10話:二人の剣士
王司と紫苑は、《古具》をしまってからも、しばらく、何も出来ずに、ベンチに腰をかけ、ボーっとしていた。剣をあれほどまでに自由に扱えたことに驚いていた。王司も紫苑も服に土がついていたり、汗にまみれていたりと、汚らしい風貌だったが、それを気にした様子はない。
「ねぇ、青葉君。わたしは、何故、あそこまで剣を早く振れたのでしょうか?まるで、剣が身体のように感じました。あれは、一体、なんなのでしょう」
紫苑の問いと言えぬ問いに、王司は、自分のまとまらない答えを洩らすように言う。
「記憶、いや、遺伝子が、覚えているのかも、知れないな。かつて、振るった剣の太刀筋を……」
その言葉に、紫苑が、笑う。
「そう、……かもしれませんね」
それから、王司と紫苑は、時々会うようになっていた。無論、学校が終わってからだが。そんな或る日、王司の元に、紫苑がやってきた。
「紫苑、か」
王司は、休み時間に、教室の中に入ってきた紫苑を見て、そう洩らした。目聡くその声を拾ったルラが王司に聞いた。
「七峰と言ったかしら?知っている先輩なの?」
ルラも紫苑とは、一応面識があった。祐司の行ったインタビューで、だ。三鷹丘男子生徒に聞いた憧れのお姫様ランキング一位、七峰紫苑。お嬢様然とした風貌に、大いに票が集まったらしい。
「まあな」
王司の適当な返事にルラは、「ふぅん」とつまらなさそうな顔をした。
(それにしても、紫苑、か。空いた生徒会長を紫苑にやってもらえれば、それなりに、生徒会も楽になるか……)
王司がそんなことを思っていると、そんな王司の思考を感じ取ったのか、紫苑は、にこやかに王司に近づいてきた。
「青葉君。今の提案ですけど、請けてもいいですよ?」
何の脈絡もなく始まった話に、ルラが置いてけぼりを喰らう。
「本当か?ありがたい話だが」
王司は、動じず答える。紫苑は、にこりと笑う。
「ええ、生徒会長ですね。わかりました。わたしと青葉君の仲ですし、生徒会長の任、引き受けましょう」
紫苑の返答に、面を喰らったのは、ルラと真希。一体全体、何がどうしてこうなったのかがつかめず、きょとんとしていた。
「ああ、じゃあ、頼む」
王司は、頷いたが、ルラと真希は、おかしな顔をした。
生徒会室に、紫苑がやってきていた。
「王司君。これはどう言うことかしら?」
秋世の呆れた声に、紫苑がにっこり笑って答えた。
「青葉君に誘われて、生徒会長になることにしました」
紫苑の言葉に、唖然として、口をポカンと開けたまま閉じない秋世。我に戻るのに、十秒を要した。
「ちょっと、王司君。生徒会への入会条件は、」
秋世が口にした瞬間に、王司が頭の中に、入会条件を浮かべる。
(《古具》についての知識がある。《古具》を保持している。この二つ、か)
それを読み取り、紫苑が言う。
「《古具》については知っていますし、持っていますよ。《神装の魔剣》」
己の《古具》を呼ぶ紫苑。即座に、クリスタルの刀身を持つ双剣が現れる。
「見ての通り、剣を呼ぶ《古具》ですよ」
紫苑の両の手に握られた剣をまじまじと見つめる秋世。
「本当に《古具使い》……」
《古具》を使う者を《アーティファクター》と称すこともある。
「ええ。わたしには、《古具》を扱うことが出来るんです。この間、青葉君と話して、《古具》使いが他にもいることを知りました」
にこやかに言う紫苑は、屈託のない笑みを浮かべていた。
「ええ、いいわ。生徒会長として認めましょう。それにしても、相変わらず、生徒会には武等派の《古具》が勢ぞろいね」
そう言って、秋世が比較するのは、懐かしい、秋世の知る三鷹丘学園の生徒会だ。
「《古神の大剣》、《古神の大鑓》、《翼蛇の炎砲》、《神装の魔剣》。大剣に、槍に、銃に、双剣。固定武器のオンパレードね。ここまで武器だけと言ういのは、私も予想外よ」
そう言って頭に浮かべる《古具》。そして、思い出す。
「そう言えば、生徒会の記録が紙データで残っていたはずよ。見てみましょうか、歴代の生徒会の面々と《古具》について」
秋世の提案に、王司は、面白そうだ、と頷いた。それにつられるように、他の面々も頷く。




