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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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未来編「因果は巡る糸車10」

 月曜日の朝、俺はロイとガイと一緒にルーベル家を出発。

 出勤日の前日に泊めてくれて、もてなしてくれるってやはり親切だと思った。

 俺が住みそうなところの話や生活の知恵を教えてくれたり手の込んだ美味しい料理もそう。

 料理上手なリルの下で花嫁修行みたいな生活ってことはルルも料理上手?

 毎日凝った物は嫌だけど手抜きを頼む事は嫌がられないはずなので問題なし。

 ぼんやりするとそのようについルルに結びつけてしまう。情報がなければ考えなくて済むのに。絶妙な簡易釣書の狙いはこれな気がしてくる。

 だからガイは策士で仕事が出来そうな気配。なのに気さくなボンクラ親切親父みたいな雰囲気。

 柔らかだけど凛として厳しそうなテルルはガイを尻に敷いてそうだけど本当に怖いのはガイな気がする。


 殴り込み結婚お申し込みの当日は父親同士で話をして検討しますで終わりなのが普通だと以前習った。

 相手にしたくない気配なら玄関先で書類を預かって終わり。職場関係で格上だからルーベル家がお申し込み相手を家に上げたのは当然。

 ルーベル家の面々は誰もその話題に触れず。ロイに「お出掛けは祖父君にお願いしてからですかね」とかリルに「ルルは雅が好みです」みたいにたまに言われてどう考えても後押しされ気味。

 親戚が卿家でもルルは平家お嬢さん。華族はちび皇子様なのにどうしてそうなるのか不思議。蛇投げお嬢さんとはきっと気が合わないから?


 雅な返事、ちび皇子様、雅な返事、ちび皇子様、雅な返事、とまったくもって眠れなかった。なので生あくびをしながら歩いている。


(まさかルーベル家にプクイカがいるとは。養殖して大儲けしたいのに1年間で食べる分しか増えないとか面白かったな。絶滅しかけて増えるって)


 今日くらいに到着予定となっているけど早く6防に到着する必要はない。旅とは何があるか分からないもの。

 こういう旅は二度と出来ないかもしれないと、俺は煌護省教わった経路を無視して北西農村区と南西農村区を野宿してきたし。

 8時や9時くらいが交代や引き継ぎ時間のはず。その時間は迷惑になる。そういう言い訳を並べて街を見たいのでのんびりぷらぷら向かっている。

 歩きながらルルへの最初の返事を考え中。無粋な返事は悪印象で「なんだ」と思われる。しかしやり過ぎも良くない。


(ルルさんは的確というか強過ぎず弱過ぎない絶妙さだよな。ああっ! 単に地元に恋人はいますか? って意味かもしれない。うわあ。俺の返事がイマイチならのらくら逃げられる)


 モテ女だ。まあ、あの見た目でモテないなんてあり得ない。なのにあの照れたような慌てっぷり。チグハグな女性だな。

 俺は前方を二度見した。衝撃的な事にルル発見。背の高い格好良い男と並んで歩いて談笑している。

 思わず遠ざかって見つからないようにして後をつけてしまった。会話が気になるのでコソコソ近寄ってみる。

 笠があって良かった。昨日の着物は汚れ過ぎたので着物も違うし。


(美男美女でお似合いだな。歳は離れている。いやまた不正解かもな。年齢当ては無理)


 ルルは色男にとても親しげな笑顔を浮かべている。警戒心を向けられた時はキツい美人で怖いと思ったけどこの笑い方は癒し系でかわ——……転がり落ちたくない。

 そうなってからの袖振りは新生活にはキツい。こういう気持ちってこんな深く考えることだったっけ?


「——も助かった。俺、うらら屋苦手なんだ。新作を営業して来いって言われてもあの店は目が厳しい。俺は練習を重ねても喋り下手だからさ」

「うらら屋ならちょいちょいだよ。きらら屋の着物を着て妹が宣伝します、とかさ。美人姉妹を使い倒さないと。ジン兄ちゃんはそこが下手」


 兄ちゃんって兄はネビーだけだ。いや長女には夫がいる。義兄はジンってこと。

 ……美人って自分で言うのか。いや私は美人ではないと言われても困る。どう見ても美人だ。

 通り過ぎる男もチラッとルルを見てからジンを確認している。


「えっ。ルルちゃん宣伝してくれるの?」

「ヘンリさん達から宣伝売り子代を引き出してくれたらね。今日は少し後押しするだけ。リル姉ちゃんの誕生日の贈り物の下見もあるし。貧乏回避のコツは貯金だから無料(ただ)働きはしないよ」

「今日のルルちゃんはいくらかな」

「みたらし!」


 なんか幼い気がする。19歳だよな? 無邪気ともいう。


「み、み、みたらし。みたらし」


 歌い出した。昨日も歌っていたな。これがルルの素。俺もバカ騒ぎで歌うのは好きだ。


(楽しそうだな。予想通りというか予感通り。俺はこういう方が好み。淑やかで大人しいお嬢さんはよかだけどつまらないというか……)


 今みたいにワクワクはしない。こんな風にワクワクしたことはない。ルルはびっくり箱みたいで楽しそうでならない。


(ダメだなこりゃあ。本当に転落する)


 下手な返事をして即袖振りで撃沈。落ち込みの新生活。それは避けたいからまだのめり込まない方が良い。逃げよう。のらくらしつつ最初としては悪くない多少工夫した返事を考えないと。


「思ったよりも働かされたって高くなると嫌だから先に払おう。ちょうど甘味屋だ。美味いよなここ。すみません、みたらし団子を下さい」


 朝早くから商売とは感心と思ったらルル達の後ろに人が少し並んだ。人気店? 


