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受け入れて、染めてー後編

さて、と。やっと戻ってこれたわね。

私ー雪乃はホールに足を踏み入れると、まず探したのは料理…じゃなくて見知った顔。うん、見つからないわね。そもそも来てるのかどうか、名簿で確かめてからでも良かったかも。

「あら、珍しい顔」

「あら、須川さんも来てたのね」

「ええ、久しぶりにみんなの顔を見たくてね」

ドレスに身を包んだ須川さん、少し背も伸びたかしらね。

「向こうにカクテルあるし、どう?」

「いいわね。でも飲みすぎると後に響きそうだし、軽くにしておくわ」

「そっか、そっちも大変だものね」

残念そうに肩を竦める。…あら、

「須川さん、ドレスの裾にシミが」

「えっ」

慌てて確かめたかと思えば、すぐに険しい表情になって

「………後で覚えてなさいよ恵玲奈」

そのままグラスを置いてスタスタとどこかへ行ってしまった。

……何なのかしらね?

「ヘーイ、ユキノー」

首を傾げる間もなく今度は後ろから羽交い締めにされて、

「ちょっ、その声は…ジュリね」

「アタリー」

かつての同級生の名を呼ぶと、するりと腕が解かれる。

「ほらほら、あたし達も居るから」

「あら、これはこれは」

振り向けばそこには、かつてのバレー部メンバー達。

「厨川さんに、千種さんに、大沼さんに、そしてジュリも」

同期たちが勢揃い…いえ、1人足りないわね。

「文化は? 」

「今年も来れないって」

「そう、それは残念ね」

久しぶりに顔を見たかったんだけど。

「まーまー、こうして雪乃も戻ってきたんだしさっ」

「そうデスねー、今まではテレビの中で見る位デシだし」

「顔合わせるのも6年ぶり?」

「そうね、すぐ向こうに行っちゃったし、お互い行く先もバラバラだもの」

こうやって帰ってくると、なんだか懐かしいわね。帰ってきて本当に良かった。

「それで、みんなは今は? 」

「あたしらはフツーのムスメだよー、ジュリは向こう帰ったんだっけ?」

「ソーデスネー、でもアオイはトレーナーデショ?」

「あはは、まー、へっぽこだけどねー…」

「あら、そうなの千種さん?」

「うん………雪乃には勝てなかったけどさ、別のルートでまたバレーやりたくなっちゃった」

「………」

最初は、13人居た私たちの世代。そこから3年間走れたのはこの5人と文化だけ。あとは先輩達がフタをして、私が立ち塞がって、後輩たちが蹴散らして、レギュラーの枠を取れずに去っていった。中には他であれば不動のレギュラーを取れたであろう人も居た。特に千種さんは、そしてここに居るみんなも……

