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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
聖盾編
15/103

15話:深層共鳴

 生徒会室の生徒会長の席に腰を掛け、紫苑は、静かに、足を組み、まるで普段とは別の誰かが乗り移ったように、大人っぽい仕草をした。スカートで足を組むものだから、王司には、スカートの中が見えそうになっていた。見えそうで見えない、チラリズムと言うやつだ。

 生徒会室の椅子は、パイプ椅子ではなく、きちんとした椅子である。長時間座っても尻が痛くならないように、高級なものを使っている。実は、生徒会の予算は、《古具》に対する対処の分も含め、市と街から援助の分が入っているため、毎年多額の予算が余る。そのため、備品などはきちんと揃っているし、机も椅子も高価だ。他にも冷暖房設備がきちんとしていたり、鍵が最新のセキュリティだったりとあちらこちらに使われている。

 そして、紫苑は、静かに、冷静に、いつも以上に真剣な声で、王司に言う。


「青葉君、それで、《聖盾(せいじゅん)》でしたね。それについて、話をしましょう」


 紫苑のいつにもまして、真剣味溢れる様子から、王司は、思わずごくりと喉を鳴らした。そして、王司は、紫苑に、説明をする。


「昨日の帰りだ。二人の女の子に会った。二人は、そっくりだったから双子だろう。両方、金髪碧眼。見た目から十歳かそこら。名前はアテネとアテナ。持っている盾は、《イージス》と《アイギス》。証言から他にも三人の《聖盾》使いがいることが分かっている」


 王司の発言に、紫苑が、王司の思考を被せることで、王司が嘘を言っていないことを確認しながら、それが真実か否かを判断した。

 いつにもまして慎重な紫苑。その紫苑の瞳には、王司がしっかりと写っていた。それを王司は、見た。また、王司の瞳にも紫苑が写りこんでいることであろう。そんな王司の頭の中に、何かが流れ込んできた。


(天龍寺先生から、何かがやってくると言う可能性は示唆されていましたが、こんなにも早く事が起こるとは思っていませんでしたね。わたしの失態です。生徒会長なのに。とりあえず、冷静に、どうにかしなくては、ならないでしょうね……)


 流れ込んできたのは、紫苑の思考。どうやら、王司も紫苑の思考が読み取れるようになったらしい。紫苑が王司の思考を読み取れていたのだから、王司が紫苑の思考を読み取れてもおかしくないだろう。だから、王司に意外と驚きは無い。


「大丈夫だ、紫苑。失態でも何でもない。落ち着けよ。まだ、攻撃されたわけじゃない。確かに、『《古具使い》を殺すためにいる』とは言っていたが、まだ実害はゼロだろ」


 王司の言葉に、紫苑は、椅子からずり落ちた。足を組んでいた所為で、足が上手く動かず、一瞬、大開脚してしまいピンクのフリルが王司の目に焼きついた。


「あ、青葉、君……?どうして……。まさかっ」


 紫苑は、下着など気にせずに、王司に聞く。しかし、聞いてから、悟る。王司も自分と同じように、《感覚同調(シンクロ)》したのだと。

 元来、紫苑のシンクロとは、自分との思考が近いものとの思考共有だった。そして、兄弟姉妹など、同じ環境で育ってきた人間などに、思考が似る事が多い。だから、紫苑と王司がシンクロすることは、普通は、ありえないのだ。つまり、王司と紫苑はシンクロしているのではない。深いところで繋がっているのだ。あえて言うならば、共鳴している。それゆえに、互いが繋がった今こそ、《深層共鳴(シンフォライズ)》である。


「ああ、思考が読み取れる。お前の考えている事が分かる」


 王司の言葉に、紫苑の目から涙が零れる。それは、王司と繋がった嬉しさゆえか、はたまた、別の理由か。とにかく、紫苑は泣いた。その理由を知るのは、紫苑と、紫苑と思考を共有する王司だけ。


「とりあえず、今は、《聖盾》使いの持っている《聖盾》について、だが。《アイアス》、《オハン》、《ブリウエン》。俺の知識だと、曖昧なものも多いな」


 王司の言葉に、紫苑が少し考えてからとりあえず、自分の知っているものをあげてみることにした。


「アイアスと言うと……、飛び道具に対して絶対的な力を持っていると言う?」


 紫苑の発言に、王司は、少し意外そうな顔で紫苑を見た。見た理由は至極簡単で、だからこそ、王司は笑いそうになってしまった。


「紫苑もアニメ見たりゲームしたりするんだな」


 紫苑の言葉からアニメやゲームの知識があるとわかった王司。「飛び道具に対して絶対的な力を持っている」などと言う文から容易に推測できた。


「ええ、まあ。わたしもそのくらいは……。弟もいますからね」


「ふぅん。まあ、そのアイアスは、少し誇張された表現が入っているからな。アイアースの盾ゆえに《アイアス》。飛び道具に関しては、ヘクトールの投げた槍を唯一防いだ事で、絶対的な力を持っていると言う風に言われる」


 王司が語るのもあくまで上辺の知識。されど、それもまた真実。


「《オハン》と言うと、『叫ぶ盾』だな」


「叫ぶ、盾……?」


 王司の言った言葉を反芻する紫苑。意味が分からなかったからだ。それもそのはずで、盾が叫ぶと言われても、盾は無機物なのだから、声を出すはずがないと思うのが常人だからだ。


「そうだ、叫ぶ盾。四つの黄金の角と四つの黄金の覆いがついた盾で、その強度は、かの《カラドボルグ》でも凹まなかったとされている。その特徴が、持ち主に危険がおよぶと金切り声を叫んで知らせると言う力だ。それゆえに『叫ぶ盾』」


 ケルト民話系列の武器の一つだ。ケルト系列と言えば、有名な武器がたくさんある。その中でも有名なのが《カラドボルグ》や《ゲイ・ボルグ》などの武器だ。防具は、あまり有名ではない。


「じゃあ、《ブリウエン》とは、なんですか」


「《ブリウエン》か。俺も、これに関しては、あまり詳しく知らないが、アーサー王の持っていたとされる盾だったはずだ。聖母マリアが描かれていると言う見た目と、伝承では、船としても使えると言う盾だ」


 盾が船として使えると言う話など、民話、神話、伝承に登場する武具は、不思議なものが多い。

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