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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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未来編「手相2」

 義母が渋々、ルルのわがままを聞いて釣り書を書いているので、私は手相の紙を見ながら自分の手を眺めたけど、該当するような線は特にない。


「リルさん、そちらはなんですか?」


 お風呂から出てきたロイが。私の隣に腰かけたので説明。


「へえ。手相。勘が優れた方は顔を見て人について当てると言いますが、手のしわもあるんですね」

「占い猫おばばは顔をじろじろ見る人でした」

「リルさんはどういうしわでしょう。夫婦なのに手のしわをまじまじと見たことはないですね」

「はい」


 ロイの手も確認したら、義父と同じく知恵の線が一部二重だった。心の線は私とそっくり。


「父上と同じってことは血が繋がっていると似るんでしょうか」

「旦那様の命の線、ここで切れています」

「えっ?」


 驚き声を出したのは義母で、ロイの隣に来て右手を確認。


「これ、今の年齢くらいのところよ。事故や大きな病気に気をつけなさいって意味。私は五十才から五十五才の間は、数カ月に一回は治療家にみてもらいなさいって言われたんです」


 半信半疑ではあったけど、他のことも言い当てられて怖かったので、そのことだけは忘れなかった。

 結果、義母はとても早い段階で石化病を見つけられて、こんなに早く発見したから、この薬が効くかもしてないと服薬を開始したそうだ。

 

「そうしたらほら、命の線が繋がったんですよ。しかも伸びたんです」

「前を知りませんけど、自分みたいに切れていたんですか?」

「そうなのよ。ロイ、あなたも気をつけなさい。手相はそうやってあれこれ気を付けるためのものって言うていましたよ」

「それなら、今週中に薬師所へ行きます」

「いいえ。医者、鍼灸師、揉み療治師、薬師と一通り行きなさい。妻や子供と長生きして、孫も見るんですよ」


 そもそもロイの命の線は昔から心配、と義母はため息を吐いた。

 

「でも、剣術道場に入ってから太く濃くなったから、心配だけど丈夫になっているんだなと。それでお父さんに、辞めさせてって言いませんでした」

「そうなんですか。そう言われるとレイスとユリアも気になります。寝ているから起こすのはアレなので、明日の朝見ます」


 ルルが、ロイさんに色好み線はあるのかないのか、とロイの手相確認。


「おっ、ロイさんも浮気者ではないですね」

「そんなのルルさんに手相を確認されなくても、分かりきったことです」

「浮気と言えば火消しさんなので、ティエンさんだけではなくて、沢山確認してみます。面白そうですから」


 この日はこのような軽い雑談で終了。翌朝、ユリアとレイスの命の線を確認したら、ユリアは濃くて太くて長いのに、レイスは薄くて細くて、しかも義母が「丸みたいなものも、切れているのと同じく注意だったわ」と言い、昔のロイそっくりだから、風邪を引かないように注意。

 言われなくても、既にレイスは何回も風邪を引いているのに、ユリアはぴんぴんしている。なので、ますます気をつけて、大げさなくらい薬師所を頼ろうと決意。


 数日後、ウィオラが稽古をつけに来てくれたので、手相の話題を出してみた。


「あれっ。これ、加護線な気がします」

「加護線とはなんですか?」

「紙に龍神王様や副神様の加護があると書いてありました。この十文字です。三つもあります」

「リルさんには無いんですか?」

「うっすらあるような、ないようなです」


 義母に珍しい手相の人を発見したと報告。


「あら、本当。一つで薄めは見たことがあるし、リルさんにもあるけど、こんなにはっきりで三つ。ほらここ、リルさん、読んでみて」


 義母の書付に、濃いほど加護があるので、家族や友人知人にいる場合は大事にするようにと書いてある。二つある人はかなりの強運で、それ以上はまずいないという。


「ウィオラさん、左手にはないですね」

「左手にないのは、どうなんでしょうか」

「利き手は右ですよね。利き手が後天性です」

「生まれつき加護はなくて、今はあるのでしたら、神職になったからでしょうか。興味があるので先輩の手相にもあるのか確認してみますね」


 この数日後、ウィオラに同僚の奉巫女全員に最低一つはくっきりはっきりした大きな十文字の線があると教えてくれた。


「それで、他の方には全然です。リルさんみたいに薄かったり小さい加護線は見かけますけれど。自他ともに手のしわを確認したことがなかったので、面白いですね」


 面白いと言えばネビーで、他の人とうんと異なるらしい。


「ネビーさんったら、知恵の線がないのですよ。知恵の線ではなくて心の線かもしれませんが、彼には豊かな心があるので無いのは知恵の線だと思うのです」


 絵に書いてきたという兄の手相は、確かに一本線が足りない。


「おバカ手相ということでしょうか」

「ふふっ。リルさん。ネビーさんもそう言いました。ど忘れ線というか、ど忘れだから線を忘れているって」


 そこへ義母が来て、手相の紙が他にもあったと持ってきてくれた。それを眺めていたら、ど忘れ線は「天下取り線」で、この男性がいて努力家なら玉の輿になれるので狙いなさいと書いてある。


