37話:剣帝から……
三十分くらいだろうか。来客者が、剣帝について語っていた。大まかな、いつ大会があり、誰が優勝し、その後婚約した、だの、どう亡くなった、だのを語っていた。
「と言うことなのです。以上が、私が知る剣帝についてです」
随分と長い話だったため聞き入ってしまった王司たち。そして、時計を見るとそろそろ学園が閉まる時間が迫っていた。
「秋世の奴、遅いな」
思わず呟く王司。その声に、皆も頷いた。そんなとき、生徒会室のドアが開いた。
「ごめんなさい、ちょっと弟と一悶着あって」
秋世だった。まあ、ノックも無しに入ってくるのは王司を除けば、秋世くらいだろうから当然なのだろうが。
「ん?あら、貴方は、確か……」
秋世は数度面識があるのだろう。記憶を探るように少し間を置いてから声をかけた。
「チューズ・リテッドさん、だったわね」
秋世の言葉に客のリテッドは頷いた。
「ええ、龍神様にお会いしたいのです」
リテッドの願いに、秋世は、快く頷いた。
「そうね、いいわよ。う~ん、そうだ、貴方達も来なさい。龍神様に紹介するわ」
そう言って、秋世は、門を開く。《銀朱の時》に空間的な概念は関係がない。次元層が異なる場合や時間軸の流れが違う場合でも、空間を認識さえ出来れば、そこに門を開く事が出来る。それが、例え、時間と空間が隔絶された因果の狭間だとしても。
「龍神様って、本当に龍なのですか?」
紫苑の問い。それに対して秋世は、「う~ん」と唸った。
「概念的に言うなら難しいわね。見た目は東洋の龍よ。あの蛇に手足が付いて、ついでに角も付いている奴」
角はついでについているわけではない。
「概念的に言うならば、そうね、清二さん曰く『魂の集合体、日本で言えば妖怪みたいなものか、幽霊が合体したと言うイメージでいけば分かりやしかも知れないな』と言ってたけど」
その言葉に対し、王司が、「ふむ」と頷いた。
「要するに集合思念が為した超常現象の類と言うことか」
「ええ、まあ。龍神様が居る因果の狭間は、《輪廻》と呼ばれる特殊な人間以外が簡単にいけるような場所ではないのよ。それで龍神様は、その《輪廻》の一族だった、と清二さんは推測しているわね」
清二の推測を語る秋世。秋世の言葉のほとんどが清二の受け売りな気がする。
「なるほど、理念集合、か。元々少ない《輪廻》の一族なのに潰えそうになったことで、最後の一人を寄り代に全ての魂を集約させて一つの形にした、と言うところかな」
その王司の言葉に、秋世が「くすくす」と笑う。
「やっぱり親子ね。同じ考えにたどり着くみたい。同じことを清二さんも言っていたわ」
王司は、苦い顔をした。王司としては、あまり父と比べられることは嬉しくないのだ。
「しかし、そんな存在がいるとは、こうなったら、本当に神や妖精なんかも居るんじゃないのか?」
などと王司は、真剣に考え出した。ちなみに、「天使」の知り合いは居るため、王司の中では既に「天使」は存在すると言うことになっている。
「いない……ことはないんじゃない?《古具》なんてものもあるんだし」
そう言ったのはルラである。
「え?そんなの信じてるの?」
それは、真希の言葉である。
「じゃあ、逆に聞くけれど、《古具》はあって妖精がいないなんて根拠、どこにあるの?」
「いるって根拠もないけどね」
いがみ合う二人。
「あ~、二人とも、もういいかしら。そろそろ、龍神様の所にいくわよ」
そう言った。そして、気づけば、景色が変わる。




