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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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特別日編「ルーベル家と異文化交流3」


 指ぱっちんって初めて見た。真似してみたけど鳴らない。


「リルさん、中指の方が鳴ると思うわ」

「こうですか? ああ、少し鳴りました。指ぱちんはどういう意味ですか?」

「人により? 私は使わないわ。ヴィトニルはもう帰ったら? 侮辱は誤解だって分かったし。変だ、あの人は俺を侮辱しない。誤解されているのは嫌だ。やる事が山積みだしそのくらいのことで会いに行くのはどうかとか、どういうことだってブツブツ毎日うるさかったけどこれで終わりで楽になるわ」

「セレヌさん。そもそもどういう誤解ですか?」


 セレヌは苦笑いで肩をすくめて問いかけたロイの方に体の向きを変えた。


「ヴィトニルはこのお地蔵様が気に入らないんです。村の守り神なのに雪かきや笠を与えられたりお供物をもらってから守るとは怠けている。小さな村に9体しかいないなら国中で何千といるのに色々な町で家が潰れていたりするのは怠け者集団だって」

「その通りだろう。大体人さえ喋り、医術を学び、多くの文字を読めて手足を動かすというのに大したことが出来ないのは怠惰だからだ。日頃から鍛えていないから悲惨なことが起こり守るべき者を守れない。恩には恩を返すという当たり前のことが広まっていないのもこいつらがサボっているせいだ」


 そうなんだ。言われたらそうな気がしてくる。笠売り男と地蔵のお地蔵様は怠け者だったのか。


「そもそも笠売り男の望みや祈りなど即座に分かるのにしょうもない会議を始めるとは頭が悪過ぎる」

「この調子でとにかくお地蔵様が気に入らないみたいです」

「気に入る要素がどこにある。こんなアホで軟弱地蔵は俺どころかこのロイさんやリルさんより劣る。この話の国と地蔵の元になった何かしらが分かれば諸悪の根源を叩き壊しに行くところだ。絶対にロクな国じゃない」


 セレヌは「この調子です」とまた肩をすくめた。


「あの、ヴィトニルさんはその国を見つけたら何をするんですか?」


 困惑気味のロイが尋ねた。私も驚き中。あの話からそこまで考えるんだ。

 しかも「諸悪の根源を叩き壊す」ってどういうこと?


「ヴィトニルなら滞在中に助けられるだけ助けて、他に与えて支え合えと言って回ります。というかいつもそうです。居なくなっている時が多分そうです。私やレージングは医学の勉強とかがあるから残るけどヴィトニルは煌国王都みたいな治安が良いところだと私達の送迎だけで行方不明になります」


 行方不明になるけどまた会えるんだ。不思議。


「行方不明? ヴィトニルさんが火事に飛び込んだのもそういうことですか?」


 私もロイと同じように気になる。


「ロイさんが先程言っていたじゃないですか。目の前で人が転んだり倒れたら声を掛けると。何か違いますか?」

「いや、火の中に飛び込むのと軽く手を差し出すのではまるで意味が違います」

「それもロイさんが言いました。大金持ちの小型金貨1枚と庶民の小型金貨1枚の価値は違うと。神に愛されているように恵まれた能力を授かって生まれて大金を稼げる俺と平々凡々で非力で弱々の庶民であるロイさん達は違います。あなたは笠売り男側。俺は庇護する側。俺はこの地蔵よりも働いています。話を聞いたらあなたもリルさんもこの国の多くの者もそうです」