「……まぁ。リルさん、リルさん、ネビーさんは天下取りの線ですって。両手ならなお良しと書いてあります。左手はどうだったか覚えていません」

「ウィオラさん。兄は直したから分からないでしょうが、左利きです」

「そうでしたか。初耳です」

「生まれつき天下取りの線ってことですか」


 気になるので、後日ウィオラに兄を呼んでもらった。確認したら、両手とも線が一本足りないし、太いし濃い。


「命の線が二本ある」


 新妻に触られると、兄の鼻の下が伸びて気持ち悪いので、私とルルで兄の手のひらを確認中。


「ん? そうか? そういわれたらそう見えてくる」

「っていうか、兄ちゃんにも加護線がくっきりある。左手にだけ二つ」

「俺にも? 加護ってなんの加護だ?」

「ウィオラさんにあるんだよ。奉巫女には全員あったって。神職の夫ならあるか」

「これ、ふと見たらあったぞ。昔はなかった。自分の手って、たまになんとなく確認するだろう?」

「そんなことしないよ。昔っていつ頃?」

「ウィオラさんと出会った頃。かわゆい手だったなってにやにやしていた時に、こんな目立つ線はあったっけ? 運命の出会い線か? って思ったから覚えてる」

「うわあ。息を吸うように惚気てうざい。運命の縁談線はこっちらしいよ」


 ルルには沢山細かい縁談線があるのに、兄には一本だけで、指の方に向かっている長い線があった。


「こんなに違うんだな。ウィオラさんは?」


 兄が触るとうざいからと、ルルがウィオラの線を確認した結果、薄くて細かい線がいくつかと、下向きの濃いめで短い線と、兄と似たような上向きの濃くて長い線があった。


「テルルささん、これはどういう意味ですか?」

「……それよりも私は、これがネビーさんの手相そっくりで気になっています」


 義母が示したのは覇龍線という、こちらも玉の輿相手になるので、いたら縁結びしましょうと書いてある線。


「本当ですね。似てる」


 ルルが兄の手と紙を見比べる。


「……まさか。加護線があって、天下取りで大強運の覇龍線ってなに?」

「そうだよね、ルル」

「うん。勘違いだよきっと」

「なんや、面白い話をしているなぁ」


 お風呂から出てきた義父が、途中から聞いていたようで私達の会話に参加。


「本当に似ているなぁ。でも当たっているんじゃないか? 長屋の竹細工職人の息子が番隊幹部で、よほどのことがなければ数年の間に師団長だ」

「俺、師団長になるんですか?」

「師団長は通過点で番隊長だぞネビー君、期待しているからな」

「はいはい、ガイさんの願望ですね。総官も結局、全然引っかかっていませんでしたよ。あはは」

「大狼事件のことを公表したから、番隊長はかなりあるぞ。そうしたら、天下取りは当たっているじゃないか。妻は神職で自分は番隊長なんて、そりゃあ珍しい手のしわがあるのも納得だ。消えるらしいから、消えないように励みなさい」


 ふーん、と兄は自分の手を眺めて不思議そうに首を捻った。

 色々分からない線だらけだけど、似ていたり、違っていたりと愉快なので、私は手相のことをセレヌやルシーへの手紙に書いた。

 わりと時間があり、顔も広いルルが沢山手を見て回って、色好み線や命の線の見方は当たっているとか、兄の手相は珍しいとか、ウィオラの加護線も全然いないとか、レイもちょっと変だと調べてきた。


 レイの何が変わっているかというと、他の人はまっすぐ気味の中央線が斜めにあって、知恵の線と心の線と命の線を横断しているというところ。

 これがなんだか分からないけれど、珍しいということは分かった。

 ちなみに、兄が可愛がっているユミトの中央線の手首側に大きめの楕円があって、丸や切れているのは良くないと義母に聞いたから心配になったそうだ。

 これもこれから不幸があるのか、それとももう過ぎたのか、知識がなくて分からない。


 約一か月後、我が家あたりには行けなかったけど、煌国には寄ったのでとセレヌから手紙が来た。

 そこに、手相は医学にも通じるかもとレージングが勉強しているから、今度我が家へ遊びに来れたときに本を贈ってくれるという。

 ほぼ同時にルシーからも手紙が来て、皇居では昔から一部の手相を健康に利用していると教えてくれた。

 仲の良い友人が、皇居薬師に教えてもらった健康の秘訣という命の線についてまとめたものをを同封してくれたので、また皆でわいわい。

 

