13話:相棒
王司は、ふと考えていた。自分の相棒について。幼い頃から、相棒として、共に生きてきたのに、姿を視認したのは、初めて会った、あの日、――あの瓦解したホテルの上で、だけだった。
「そもそもその相棒さんって何者なのですか?」
紫苑の心を読み取った質問に、王司は、笑う。
「さあな。神か魔王か……天使か悪魔か……。なんにせよ、俺に力を貸してくれる存在さ」
王司にも、相棒の正体は分からない。彼女が本当に何なのかは、分からない。ただ、名前だけは、――サルディアと言う名前だけは知っていた。しかし、決して、彼は呼ばない。その正義の名を――。
春眠暁を覚えず、とはよく言ったもので、王司も春の日差しの前に、こくりこくりと船を漕いでいた。教室には、暖かい昼の日差しが、差し込んでいて、睡魔となって、教室中の生徒を襲う。祐司などは、とうに授業を諦め、完全に眠りについている。
王司は、夢を見ている。かの、相棒に出会ったときの夢を――。
「正義の思い……」
その言葉に、呼応するように、眩い銀色の光が天より差し込んだ。それは、さながら、天使の降臨に見えた。光と共に、一人の女性が舞い降りたのだった。銀色に煌く、無数の羽を宙に撒きながら。
「――『正義』を望みますのね……」
静かで優しげな声音。それは、全てを抱擁する天使の声。
「ならば、この【断罪の銀剣】のサルディアが貴方に力を貸してあげますわ」
銀の光と同化するように風に煌やかに靡く銀色の髪。まるで真珠のような銀色の大きな瞳。その瞳を縁取るように長く伸びた睫毛。白磁のように透通るような白い肌。ほんのりと桜色に染まる頬。ぷっくりと膨れた赤々しい唇。
そんな綺麗な顔を持ち、そして、白い法衣の上からでも分かる、主張の激しい大きな胸。少し動いただけでも「たゆん」と揺れる。細くくびれた腰。そして、突き出たお尻。サルディアは義姉から嫌味のように「安産型」だと言われるくらいの主張の激しいお尻である。
その美しさを、神秘へと変えるのは、彼女の背にはためく三対六枚の【銀翼】。
それを一言で表すなら、――天使そのものだった。
「て、てん、し……?」
幼い王司の口から、その言葉が洩れた。
「ふふっ、私は、『正義』の体現者ですわ」
そう、彼女は、「正義」そのもの。「正義」をその身に宿す存在。
「そして、貴方は、私に選ばれた『神遣者』ですわ」
アーシャス。それは、アシャノスに――【悠久聖典】に選ばれた者。
「さあ、世界の『正義』のために力を注ぎますわよ」
美しく、妖艶に笑みを浮かべるサルディアに、王司は、魅了され、そして、「正義」を決意する。
「この世界では、複数の『悪』が蔓延っていますわ。惨殺の騎士、魔堂王会、ダリオス・ヘンミー。これらの『悪』は既に断罪されておりますわ。ですけれど、まだ、『悪』が蔓延っていますわ。これらを、貴方には、私の力を使って『断罪』してほしいのですわ」
かつて、青葉王司の父、青葉清二が、相対した敵。それがダリオス・ヘンミー。ダリオスは、清二が……清二達が倒している。それこそ、「断罪」した。
「私の力は、このときを持って、貴方の力に……。私の魂は、――貴方のために」
忠誠。そして、――。
王司は、授業終了のチャイムで、意識を戻された。一時間、まるまる寝ていたらしい。寝ぼけ眼を擦りながら、欠伸をする。
サルディア……王司の相棒は、王司に聞こえないように、思う。
「義姉さん……。私は、これで、本当によかったのですの?」
その覇気の無い声。
「剣帝の血は絶えない、と言うことですの?」
サルディアは、翼を揺らした。
「《蒼き刃》の血族。運命とでも言うのですわね……。かつての友、【蒼き剣嵐】のソウジ……」