 目が点とはこのことかも。ヴィトニルは立派な旅医者どころの話ではない人疑惑。


「だから俺は忙しいんです。レージングがたまにはその庇護する側を見てきたらというのもあって来ました。その間に何人死ぬんだ? って言っても行ってこい行ってこい」

「たまには休んだら? でしょう。私は休みにきたわ。疲れて動けないとお父さんやレージングのお手伝いが出来ないもの。うっかり薬の調合を間違えたら悲惨よ」

「あの、ヴィトニルさんというか皆さんは何をしてお金を稼いでいるんですか? 火災で謝礼を受け取らなかったそうで、いつもそうなら貴方達こそ笠売り男です」


 ロイの問いかけにヴィトニルは首を捻り、セレヌは微笑んだ。

 後でロイにセレヌ達は青薔薇のお姫様に頼まれ事をされたことや私達から皆繋がっている話をしたら驚くに違いない。


「悪徳そうな金持ちから横取りしたり宝石の原石を売るとか稼ぐなんて簡単です」

「あちこち行くので行商とかです。今日はリルさんに編み物セットを小型金貨1枚で売って大儲け。あるところから巻き上げています」


 ロイが私を見て笑った。


「リルさん巻き上げられたんですか」

「はい。代わりに編み物を教わります。あとおもてなしをして楽しませて働く元気をつけてもらってそれで人助けに参加です」

「なんで俺のお礼は過剰で安物の編み物セットは小型金貨1枚で納得なんですか?」

「1大銅貨しない御守りのお礼に小型金貨1枚はおかしいです。それから天上人のお嬢様はメリアス編みしか知りませんでした。セレヌさんが教えてくれるとハイカラ中のハイカラになれます。新米嫁なので嫁友達作りの話題になります。作ったもので大儲け出来るかもしれません」


 顔全体は見えないけどヴィトニルは呆れ顔になった。


「儲けて何かに使うなら手にあるお金を使えばいいのでは? っていうか何で売ったんだセレヌ。プレゼントって言っていたのに」

「私達は資金が沢山あるけど逆は分からないから贈り合いになったら困らせるじゃない。お父さんやレージングに言われたでしょう? ヴィトニルは与える側の事ばかり考えて逆について考えなさすぎ。迷惑なのよ迷惑」


 スッと立ち上がったヴィトニルは少し考えるように首を傾けた後に腰を下ろした。


「セレヌだって今のセリフはどうせレージングの押し売りだろう」

「うん。でも正解みたいよ。私はこの浴衣を遠慮なく受け取って今夜は泊めてもらうの。後で茶道っていうおもてなしをしてくれるって! それこそお金では買えないわ! 休みがあったらそのうち憧れの学校に通うの。寺子屋っていって何歳でも何日でも良いんだって。そんなこと誰も教えてくれなかった」

「それは知らなくて悪かった。憧れのってそれなら1年くらいどこかで学校に通ったらどうだ?」

「そんなに長くは嫌。寺子屋なら短くても学校体験出来るんですって。煌文字をもっと覚えられそうでそうしたらもっと自由に文通出来るわ」

「学校に憧れがあるなんて知らなかった。レージングも知らないか。寺子屋なら明日から通ったらどうだ? お金はあるし寺子屋は日にちも時間も自由だぞ」

「時間も? そうなの? 通う!」


 これはタイミングではないだろうか。


「旦那様、セレヌさんはレージングさん達が女性に厳しい国へ行っている間は煌国で息抜きだそうです。いつも沢山働いているからです」

「それなら我が家に居ると良いです。セレヌさんが良ければ。両親は反対しないと思います。寺子屋も遠くないし茶道のお稽古体験なども母に頼めば出来るかと。それか妻が友人に頼んで了承してもらえれば共同茶室を借りて簡単なお茶会も出来ます」


 勢い良く立ち上がったセレヌが私達に向かって会釈をした。


「それはうんと楽しそうな話です! ご両親に私から頼んで了承してもらえればそうしたいです! きゃあ。ヴィトニル聞いた? お茶会って前に通りかかった時に見かけたなんだかこう楽しそうな会よ! 花を見ながら綺麗な器でお茶を飲んでいてそういうのを雅って言うのよ!」

「あれは野点だ。お茶会も憧れだったのか。寄れたんだから言えよ。そのくらいの息抜き時間はあるだろう?」

「違うわよヴィトニル。レージングとではなくて女性の友人みたいな方々とっていうのが大切なのよ! そんな話をしたらレージングが拗ねるじゃない! 流星国や白銀月国以外でこういう楽しみが増えるってことよ!」