「お兄さんの命の線二本は、殺しても死なないんだって。ルル、今度実家に帰ったら、教えてあげて」

「火消しさんや兵官さんばかりにあると思ったら、殺しても死なない線なんだ」

「元気で体力がある印みたい」


 そう考えると、知恵の線が二つある義父とロイは賢いのではと考えたルルは、屯所や防所で補佐官系達の手を見せてもらって、友人知人通行人には全然いないのに、けっこう見つけたそうだ。やはり賢いと二本になるのかもしれない。


 やがて年が明けて、私達に妹が生まれ、入れ替わりのようにレイが半家出。

 親は許したというか諦めた。自分達には家族が沢山いるけど、ユミトには誰もいなくて、彼の消えた先には友人知人も皆無だからと、ユミトの親友と二人で「彼を一人にはしません」と言った彼女を説得出来ず。


 レイといつ会えるのか分からないというような、寂しい生活になって、しばらく経過して、桜が咲き始めた頃にセレヌとレージングが我が家を来訪。

 流行りが過ぎかけていた手相の本を贈られたので、再び興味を抱いて、レージングがわりと勉強しているというので医師である彼の診察も兼ねて、命の線を確認してもらった。

 ロイは医学関係者達に大丈夫、健康な体と言われたのに、レージングは悩ましいという表情に変化。嫌な予感。


「珍しいです。このカビ兆候は煌国で見たことがないんですけど……。ロイさんか知り合いで、異国へ行った方は……。ああ、リルさんは皇居華族と文通していましたね。皇居は出入りが多いです。手紙に紛れていたのかなぁ」

「異国のカビが旦那様に悪さしていますか?」

「手紙につくくらいの量だから普通なら平気なんでしょうけど、生来体が弱いようですから」

「これは最近発見した代物です」


 ちょっと迷うし、研究中なのでとレージングとセレヌに言われて、衝撃的なことにロイは血を抜かれた。

 針を刺されて吸われて、それがあれこれ色々なものと混ぜられていく。

 それを、セレヌが金属の箱にしまってあった、けんびきょうというものを使い、レージングとセレヌの二人で何かを確認。


「レージング。これ、タベルナじゃなくてレトゥムじゃない?」

「多湿の国になんでまた東部砂漠のカビ。しかも体に入り込んでいるなんて」

「とりあえず出来そうなこと……。唐辛子を多めにとってもらいます。キチムも作ろう。セレヌ、確か作り方を記録していたよな?」

「ええ。任せて」

「あの薬草、まだあったかな」


 キチムは白菜の唐辛子漬けで、東部砂漠のある国では万病避けらしい。

 それでまぶたの裏の青緑色の点々——私たちには全然分からない——が消えたら、気にしなくて良くて、今手持ちがない東部方面の薬草も送るからさらに心配ないと言われた。

 点々が分からないと言ったら、半年以内に来るようにしてくれるという。親切!


「旅をする、知識豊かでこの国にはないことも出来る友人がいるなんて、ありがたい話です」

「いえ、こちらこそ。毎回宿代が浮くし、楽しいのでありがたいです。煌国にレトゥムなんて、気候が少しずつ変化しているからかなぁ」

「しばらく滞在して調べて役所と話してみましょう。ロイさんの体質が特殊なのかもしれないわ」

「そうだな」


 こうして、セレヌ一家はしばらく我が家に滞在決定。しばらくいたら、多分ヴィトニルもくるのでは? とレージングが告げた。その通りで三日後に来てくれた。

 薬師に興味深々のロカが我が家に泊まって、学校と交渉して課外授業扱いにしてもらい、セレヌにくっついてお勉強。

 平凡な毎日のようで、そうでもない時があるし、どんどん変化がある。

 手相の本とレージングによれば、私には運が味方する線があるようなので、消えないようにすると良いと言われたけど、どうやったら消えないのかは謎らしい。

 手のひらを動かしてしわを作るようにしていたらどうかと言われたのでそうするようになった。


 ☆


 レージングが持ってきてくれた本によれば、レイの手相はたぶん人生をかけて恋を追う、しかも命がけになるかもという線だった。

 命がけなんて怖いので、変化しますように、どうか何もありませんようにと願っていたけれど、彼女は何度も死にかける。

 珍しい手相の兄は、そのままその手相が変わらないまま、やがて街一番の成り上がり者と呼ばれるようになる。なにせ、貧乏な家の長男が番隊長で大きなお屋敷持ちで妻は神職である。


 それは何年も後のことなので、私はまだ知らない日の話。

 知らない話と言えば義父母の馴れ初めなのだけど、二人とも話してくれないので、最近の私とルルは、手相のことは忘れてそっち話で義父母にまとわりついている。

 で、母に幼馴染のセイラさんに聞いたらと助言された。確かに。

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