればいいのか分からなかった。知っていると答えたところで、誰からの情報だ、となることは明白だ。しかし、知らないと答えようにも名前を既に言ってしまっている。知らないなら何処で、その名前を聞いたのだ、となる。結果として変わらない。
「ああ、知っている。多分、だがな」
だから、あえて知っていると答えた。そして、先ほどのサルディアの洩らしたことを適当に言う。
「統轄管理局の【銀髪の雷皇女】。【雷霆の巫女】、だろ」
大して言えることの量はなかったが、それでも知っていると言うことを装うことくらいは出来る。
「ふむ、中々に有名になったものだな……」
感慨深そうに言う龍神を見て、ほっと一息つく王司と紫苑。もはや紫苑は関与していないのにドキドキさせられっぱなしだ。
「それにしても、今回の三鷹丘の生徒会は中々に面白そうな奴等が多いの」
龍神の言葉に、秋世も「その通り」と頷く。無論、秋世も「面白そうな奴等」の一部なのだが、それを龍神はあえて言わなかった。