「何言ってるのジン兄ちゃん。買うのは桜餅だよ! 桜餅! ふっふっふっ。買ってもらおうと思って入れ物もばっちり」


 盗み聞きもあれだし深い穴に落ちるのはまだ早いと思って去ろうとしたけど足を止めた。

 桜餅! という弾んだ声に反応して見てしまって笑顔に釘付けになってしまったから。


(みたらしって歌っていたよな⁈ みたらしはどこへ消えた⁈ みたらしじゃないのか⁈)


 やはりびっくり箱。意味不明なんだけど。


「桜餅はいくつ?」

「6つ。テルルさんがそろそろ食べたいって言うてたの」

「おお。高くついた。ルーベルさん家に帰るルルちゃんに聞くんじゃなかった。俺の今月のお小遣いがヤバい」

「兄ちゃんみたいに妹費はいくらまでって決めないからじゃない? 俺はもう払わない。日頃世話をしているから無料(ただ)で働けって言わないから。反省した方がええよ。買うって言うたから買ってね」


 ジンは桜餅5つとみたらし団子を購入してルルがカゴから出した竹細工製の箱を店員に渡した。仕草はやはり品が良い。

 みたらし団子じゃなくて桜餅だと少し揉めたけどみたらし団子。

 買ってね、と言ったのにルルも半分支払っている。ルーベル家までの用心棒代、らしい。

 盗み聞きしてる場合じゃない。逃げるんだった。


(買ってねって言ってお金を出すのか。しかもルーベル家に帰るってことはガイさん、テルルさん、ロイさん、リルさん、レイス君とユリアちゃん。そこにルルさん。6つ? 桜餅6つ? 足りなくないか?)


 そこに桜餅が1つ減ってみたらし団子が1本増えた。やはり1つ足りない。みたらし団子はみたらし、と歌っていたから?

 歩き出そうとしたけど気になって足が動かない。いや去ろう。


「みたらしは食べたいけどレイスとユリアがズルいって騒ぐんだよ。テルルさん厳しいからまた怒られて可哀想。我慢の練習はもっと大きくなってからでええのにさあ。やっぱり卿家っていうかテルルさんは厳しい。雷オババは怖い怖い。ウィオラさんも厳しいけどそっちはおだて上手で優しい」


 オババとか言うのかよ。俺がジジイってつい口にするのと同じか。

 っていうか全然大人しくない。ペラペラお喋りだ。リルと似ているところは品の良さ?


「今日は何かと思ったらそういうことか。でもルルちゃんは桜餅はそんなにだろう? 隠れて台所や自分の部屋で食べたら?」

「そうだった! 前にも言われたよ。テルルさんが食べたいなって言ったのと、違うのはズルいって話で頭がいっぱいだった。桜餅もほどほどに好きだよ。でも甘じょっぱい方が好き。みたらし大好き!」


 去り始めていたけど背中に「大好き!」という声がぶつかって転びそうになった。俺に言った訳ではないのに思わず振り返る。


(俺みたいにルルさんを見てる男がいる。いや今の少し大きめの声にあの発言だとつい見るか。うわあ、義兄って知らないからあのジンは羨望を集めてる)


 なにせルルは極上の笑顔。あれはかわよか過ぎる。俺の心臓も冷静ではない。

 かわよかと考えてはいけない! 逃げろ! と俺は走り出した。


(テルルさんが桜餅って……。桜餅はそんなになのに? 怒られたら可哀想……)


 隠れて食べるという考えは忘れるうっかりで、相手の為に自分が食べたいものは譲る。少しルルという女性について分かった。

 美人な上に性格も良い疑惑で微妙に隙もある。こりゃあモテまくりだな。自覚があるから初対面時の過剰気味に見えた警戒心。この二面性は気を許されたくなりそう。というか俺がそう思う。

 ジンがさらっとみたらし団子を買って「ええよ」と揉めてもジンはみたらし団子を買ったのは似たような事が今までにあったからだろう。


(今日は何かと思ったか……。知らないと言われた通りに桜餅を買う。嬉しそうに桜餅! だったし)


 お嬢さん感を壊すようなオババ発言やお喋りとか年の割に幼いところは人によっては欠点。そんなところ。文通していないのにまたルルの情報が増えた。増えてしまった。

 地図と教えてもらった目印を確認しながらそのまま6防へ向かう。これから新生活で仕事の話もされるのに頭の中がルルだらけ。困った。

 歌と笑顔と手紙の美しい文字に無邪気でお喋りで気遣い屋で優しいうっかり……。


(文具雑貨屋……。手紙の紙!)


 お店はまだまだ分からない。お願いしますの返事くらいは早い方が良い。自分ならその程度の返事が遅いのは嫌だ。

 とりあえず買っておけの精神で必要そうな物を購入。節約は大事だけど基本は現地調達でいいやと荷物はほとんど持ってきていない。

 化物の祖父に持ってこさせようの精神。年寄りだから、と荷運び係を頼んでくれる事になっているのもある。

 

 災害実動官南3区6番隊防所、通称6防へ初出勤というか到着挨拶をしに行ったら俺の所属はハ組という辞令を受けた。

 あれこれ説明されてハ組小防所へ連れて行かれて紹介されたら予想に反して歓迎。

 火消しは家族親戚や関係者などで組だから余所者扱いの遠巻きから始まると思っていた。

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