 セレヌはとてつもなく楽しそう。手を差し出されて戸惑っていたら手を取られて立たされた。

 横、後ろ、前と動かされる。セレヌは鼻歌混じりでニコニコしているので何だかこちらも楽しくなってきた。


「すみません。嬉し過ぎると我を忘れるというか歌ったり踊り始めるんです」

「セレヌさん。これは踊りですか?」

「ええ。本当は男女で踊るけど私は女性同士でも楽しいと思っているわ」

「踊りを好まれるのなら煌国の踊りも教えます」


 男女……!

 私は思わずロイを見た。ロイはヴィトニルを見据えて笑っている。


「お礼にお金よりも数年に1度でもよかなので遊びに来て下さい。生まれてからこの土地を離れたことがないので価値観の違いに衣服など興味津々です。悩み事が解決したのかも気になります。妻もこの通りうんと楽しそうです」

「分かりました。侮辱されていなくて安堵です。博識だから何もかも見透かせるとか何でも分かるなんて傲慢だったと反省します。頬を拳で殴られた気分。秘蔵酒も気になるしレージングがあれほど息抜きしろと言うから俺も今夜はここに居座ります。奥様、せっかくなので西の国風でエスコートします。ロイさんと覚えて楽しんで下さい」


 そう告げるとヴィトニルは立ち上がって私とセレヌの近くへ来た。


「ロイさん。隣の部屋は空き部屋ですか?」

「ええ。両親の寝室で今は何も」

「それなら失礼します」


 ヴィトニルは義父母の寝室との間にある襖を開いた。それで寝室の中央で私達に向かって両腕を広げてその後はその腕を体の前後に移動してお辞儀。

 なんだかとても格好良い!


「青鬼灯家の奥様リルさん。おもてなしして下さるそうなのでどうか一曲踊って下さい。セレヌ、何か曲。笛があるだろう」

「何かってヴィトニルの曲は決まっているじゃない」


 セレヌが私にこうするのよ、と教えてくれた。

 ひゃあ!

 ユース皇子様風のご挨拶!

 その後はさらにひゃあ! で左腕で軽く抱きしめられて右手は恭しく取られた。

 皇女様やお姫様はこのような扱いをされる気がしてならない。義母にもしてもらわないと!

 見たらセレヌは腰に巻いている鞄から笛を出した。白銀製のピカピカの笛で私が聴いたことのない音が出た。静かだった部屋に穏やかな曲が流れる。


「足を踏んでも良いので、そうそう」


 後ろへ行ったり前へ出たり斜めにもなるし体を少し反らされもしたし2人でゆっくりと回転まで。これは楽しいけどすこぶる恥ずかしい。


「ロイさん、どうぞ」

「……ええ⁈ 自分ですか⁈」


 ヴィトニルは私から離れてまた格好良い会釈をしてくれた後にロイを立たせた。

 

「まずはお誘いのご挨拶。こうです」

「えっ⁈ あっ、はい。はい……」


 ロイはかなり照れ照れ。私はロイにこのご挨拶をされて大満足。


「踊る際の手はこうです」

「あ、あの。これはこの国としてはかなり恥ずかしいというかあのですね」

「女性に、それも奥様に恥をかかせるものではないですよ。エスコートは男性の(たしな)みです。西の国では、ですけどね」


 ひゃあ!

