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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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未来編「レオ屋敷完成」

 私たちはかつて長屋一部屋で暮らしていた。

 兄は昔、「成り上がってみんなで大豪邸に住む」と言っていて、本人の真意は不明だけど、私たち家族は兄の語る目標を夢物語だと思って笑って聞き流したり、そんな世界があったらどんなだろうと、遊びみたいな妄想をしていた。

 兄はルーベル家の養子になると、「大豪邸を建てる」とは言わずに「出世して堅実に家を建てる」みたいに話すようになった。

 両親と姉夫婦もそれに耳を傾け、五人で貯金して、一軒家を手に入れるという目標を掲げた。


 今日はその目標——レオ家の完成お披露目会だ。

 レオ家は私たち家族と懇意の大工たちが造ってくれた大豪邸。

 建てる家の大きさはルーベル家の半分くらいが目標だったけど、兄が玉の輿婚をした結果、すごく広いお屋敷になった。

 兄が結婚したお嬢様——ウィオラの実家から「事業の手伝いをよろしく」「一族の別荘にもする」みたいに言われて建築支援金をいただいたから。

 さらにウィオラは兄との出会いで神職になったので国からもお金を貰えた。


 家族親戚と共に完成されたお屋敷を門の外から眺めて、私は心の中で「成り上がって大豪邸……」と呟いた。

 レオ家を盛り立てくれたのはルーベル家ということで、聞いていた通り門構えは我が家そっくり。

 ただ、門は我が家よりも大きく、デオン家のような大門で、小さな出入り口がある。

 表札は白い石に「レオ家」と彫られていて、父と兄が大喧嘩したことを思い出した。

 自分が大出世しているのは両親のおかげだと主張したい兄と、「立派な屋敷にはルーベルの名前が相応しい」と譲らない父の喧嘩が我が家で勃発。

 あの日は疲れたな……と遠い目。


「おお、あちらはまた立派な彫りですね」


 隣に立つロイが、私の背中を軽く撫でてから、手のひらで門の屋根下あたりを手で示した。


「はい」


 龍神王のような蛇に、ルーベル家とムーシクス家の家紋という見事な彫刻だ。

 我が家は青鬼灯(あおほおずき)のルーベル家で、それはレオ家も使うことになったので、ルカジン夫婦も受け継いでいく。

 一方、兄は「ルーベル」ではあるけれど、家紋はムーシクス家の「三頭黒巴犬」を継いでいく予定。青鬼灯も使用するけど、三頭黒巴犬も使い、正式な場では三頭黒巴犬を優先する。

 二人は婚約当初に「可能な限り南地区と東地区の両方で暮らそう、半分こ」と約束したから、兄は婿入りだしウィオラも嫁入り。

 三頭黒巴犬ルーベル家は、ムーシクス総宗家の南地区別邸と位置付けられている。

 よって兄は玉の輿婚で、向こうの家からやいやい言われる立場になり、呼び出しなどをされる日々。


 このレオ家は父の家で、ルカとジンへ受け継がれていくけど、半分はムーシクス総宗家のもので、両家が仲違いする場合は「ここで線を引く」という境界が決まっている。

 土地と建物の権利のうち、半分より少し少ないくらいはルカのもの、半分より少し多めがウィオラのもの。

 兄が成り上がって出世して玉の輿婚をしたら、ルカが大金持ちになった。


「——です」


 彫刻だとか、ルカがお金持ちになったと考えていたので、完成したお屋敷について説明してくれるガントの言葉を聞きそびれた。


「旦那様、今は何の話でした? 彫刻に夢中でした」


「トト川を利用した長堀と屋根の上の柵、それから塀の内側の侵入返しで防犯はバッチリだそうです」


 我が家は中流層が集まる地域で暮らしているので、人の往来を見張ってくれる兵官が駐在しているところが近くに何ヶ所かある。しかし、ここはわりと街の外れ。

 神職やその家族に手を出す罰当たりがいたら困るし、兄は悪人に恨まれているので防犯対策には気を遣うと言っていたけど、これらがそれなのか。

 正門をくぐると、塀の内側には屋根から降りようとしてもいくつもの棒が邪魔する仕組みになっていた。

 

 正門から玄関までの道は石畳で、龍神王様のような蛇が鬼灯を模した石を咥えている灯籠が二つあり、これは我が家からの贈り物。

 父が義父たちにお礼を言いながら、こういう意匠になりましたと告げた。

 我が家は「縁起の良い灯篭を贈る」と提案して、意匠は住む人たちで決めてもらうようにしたので、実物を見るのはこれが初。

 灯篭の一つには私とロイの名前、もう一つには義父母の名前が刻まれていた。

 鬼灯を模した飾りを三頭の犬が支えているような意匠で格好ええ。これなら鬼も妖も近寄らなそう。

 