「でもさ雪乃、別にうちらは恨んでなんか居ないんだぜ? 確かにさ、あんなことはあったけど、……今じゃ雪乃と同じとこで戦えたってだけで勲章なんだからな? 」

「そうそう、私たちの中でただ1人、今も青と黄色のボールを追いかけてるんだから胸張ってよ」

「ユキノは相変わらず張るムネが無いケドねー」

「みんな……ありがとう。あとジュリは後で覚えてなさいよ」

「ヒエーッ!?」

…ふふっ、やっぱり帰ってきて良かったわ。


一通りバレー部メンバーとの話を楽しんだあと、輪を離れて望乃夏を探すと、

「あ、雪乃おかえり」

「ただいま望乃夏。…あら、何見てるの?」

「いや、素敵だなって」

視線の先を眺めると、

「あぁ、砂塚さんと……常世野さんね。確かに着物はいいわね」

所作のひとつひとつが洗練されていると言うか、なんだか見蕩れるわね。

「あーー!! 雪乃ちゃんと墨森ちゃんだー!!」

む、この無粋な声は、

「あはは…栗橋さんも元気そうで」

足元でぴょんぴょんされて少し困り顔の望乃夏。この人もほんと変わらないというか……

「ねぇねぇ墨森ちゃん髪型変えた? いつものお馬さんのゆらゆらしっぽは? 」

「あぁ、あれは、その…」

「栗橋さん、少しは落ち着いたらどうなの? 」

ゆったりとした仕草で歩いてきたのは、

「久しぶりね、砂塚さん」

「こちらこそ」

「あっ聖ちゃん。だってさーだってさー、今日はゆかりちゃんも来てないし、きょーなちゃんもお店忙しいからって来れなくて、聖ちゃんしか知ってる子居ないんだもん」

「だからって他の人に迷惑かけたらダメじゃないの」

「えー」

「あはは…そうだ栗橋さん、ボクも身知った人あんまり居ないから向こうで話そうか」

「わかったっ、そうだこの料理が美味しくてねっ、もう口の中で溶けるというか…」


「行ったわね」

「ごめんなさいね、うちの栗橋さんが」

「いいわよ、望乃夏も連れてきたはいいけど、自分から話しに行くの苦手だから私にくっついてばかりだと思うし」

ざわめきの中に消えていく2人を見送ると、改めて砂塚さんに向き直る。

「髪伸びたわね。それに、身長も」

「当たり前でしょ? 卒業して6年も経つのよ」

「それもそうね」

グラスを口元に運ぶ手を見ても、心做しか少し大きくなったような…

「何見てるの? 」

「別に」

「別に、って、あなたねぇ……」

ハァとため息をひとつ。

「ま、それよりも……活躍おめでとう、と言った所かしら」

「あら、ありがと」

貴女にしては珍しいわね、と言いかけたのを止めてカクテルに手を伸ばす。

「これ美味しいわね」

「あら、こっちのワインも美味しいわよ、ちょっと強いけど」

「これでいいわよ、あんまり酔いすぎてもあれだし」

視線をずらすと、既に酔いが回ったのか他の人に絡んでるのもいて、

「あ、有里紗、飲みすぎだって…」

「飲みすぎてなんかっ、ぐすっ、しのさぁん……」

それを遠くから眺めつつ、

「……長木屋さん、完全に酔ってるわね…」

「彼女にあんな面があったなんて…」

人は見かけによらない物ね……

「ほんとに、お酒って怖いわね」

「あら、そうかしら? 」

ワイングラスを片手に砂塚さんが首を傾げる。

「気分も昂っていいじゃない、特に美味しいものは」

「確かにそうだけど周りに迷惑かけたら……」

むすっとした顔で応える砂塚さん。かと思えば私の空いたグラスを見て、

「こっちのワインも美味しいわよ、どう?」

と、答えを聞く前から注いできて。仕方なしに飲んでみせるとちょっとくらっときて。

「あら、白峰さん下戸だったの?」

「違うわよ、久しぶりだからちょっと」

「ほんとに? 」

なんだか勝ち誇ったような砂塚さんに、ちょっとムッとする。

「これぐらい軽いわよっ」

と、グラスの中身を一気飲みして鼻を鳴らす。

「わ、私だってこれぐらいっ」

と、砂塚さんもワインをなみなみ注いで飲み干してみせる。

……かちん。いいじゃない、どっちが強いか……やってやろうじゃないの。


「でね? その時聖ちゃんがね、」

「うんうん、で?」

と相槌を打ちつつ時計で時間を確かめる。……栗橋さん、さっきからどんどん飲んでるのに顔色ひとつ変わんないんだけど……すごいなぁ……

「あーっ、居たっ、望乃夏居たっ」

「あ、文化。来れないんじゃ無かったの?」

「うまいこと時間が作れたんだよ。……って、それどこじゃないんだっ、雪乃がっ」

「えっ雪乃が?」

「とにかく来て!!」

言われるがままに文化の後について行くと、

「ふ、ふふ、やるわね、白峰さんもっ」

「あら砂塚さんっ、そっちはペースが落ちてるんじゃ、無くて? 」

雪乃と砂塚さんが睨み合ったまま、お互いにワイングラスの中身を一気飲みし合っていて、

「ちょっ、雪乃やめなよっ」

「なによののかっ、今いいとこっ」

「聖ちゃんストップーー!! おさけくさいっ」

「なによくりひゃししゃん」

……ダメだこりゃ、どっちもべろんべろんだ…

「と、とりあえず雪乃は連れて帰るからっ」

握りっぱなしのワイングラスを離させて、どうにかこうにか引きずって会場を後にする。その向こうでは栗橋さんが砂塚さんに抱きつかれてて。

……お酒って、ほんと怖いなぁ……


「雪乃、落ち着いた? 」

「……めがまわる……」

雪乃をどうにかこうにかタクシーに押し込んで私も横に座る。……やっぱりタクシーで正解だったかも。

「もう、だから飲み過ぎないようにって言ったのに…」

「女のプライドよ…」

「そんなプライドはわんこに食わせちゃいなさい」

あぁもう……どうすればいいんだ……

「……望乃夏」

「え、な、なに…?」

「こう見ると望乃夏も可愛い顔してるわね」

じぃっと顔を近づけてくる雪乃。とりあえずお酒臭いから遠ざける。

「ほ、ほら、家着いたから、自分の足で歩いてっ」

とは言ったものの足取りも怪しくて。なんとかしてエレベーターに乗せてボクの部屋まで連れ帰ったけど………そこで雪乃が力尽きた。

「雪乃、床で寝ないでよっ」

ゆさゆさと揺さぶってみるけど、雪乃は全然起きてくれなくて。しょうが無いのでボクのベッドに載せて布団をかけて、ボクの方はソファに寝ようとしたけど……何故か雪乃の手がボクの服をがっしり掴んだまんま。とりあえず服を脱いで脱出したはいいけど、今度はその服をぎゅっと抱きしめられて……

……いいや、もう。

全部投げやりになったボクは、雪乃から掛け布団を1枚強奪するとソファに下着のまんま寝っ転がってそのまま眠りにつく。


……夜中になんとなくムラっときて鎮火したり、朝になって酔いも目も覚めた雪乃にこっ恥ずかしさで更に襲われたりしたのは、また別の話。

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