14話:予兆
学校の帰り道、王司は、二人の少女に出会う。金髪碧眼の、まるで双子のような少女たち。片方は、ゴシックロリータ調の服。もう片方は、甘ロリ調のファッションである。
「旅行に来たのに、《古具使い》に会えるなんて、ラッキーだね」
「ええ、そうね」
二人は、王司を見ながらそう言った。王司は、双子を睨むように見て、《古具》を呼んだ。
「……《古神の大剣》」
王司の手元に現れたのは、銀色に煌く大剣。それを見た双子は、子供らしい反応をした。
「うっわー、きれー!」
「これは……」
二人は、己が持つ、力を宿した得物を取り出した。
「《魔除けの盾》っ」
「《聖鏡の盾》」
イージスとアイギス。どちらも同じものと言われている聖盾である。ギリシア神話において、主神ゼウスの娘であるアテーナー(日本では、長母音を省略してアテナと言うことが多い)にゼウスが与えた盾だと言われている。また、盾ではなく、防具とされることもあれば、ゼウス自身の防具と言う説から、空と雷の神であるゼウスの雲を象徴するとされることもある。
ギリシア語でアイギス。英語でイージス。
「女神アテナの盾か……。何者だ?」
王司は、それが《古具》であるかどうかを確かめることはせずに、相手の正体を聞いた。
「あたしはアテネ!」
「わたしはアテナ」
アテネとアテナ。その二人こそ、聖盾使い。
「あたしたちは【鉄壁神塞】の盾士だよ」
「わたしたち、【鉄壁神塞】には、五つの聖盾がある」
アテネとアテナは笑う。王司を見て、笑う。
「あたし達は《古具使い》を殺すためにいるんだよ~」
「わたしたちの《魔除けの盾》、《聖鏡の盾》、《防全の盾》、《危険知らせの盾》、《聖母の盾》に勝てる?」
聞いたことのある盾の名前に、王司は、感心したように思う。
「有名どころばかりか。《古具》ではないと言うことは、《聖盾》と言う一つの概念になっているのか」
そう、《聖剱》があるように。あるいは《魔劔》があるように。《聖盾》も存在する。聖なる力を宿した盾。それが《聖盾》。
「《魔除けの盾》は、魔除け。あたしの盾に、魔の物の力は通じない」
「《聖鏡の盾》は、聖なる鏡の盾。わたしの盾に、来た攻撃は、全て跳ね返る」
王司は推察する。
(魔除けは、イージスが魔除けの力を持っていた逸話からだろう。聖なる鏡に関しては、メドゥーサ退治の時に鏡がついていたところからか……。と言うことは、メドゥーサを退治した後の、イージスに首をつけて出来た強化版の盾の能力はないと言うことで良いのだろう)
王司の推察どおりである。《聖盾》は、各々の、伝承に乗っ取っている。
「聖なる盾ねぇ……」
王司は、構える。しかし、アテネ・アテナは、盾を引っ込めた。
「お兄さん、戦いはまた今度ね」
「あたし達、そろそろホテルに戻んなきゃ。じゃあねっ」
二人は、駆け足で去っていく。王司はその背中を唖然として、口をポカーンと開けて見ていた。
「あいつら、なんだったんだよ」
王司は、学校に着くなり、三年生の教室に向かった。三年一組。今日、用があるのは、当然のことながら彩陽ではなく、紫苑である。《聖盾》を持った【鉄壁神塞】と名乗る相手について相談があるからだ。
「紫苑、少しいいか?」
教室に入るなり、王司はそう言った。教室内の女子から「きゃー」と黄色い悲鳴が上がる。三年生にも王司のファンがいるのだ。
「青葉君、何か?」
「ああ。込み入った内容でな。出来れば、生徒会室で話したい」
王司の口調から、なにやらただならぬ雰囲気を感じた。そして、紫苑は、王司の考えていることを感じ取る。
「……。ええ。生徒会室で話しましょう。そうそうまとまる話ではなさそうですし」
紫苑は静かに、一回頷いた。そして、席を立ち、凛とした佇まいで、王司と生徒会室へ歩くのだった。




