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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
剣帝編
31/103

31話:輝く蒼き剣帝

 剣帝大会の本選出場者四名のうち、二名は、蒼刃蒼衣と七峰蒼子。そして、残りの二人について容姿を説明しておこう。


 Cブロック、残り時間ギリギリに、相手を突き落とした女性剣士。容姿端麗と称せばいいだろうか。その名をリンア・グリュー・ヴァスティオン。ヴァスティオン家一の天才児と噂される女性。ヴァスティオン家の特徴である鮮やかなオレンジの髪と翡翠色の瞳を持つ。


 Bブロック、余裕はなかったが、何とか勝ち残った青年。いかにも兵士然とした屈強な男。どこかの国で護衛兵をやっていたと噂される年齢不詳、本名不明、筋骨隆々の男だ。一応、ジョンと名乗っている。鎧を被っているため顔は分からない。





 そして、瞬く間に本選となった。Aブロック勝者対Cブロック勝者、Bブロック勝者対Dブロック勝者の対決となる。そして、まずAブロック勝者対Cブロック勝者が舞台に立った。


「ああ、えっと、この度は、よろしくな。俺は、蒼刃蒼衣だ」


 蒼衣がそう言ってリンアに微笑みかけた。リンアは、その優しげな笑みに、思わず頬を朱に染めた。言われ慣れていないのだ。


「ふ、ふん、これから戦う敵に『よろしく』とは、いい気なものね」


 そう言ってから、一応、名乗る。


「リンア・グリュー・ヴァスティオン。それが私の名よ」


「そっか、リンアか。あらためて、よろしくな」


 再び微笑みかける蒼衣に、より一層頬を赤らめる。まさか呼び捨てにされるなどと思わなかったのだろう。


「それでは、二人の親睦の深め合いも終わった所で、試合を開始ぃいい!」


 そして、試合が始まる。

 勝負は、一瞬だった。


「えっ……」


 蒼衣の姿が、揺らいだ。いない、と思った時には、既に遅い。気を失ったリンアは、その場に崩れた。


「悪いな、手加減は苦手でね」


 蒼衣の本気だった。





 一方、蒼衣の戦いが終わってすぐに、蒼子の試合が開始されたのだが、そちらは、声の掛け合いすらなかった。ただただ無言で始まり、無言で終わった。剣のぶつかる音すらないくらい、速い。見えない抜刀同士で、決着まで要した時間は一秒を切った。


「ジョン、いいえ、ジーオー・ヴリゴード。良い勝負でした」


 最後の蒼子の言葉に、ジョンは、ただ、頷いたという。





 最後の戦い。だと言うのに、二人は妙に落ち着いていた。そして、二人は、ゆるりと歩き出す。

 綺麗に並んだ正方形のタイルが敷き詰められた床。幾重にも線のような傷が走っている。少し欠けているその床を、慣れ親しむように歩く二人。まるで、長年連れ添った恋人のように。まるで、生まれてから今まで一緒に生きてきた姉弟のように。まるで、幾多の戦いを共に勝ち抜いてきた戦友のように。二人は、歩く。すると、眩い光が見える。そう、その光の先にこそ、「伝説」が待っている。目指したものが待っているのだ。

 そして、一歩踏み出す。すると聞こえる老若男女入り混じった大きな歓声。まるで、二人を待ちわびたかのように歓迎する声。そして、「伝説」へいたるための戦いが幕を開ける。


 舞台に立った二人は、お互い、視線を逸らさない。片時も離れない双子、今、対立をするのだ。互いに、伝説の剣を取って。

 二人は、自然と剣を構えていた。昔から終ぞ訓練し続けた構え方など、無自覚に現れるようなものだ。蒼衣は、両手で「フラガラッハ」を握り、体の手前で、構えを取る。本来、彼が憧れた弓歌は、終ぞ片手で操っていたが、両手で握った方が、力が出るのは事実だ。剣道で見合っている時のような体勢。一方、蒼子は、「アロンダイト」を両方逆手に持って、トンファーのような握り方をして構えていた。それがいつもやっていた姿勢であることが分かるほど、自然に構えていた。


「ハァ!」


 蒼衣から切りかかる。上段から一気に振り下ろした。それを、腕を交叉させるように前へ出した蒼子の双剣に防がれた。逆手に持つことで、刀身だけで受けるよりも、腕を支えにし、より重たい一撃を防げるようにしたのだ。それも、本能的に。それは、普段から、相手に攻撃をさせ、後攻することになれた人間であることを示している。蒼子は、いつも、姉として、蒼衣から切りかかってくるようにと言っていたからである。


「きゃっ」


 蒼子が押し負けそうになるが、そこで、蒼衣の足を払う。急に力を入れていた方に加重され、バランスが崩れる。


「うおっ」


 思わず蒼衣は、声を上げてしまう。そして、剣先を地面に突き立て、その反動で、バランスを直す。しかし、そこに蒼子が、右手の剣を軽く上に投げ、順手に持ち替えた。


「せいっ!」


 そのまま蒼子は、突く。刀身があまり長くない双剣は、一本ならば、振るよりも突いた方が、威力が出る。


「くっ」


 蒼衣は、咄嗟に「フラガラッハ」を地面から抜こうとするも、間に合わないと悟る。そして、抜かずに、身を屈め、盾のようにし、まず、突きを凌いだ。そして、刺さっている刀身の先を蹴り、地面を抉りそのまま土を巻き上げながら、剣を振るう。


「ふっ」


 その舞台の破片を双剣で払う。しかし、大剣の切っ先は、蒼子を捕らえている。そして、蒼子に直撃する寸前で、蒼子が光った。


「……っ!」


 眩い蒼い光。蒼子がその光に身を委ねた瞬間、ブワッと何かが放たれるように空気が揺れた。そして蒼子を囲むように蒼白い光が噴出す。それを纏う。

 そして、蒼子の茶色い髪が、蒼く染まっていく。美しく、鮮やかな蒼色に、染まっていく。空のような「蒼」。海のような「蒼」。とにかく蒼く、染まっていく。果てしない「蒼」に、飲み込まれていく。

 空気の揺らぎに「フラガラッハ」は弾かれ、蒼子に切っ先は届かなかった。そして、蒼衣も蒼子の鼓動に重なるように、「蒼く」染まる。


(今は、前だけを見て、蒼衣と……)


 そんな蒼子の思考が蒼衣に流れ込む。それと同時に、蒼子にも似た現象が起こる。


(今は、姉さんを倒すことだけを考える!)


 そんな蒼衣の思考が蒼子に流れ込んだのだ。


「「ハァアアアアア!」」


 二人の口から同時に漏れる裂ぱくした声。そして、蒼き奔流の嵐が舞台を包んだ。

 直線に大きな蒼い剣光が飛んだ。それは蒼衣の放った斬撃だ。

 それとは逆方向に二本の剣閃が走った。蒼子の斬撃だ。


――ドォオオゥン!


 大理石の舞台が、完全砕け散った。そして、二人は、気を失っていた。





 結果として、二人は、「七代目」剣帝となった。そう、二人ともだ。

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