 ヴィトニルはまだ何となく異国の人だから恥ずかしくても耐えるぞと思っていたけどロイとこの格好はとんでもなく恥ずかしい。

 

「動きは好きにで構わないですけどこういう風に」


 ヴィトニルはロイの後ろに立ってロイの腕に手を添えてロイを人形みたいに動かした。それで私も動くので……踊りだ。美しい曲も流れているし素敵。


「あはは。煌国の文化は地域で違うけど全体的に男女は公の場では接しないのはわりと共通。理解出来ないけどそうなんだって思っていたら本心でそんな感じなんですね。これも勉強になりました」


 ロイと私はしばらく踊らされてタジタジ。


「ヴィトニルはロイさんから学べるんじゃない? 熱烈で逃げられているからそうではないのを学べて。私もびっくり。ダンスは照れるけどここまで恥ずかしそうだなんて。照れ屋の私よりも恥ずかしがり屋達だわ」


 そうなんだ。煌国は照れ屋の国なのか。私とロイの踊りはこれで終わり。

 そこにカラコロカラという玄関の鐘の音と「ごめん下さい」とネビーの声。もうそんな時間?

 カンカンカン! と16時の鐘の音。つまりまだネビーが来る時間ではない。

 お出迎えしたら制服姿で出稽古用の荷物を持っていた。さらにそこに酒瓶が2本入っているカゴ。

 尋ねたら「上司に今日はガイさんやロイさんから卿家についての勉強をする予定って雑談をしたら早めに行って2時間くらいこの辺りの見回りとそこの小屯所(ことんしょ)にお遣いとかをしなさいって言われたからとりあえず荷物を置かせてもらおかと」という返事。

 今夜ネビーは泊まって明日ロイと一緒に出稽古へ行くことになっていたのでお客様が沢山。

 来るかもしれない話はしてあったけど、改めて旅医者で薬師担当のセレヌと護衛担当のヴィトニルが来ている話をして仕事前に軽く挨拶となった。


 居間に集合してロイがネビーをヴィトニルとセレヌに紹介。ネビーが今夜泊まることや、ヴィトニルが明日も煌国にいるならロイは出稽古を休んで観光案内などをすると告げた。


「いやむしろその出稽古が気になります。見学って出来るんですか? 人も多そうだから話も聞けそう。色々知っているつもりだったけどそうではなかったし通りすがりで学ぶとか読書では不足だと感じたので」

「それなら仕事終わりに先生のところに顔を出して確認してきます」


 そうなると明日の出稽古は私も気になってくる。ロイの凛々しい姿もだけど稽古見学時のネビーが衝撃的なくらい強かったのであれをまた見てみたい気がする。

 義母と義父も驚いていたし次の剣術大会は絶対に見学すると言っている。2月末の大会はネビーが「多分負けるので」と嫌がってロイも選考にもれてしまったから行けなかった。

 次は4月に南地区剣術大会があって勝つと6月末の南上地区剣術大会らしい。

 剣術道場にはネビーより強い人が数名いて出稽古先では増えるからロイは「見応えありますよ」と言っている。

 以前ご挨拶に行った時に「布団の取り込み」と帰ってしまったのが悔やまれる。

 そこに旅医者を護衛するヴィトニルが加わったらなんだか凄そうだから気になる。


「お願いします。それにしても弟って養子だったんですね。しかもつい最近。顔立ちがリルさんと良く似ています。義兄弟なら俺とレージングと同じです」


 性格がかなり似てないし金髪と黒髪だよなと思っていたら義兄弟なのか。


「俺と妹は親父似です。護衛担当ってその雰囲気だとかなりの手練れそうです。時間があれば異国の剣術を教えて欲しいです!」


 ネビーあるあるというかやはり人見知りしないみたい。義父やロイにビビったのはなぜなのか。


「自分も小さい大会に出られるくらいにはなりたいのでこの国以外の指摘をされたいです」

「それならとりあえずネビーさんの見回りについて行こうかな。散策が面白かったので。あとその先生にご挨拶も。直接頼むのが礼儀なんで。ロイさんは明日の出稽古ででも」


 事件がなければ散歩みたいなもので事件があったらロイにヴィトニルを任せるという話になって3人は出掛けることになった。

 片付けないでそのままで、帰宅後に手をつけていないお酒を飲んだり食事をしますとヴィトニルに告げられた。それで私とセレヌは編み物教室を再開した。

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