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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
聖盾編
24/103

24話:篠宮家

 王司は紫苑を背負い、秋世と共に、ルラと真希のところへ向かうことにした。ルラと真希で双子を倒したと電話で聞いたとき、王司は、「ほぉ」と意外そうな声を上げた。上げた理由は、二人が負けると思っていたからではない。「ルラと真希で」と言う部分だ。普段なら「私が倒した」とどちらも主張する場面だと思っていただけに、「二人で倒した」と言う発言の方に意外そうな声を洩らしたのだった。


 昼過ぎの住宅街を、紫苑を背負いながら、秋世と歩く光景は、中々におかしなもので、時折、通る婦人を驚かせていた。まあ、学生が二人と学生に見える女性が一人、こんな時間に、住宅街にいて、しかも、一人背負っているのは中々不思議な光景である。住宅街は、学校のある辺りとは少し離れているし、サボるにも、住宅街でサボるなんて言うのは、あまりある話ではない。それゆえにかなり注目を集めてしまうのだ。そのたびに、「学校の生徒会の者でして、少し付属小学校の学区内通学路調査を頼まれてしまって」と言い訳するのは、なかなかに苦しいものがある。そして、王司は、戦いの疲労から来る疲れと、紫苑を背負っていることもあり、歩く速度が若干遅い。それにあわせている秋世も、必然的に遅くなってしまう。


 そうこうしているうちに、もう、二時半と言う時間に、ようやくルラと真希の元にたどり着いた。二人は、双子の拘束と言う役割があるため、向こうから合流しに来ることを避けていた。まあ、護送中に逃亡などとなっては目も当てられないから、と言うルラの提案であった。


「やっと来た。遅かったわね、って、え?」


 ルラがたむたむと地面を足で叩いていた。苛立っていたのが分かる。しかし、その苛立ちも王司が背負っている紫苑を見て吹き飛んだ。


「何かあったの?」


 ルラではなく真希が問うた。真希は、双子の上に跨って、押さえ込んでいる。王司は、紫苑を降ろして、住宅街の塀に立てかけながら答える。


「少しあってな。力の暴走みたいなものだ。気にするな。寝ているだけだから」


 王司は、そう言うと、とりあえず双子の方に近づく。


「よう、昨日ぶりだな」


 軽く声をかけてみる。しかし反応がない。くてーと寝ている。いや、どちらかと言うと、気を失っているようだった。真希は、いつ、意識が戻るか、はっきりしないから押さえ込んでいるらしい。


「それにしても、そいつ等をどうするか、だな」


 王司がそう言いながら、二人を見ていると、別の方向から、人が来るのが分かった。この状況は、あまりよくないと思った。まず、二人の子供に跨る女子高校生。その辺に転がっている、ただれた鉄板のような盾。穴の開いた盾。不恰好に大きな盾を持っている高校生くらいに見える女性。壁によっかかって寝ている女性。茶色い盾を持つ男子高校生。誰がどう見ても怪しい。奇妙で奇怪で異端で異常だ。王司がどうにかしようかと思うが、人影はもう、すぐそこまで来ている。王司が言い訳を考えようと、思考をめぐらせた瞬間、その人影が知った名前を呼んだ。


「真希?」


 柔和な声。男性の声だ。温かみのあるおっとりした雰囲気の声。真希が、少し苦い顔をして男性の方を見る。


「……パパ」


 そう、やってきた男性こそ、篠宮(しのみや)真琴(まこと)。茶髪に黒い眼。爽やかで顔立ちが整っている。昔の容姿は健在のようだ。


「あれ、それに秋世ちゃん、かな」


 そう言って、秋世の方を見る。三十五歳だというのに、まだ二十代かのように若い男性。どちらかと言うと青年と言う表現がしっくり来る。秋世もそうだが、彼らは、時の流れが違う場所を体験しているため、体が受ける時間の影響が狂ってしまっている節がある。


「真琴さん、お久しぶりです」


 秋世が真琴に微笑みかけた。


「それにしたって、これは、どう言う状況かな。久々に日本に帰ってこられたというのに、また、何か事件かい?」


 真琴の言葉に、真希が拗ねた声で言う。


「ふん、もう解決したわよっ」


 その様子を見た真琴が、ニッコリと笑った。


「そうかい、解決したのかい?でも、誰が、何をしに来て、誰が解決したんだい?」


 真琴の言葉に答えたのは、王司だ。


「【鉄壁神塞(てっぺきしんさい)】と名乗る《聖盾》使いの集団。集団と言っても数人程度だがな。まあ、《聖盾》もそんなに数がなかっただろうから、少数なのは仕方ないだろう。旅行に来ていた、と言っていたかな。その過程で、偶然、《古具》使いを見つけたから殺す、見たいな事を言っていたか。口ぶりら、前にも日本以外で、何人か《古具》使いを殺しているようだったが。そして、解決したのは、現在、三鷹丘学園で生徒会をやっている俺を含めた数名。あと、生徒会顧問」


 王司の口調は、少し棘があるように思えた。少なくとも初対面の相手に対する口調ではない。しかし、真琴は全然気にしていなかった。それどころか、馴染みすらあった。高校時代どころか、それ以降もずっと聞き続けた友人の声、口調にそっくりだったからだ。


「なるほどね、ありがとう、青葉君」


 だからこそ、すんなり「青葉君」と言う名前が出た。友である青葉清二の名前が出た。


「あれ、パパって、王司のことを知ってたの?」


 すっかり拗ねていたことも忘れ、真琴に真希が聞いた。その瞬間、真琴は、ハッとした。そう、彼のよく知る青葉清二は、今、三鷹丘にいないのだと気づいたのだった。そして、今更ながら、王司を見る。自分のよく知る青葉清二にそっくりな青年。娘の発した「王司」と言う名前と「青葉君」と呼んだことで娘から問いが来たことを考えて、「青葉王司」と言う名前を導き出した。そして、清二の息子の名前がそうであったことにも思い至った。


「あー、うん。まあね。そうだ、その子たちの保護も含めて、とりあえず僕の家に行こうか」


 いろいろとごちゃごちゃした状況をまとめるために真琴は、そう提案した。なにやら会話がごちゃごちゃしたら逸らす、と言うのは、彼が生徒会時代に学んだ誤魔化し方である。

 とりあえず、全員で、篠宮家へ行くことになった。

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