 我が家と良く似た玄関から中へ入り、廊下を歩いてまずは居間。

 居間は板間で広々としていて、蓋ができる囲炉裏があり、石造りの暖炉もあった。

 他は畳の部屋で、いくつもあり、短い渡り廊下の向こうに兄夫婦の領域でそちらの方が部屋数は少なかった。

 レオ家側とルーベル家側であれこれ意匠が異なるのはそれぞれの希望の結果。

 母屋は二階建てにはしなかったので平家。狭いと思ったら増築する予定。 

 台所は二箇所あるけど、基本的には一つを使用してこれまで通り、みんなで食事を継続していくそうだ。だから大家族用の居間がある。

 我が家の台所を少し広くして、かまども三つだから料理はしやすそう。


 お風呂はすごくて、トト川から水を引く仕組みになっていて、木製の内風呂と石造りの露天風呂があるので小さな旅館みたい。

 兄夫婦の領域には離れがあり、そこは土間付きの茶室。

 離れは二階建てなので、他の家族が住むことも可能。

 

「ルルが無事に結婚するならとりあえず新居はここの予定〜。お茶会もするけど」


 少しずつ、少しずつ茶道を学んできたルカは茶室があって、とても嬉しそう。


「新婚から憧れの町屋風の家だ〜!」とルルが万歳をした。


「ルルさんが住まない期間は私の稽古部屋です」


「お嫁茶会をするんですよね」とルカがウィオラに笑いかけて、二人はとても楽しそうに肩を揺らした。

 

「私も嫁仲間」


 仲間外れは反対だと手を挙げたら、ルカとウィオラが「まずは三人」みたいに言い、にこやかな笑顔を向けてくれた。


「それ、単なる姉妹会じゃん。私も入る」


「姉妹茶会は別でするからルルはお嫁茶会には入れませ〜ん」


 ルカがふざけた感じでそう言うと、ロカが「私は?」と尋ねた。


「ロカも嫁じゃないから姉妹茶会だけだよ」


「何が違うの?」


「旦那の愚痴とか言うんだよ」とルカは丸坊主のジンを軽く睨んだ。

 ジンはルカが嫌がると分かっているのに、なぜ髪を伸ばして丸坊主にするのだろうか。


「ふーん。つまりウィオラさんはお兄さんに不満があると。だって! お兄さん! ウィオラさんが実家へ帰っちゃうよ。離縁だ離縁」


 ロカとルルが兄に向かって、「離縁されるよ!」と叫んだので、ロイとジンと喋っていた兄が真っ青な顔で近寄ってきた。

 痒くなりそうなので逃亡! と私はロイとジンのところへ。

 兄は自分たち妹のせいで結婚しないと悩んできたルルは、兄夫婦が痒い感じになるのが嬉しいみたいで、たまに今のようにかゆかゆ爆弾を誘爆させる。


 ロイとジンに「ついに完成しましたね」と話しかけて、祖父母とじゃれ合う子供たちを眺める。

 ルカも兄夫婦爆弾から逃げてきて私の隣に立った。

 ジオ、レイス、ユリアは今日はお泊まり会だから嬉しそう。

 今夜、私たちルーベル家は長屋に泊まり、明日、このレオ家の完成お披露目会および祈祷に参加する。


「こんな広い家で落ち着くかな」とジンは難しい顔をしている。


「長屋の部屋数を増やした時もそう言って、こんな顔をしていたけど慣れたよね?」


 ジンは話しかけたルカに向かって「確かに」と微笑んだ。


「ええ、すぐに慣れますよ。前よりも近くなるので嬉しいです」とロイも笑う。


 庭を移動して、兄が飼うかもしれないと造った馬小屋を見学し、近くにある犬小屋も確認。

 番犬は飼うと決まっていて、番犬の訓練をされた犬がきてくれるからすこぶる楽しみ。

 三頭黒巴犬にちなんで三匹飼うそうだ。


 最後はトト川側の塀に作られた舞台へ上がり、そこから下を眺めて「高い……」と呟いた。

 

