30話:やがて二人は――
第七回目となる剣帝を決める戦い。それが闘技場で開かれた。その頃、彼らは、十九歳である。違う苗字を持つ双子の姉弟が、今、同じ舞台に立つこととなった。
一人は、茶色の腰元まである髪を風になびかせている。その髪は、さらさらと川のせせらぎのように風に流れる。その様子から、綺麗に手入れされているのがよく分かる。そして、色の白い肌。その肌には、一切の切り傷も傷跡も残っていない。美しい乙女の肌。その張りのある肌は、傷つけることを憚られるような肌だった。さらに目が大きく、鼻も高い。赤みがかった頬。体のメリハリもはっきりしていて、大きな胸とくびれた腰、大きなお尻。モデルのような体型とでも言えばいいだろうか。少なくとも、剣士や騎士の体型ではない。とは言え、この大会の優勝者である剣帝は初代、二代目、四代目、五代目が女性である。その誰もが、剣士や騎士とは思えない美貌の持ち主であったことは明白である。
そして、二刀一対の刀身がクリスタルで出来た美しい双剣の持ち主であった。
一人は、こげ茶の髪を適当に切ったような髪型をしていた。その髪は、姉と同様、さらさらとしているのは、風に靡く様子から窺えた。少し鋭い目つき。その目は、切れ長で、まるで、全てを包むような明るい目だった。顔立ちは、とても整っていて、そこらの有象無象の凡人凡夫どもとは比べ物にならないくらい格好のいい青年だった。しっかりとした体つきとでも言えば言いのだろうか。筋肉がガッチリと付いているわけではない。ただ、痩せてガリガリなわけでも太っているわけでもない。適度に、筋肉が付いた「いい肉体」なのだ。
そして、銀色に煌く、古の神の名剣を持つ。その銀の光は、全ての悪を照らすように、眩い光を持っていた。
二人の名を、「七峰蒼子」と「蒼刃蒼衣」と言う。
そして、やがて、二人は、――剣帝へと至る。
所謂、予選会と言うものだろう。蒼衣と蒼子は、別の舞台に上がった。舞台の上には、多くの参加者達がいた。そして、司会が声を上げる。
「レディイイース、エェエエンド、ジェントルメェエンッ!良くぞいらっしゃいました!この度司会を担当しまぁああす!えぇえええ!ぶっちゃけ、司会の名前なんてどうでもいいのでここで、予選の説明をいたしまあああす!」
テンションの高い司会に、蒼衣も蒼子も若干引いていた。会場で見ているときは、周りも自分もざわついているから気にならないが、実際に自分達が舞台に立つと、司会が鬱陶しく感じる。
「予選では、時間までに舞台の上に残った人がぁあああ、何とっ!本選トーナメントにいけまああああす!」
至極当然だった。予選で勝ち残った者が本選にいけると言うことだ。
「舞台は全部で四つ!Aで残った選手達とCで残った選手達が、Bで残った選手達とDで残った選手達が、と言う形になりますのでご注意を!!!」
蒼衣はA。蒼子はDだ。この二人は、運がよければ決勝で当たることになるのだろう。
「はぁあい!制限時間は二十分!それではー、っと、そうだった!時間内に最後の一人となったものは、その時点で本選出場決定でぇえす。よって、その時点で降りてもかまいまっせーん!それでは、気を取り直して、予選、スタートだぁああああ!」
グワァンと大きな鐘が鳴り、予選開始の合図を告げる。
「ははっ、こんな餓鬼がいやがるぜっ」
そう言ったのは誰だったか。蒼衣のことを指差して、そう言った大男。しかし、その男は、そう言った後、即座に王司の持つ「フラガラッハ」で会場の外へ吹っ飛ばされてしまうのだが。
「蹴散らす!」
蒼衣は、大きなフラガラッハを片手で振り回す。まるで五威堂弓歌のように。
「吹っ飛べ!」
全てを蹴散らし、全てを吹き飛ばす。まるで雷神のように、まるで風神のように。ものの数分だった。蒼衣が、A舞台から自分以外を全て落とすまでの時間は。
一方、蒼子の方も、早かった。
「吹き飛びなさい」
蒼子が双剣を振るう。一度振るえば、半分になり、もう一度振るえば、さらに半分になる。そして、三度目を振るった瞬間、もう既に、蒼子以外の人間は、舞台に残っていなかった。秒殺と言っても過言ではないだろう。
「おおっと、早くも二人の本選出場が決まったぁあああ!しかも、二人とも十九歳ぃいい!驚きだぁあああ!若い、若すぎる。さあて、他のブロックはぁああ?苦戦が続いているようだぁあああ!」