「でもええ景色だね」


 いつの間にか隣にロカがいたので話しかけたら、彼女は「お姉さん、すごいねぇ」と花が咲いたような笑顔を見せた。


「鳥が近い気がする!」


「うん、雲もね」


「ウィオラさん! この高さでも平気なんですか? 長屋の屋根より高いですよ!」


 ロカに手招きされたウィオラが来て、「全然平気ですよ」と肩を揺らした。


「屋根と違って床が 真っ直ぐですもの」


 何度か長屋の屋根で歌って踊って演奏してきた義姉は、今後はこの安全だけど高さのある舞台を使う。明日の祈祷も、彼女がここで行ってくれる。

 明日は出張かめ屋がここで料理などをしてくれて、色々な人に引っ越しの手伝いもしてもらい、お世話になっている人達と餅つき付きの大宴会だ。私はレイと料理係をする。

 そのレイは、ロカに「二人部屋にしようよ。二人に慣れてきたから」と言っている。


「ルルは寝相が悪いからロカと二人がええ」


「私はええよ」


「はぁああああ⁈ 寝相が悪いのはレイでしょう? 私がロカと相部屋になるからレイは憧れの一人部屋になりな」


「かめ屋でずっと一人部屋だったから」


「うるさいわよ、あなたたち。部屋割りはルカが決めたから従いなさい」


 もう引っ越しなのにどこに自分が住むのか分かっていないんだと驚く。


「あのねぇ、レイはともかくロカまで私の話を聞いてなかったの? ロカは生まれてくる弟か妹の世話人だからお母さんたちの隣」


「お兄さんじゃないから覚えてるよ。その私の部屋にレイやルルが来るか来ないかでしょう? 来ればええよ。子守りの見本がいないと不安だもん」


「まっ、私は神社と雅屋とここの三箇所暮らしになるからたまにはルルと遊んであげるよ」


「レイがそう言うなら仕方がない。ロカを間に挟んで寝よう」


「ええー。それは嫌ぁ。あはは」


 かめ屋へ住み込むようになったレイ、子守りや男性除けや花嫁修行だと我が家で暮らすことが多かったルル、ずっと長屋住まいだったロカは姉妹の時間が増えそうで、それが楽しみ、嬉しいと伝わってくる。

 ルカが私にぼそりと、「なーんでそこでルカ姉ちゃんは出てこないの」と少し不機嫌そうな声を出した。


「私もわりと前からリル姉ちゃんって言われてない気がする」


「ウィオラさん、茶室で姉妹茶会をする時はあの離れでお泊まり会もしましょうよ」とロカがいつものようにウィオラにひっついた。


「その時は私とルカ姉ちゃんが同じ部屋にしよう。二階がええな」


「ルルはルカ姉ちゃん不足だもんね。じゃあ私はリル姉ちゃんにしよう。ロカはウィオラさんに懐きまくっているからウィオラさんで」


「えー! 毎回変えようよ! 私もルカお姉さんとリルお姉さんの日が欲しい!」


 私とルカは顔を見合わせて何も言わずに笑い合った。

 ジンが兄に、「らしいから、嫁がいない日は男二人でなんかするか?」と言い、「そんなの酒と将棋だろう」という返事をされた。

 

「リルとルルが来るなら子守りはロイさんだから……俺らは二人だな」


「なぜ自分を除け者にしようとするんですか。そんなことは許しません」


「仕方ない。親父たちに子守りをさせましょう。孫たちと遊んで寝ろは親孝行だから大丈夫。あはは」


「ロイさん、前よりは近いから気軽に来てええですからね」


「長屋にもぷらって来てたんだからもっと来るかもな」


 すると父が「ガイさん、四面打ちがしやすくなりそうですよ」と告げた。


「孫を早く寝かしつけたらお役御免になって将棋大会です。なんなら本当の大会にも出ましょうよ。家が建ったから、前よりは遊びに時間を割けるというか、割きたいです」


「それなら猛特訓ですね。いやあ、ついに俺の誘いに乗ってくれるのか。嬉しいです」


 義母が母に「エルさんの仕事が増えそうですね」と苦笑いを向けた。


「仕事を辞めてから、体が弱ったり壊れるまでは私が大黒柱妻って言うて、働け娘たちって言うてるんで変わりませんよ」


「そうですか? お父さんが入り浸ると味つけなど面倒ですよ」


「そこはテルルさんが教えに来て下さい。もうわりと知ってますけど細かいこととか。足腰を鍛えるのに、遠すぎない距離になりましたよ」


「憧れの犬の散歩も出来ますしね」


 家族親戚みんなが笑っていて、私たちはますます仲良しになりそうな予感。

 今夜は最後の長屋宿泊日だから、きっと大いに盛り上がり、ちょっと泣き、明日の大宴会でもそうなるだろう。

 

「あっ、蛇さん」


 レイスが指をさした先には我が家でたまに見かける縁起の良い蛇がいた。

 のんびりした様子で池の石の上でとぐろを巻いている。

 

「レイス、ウィオラさんは神様に仕える仕事をしているから、そういう人が暮らす場所は聖域って呼ばれる」


 兄がひょいっとレイスを抱き上げて、羨ましそうな顔をしたけど何も言わないジオのことを手招きして、反対側の腕で抱き上げた。


「蛇の福神様の中にはセルアグっていうやつがいる。大地を耕し、実り豊かな農作物を作れるようにしてくれる食べ物の福神様だ」


 その話は初めて聞く。兄は真面目な顔で甥っ子たちに「この家では生き物を殺すな」と告げた。


「絶対には難しいけどな。殺さないで庭とか外へ捨てなさい。ウィオラさんに惹かれて遊びに来た副神様だったら大変だ。見分けがつかないから気をつけろ」


「分かりました」


「わかりますた」


「おじさま、ユリアも高いのがええです」


「次はユリアだ!」


 兄はレイスとジオを地面に下ろし、蛇の副神様に挨拶をしてきなさいと二人の背中を押し、ユリアを抱き上げてくるくると回った。

 それに合わせるように楽しげに蛇が揺れ、レイスとジオはウィオラに誘われて、ルル達と合唱を開始。

 ロイが私に「ますます家族親戚の絆が深まりそうですね」と微笑みかけたので、同じことを考えていましたと笑い返した。

 私たちはどんな生活になろうと、どこへ住もうと、きっとずっと幸福だろう。

 新しい家で産まれる予定の弟か妹も待ち遠しい。


 ☆★

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