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異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと  作者: アニッキーブラッザー
第九章 俺は嫁を二度と泣かせず、幸せにする(17歳)

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第295話 嫁の父

『一人で来い。後ろの娘たちの無事は保障する』



 魔王からのお誘い。ここで行くのがいつものパターンだ。

 だから、お望みどおり行ってやる。

 ただその前に、どうしてもこれだけは確認させて欲しい。


「なあ、ジャレンガって言ったな?」

「あれ~? 呼び捨て? 殺しちゃうよ?」

「………俺のことを騒いだ、ガラクタ人形とやらは………元気か?」


 お前なのか? ドラ……

 俺のそんな想いを抱えた問いかけに、ジャレンガは頷いた。


「さあ? まあ、元気なんじゃない? 今頃さ、ボクたちの国で自分を作った『御主人様』と遊んでるんじゃない?」


 ガチでやる気が出てきた。



「おっしゃ! ようやく、先が見えて来た!」



 俺は思わず拳を握り、強く叫んだ。

 何も掴んでいないのに、何かを掴めそうなことに心が躍った。

 なら、もう後は走るだけだ。


「ヴェルト! ちょ、おいおい、行っちゃうのかよ!」

「ゴミッ!」


 俺は素直に階段を下りていた。

 魔族共が何をしようとしているかなんて、もう俺が考えてどうこうのレベルじゃない。

 今はそれよりも、ウラを、そしてようやく分かったあいつの安否とあの女のこと。

 あいつが何を考えてこんなことをしたか分からないが、まずは無事で良かった。

 そしてあいつはこともあろうに、御主人様とやらと一緒のようだ。

 コスモスの一件でも謎のまま謎に終わろうとしていた、あの女のこと。

 ここを越えれば一気に近づくと、俺は確信していた。



「まあ、その前にまずは、この嫁をどうにかしねーとな」



 そのためにも、まずはこれはこれでケリをつけねーとな。

 薄暗い直線が続く地下通路を真っ直ぐ突き進みながら、俺はニヤけていた。

 そして……



「ん?」



 暗闇の通路の先に、光が見えて来た。この先に待ってるのか?

 俺は気分をハイにしてその光へと飛び込んだ。

 すると……



「これは………?」



 それは、一言で言えば、マッキーの地下カジノの闘技場のような場所だった。

 というよりも、まんまだった。

 ドーム状の地下の中央に設置された円形状のリング。

 上を見渡せば、ぐるりとリングを囲んで見下ろす、何千人も収容できそうな、観客席。

 唯一、マッキーのカジノと違うといえば、マッキーのカジノは観客が欲望にまみれた人間たちの集まりに対して、ここでは軍人気質な魔族たちが騒ぎも起こさず、黙って観客席に座って闘技場を見下ろしていることか?



「ここで戦えってか?」


「その通りだ」



 その時、ホログラムではなく、こいつの姿と声を、ようやく目の当たりにすることが出来た。

 観客席の最上部のVIP席のような位置から俺を見下ろすように、奴が現れた。



「ふははははは、余の下までよくぞたどり着いたな、ヴェルトよ」



 ネフェルティ。やけに上機嫌じゃないか。

 自分の花嫁を奪いに来た男を前にして、何でこいつはこんな「楽しそう」なんだ?


「ああ、ウラを渡せよ」

「姫ならあそこに」


 ネフェルティが右を指差すと、そこには鳥篭のような鉄格子の牢屋の中に閉じ込められている、純白のウェディングドレスを纏ったウラが居た。


「おい、ネフェルティ! これは、どういうことだ! 私を出せ! これではまるで、捕虜みたいではないか! それに、この衣装はどうにかしろ!」


 いや、なにやってんの? ウラももはや、呆れてるのか恥ずかしいのか、顔を抑えながら叫んでいる。


「姫を帰して欲しくば、余を超えてゆくがよい!」


 そして、何だ? やっぱりだ。なんか、ネフェルティはノリノリだ。



「この決闘を制したものが、ウラ姫の婿となる。他国を含めてこれだけの証人がいる。たとえ相手が人間であれ、その約束は違えん。良いか? 『この決闘で勝ったほうがウラ姫の婿であるということを、魔族大陸全土が承認することとなる』。だから覚えておけ? 『その約束は絶対に違えることはできん』ということを肝に銘じろ」



 このとき、俺は何だか嫌な予感がした。

 まるで、逃げ道やルートがどんどん潰されて、何だか外堀から埋められているような感覚。

 何の逃げ道か? 人生の? まるで年貢の納め時を……


「ん~……まあ、いいか。とりあえず、喧嘩するんだろ? 早くしようぜ」


 とりあえず、ここでこいつと戦ってウラを取り戻すことに、何の間違いもないだろうから、ここは戦おう。

 それは当っているはずだ。


「ふはははは、ならば今すぐはじめようか!」


 ネフェルティは素早い手の動きで、何やら呪文のための印を結び始めた。

 この決闘場に下りてくることなくだ。


「ヴェルト・ジーハ。余はネクロマンサーだ。よって、余自身が殴りあうことは、余にとっての戦い方ではない。だからこそ、余の用意するアンデットに打ち勝ってみよ!」


 アンデットと戦う? まあ、そうだろうな。

 そこらへんはある程度想定していたことだ。


「分かったよ。んで? 誰を出す? 七つの何とかか?」

「いーや、お前にもっとも相応しい相手を用意した。結婚をするなら避けては通れない相手だ」


 闘技場に、星の魔法陣が浮かび上がる。その中央の地の底から、大きな人型の髑髏が浮かび上がり、その骨の周りを魔法の光に包まれた肉体が覆われていく。


「一度に何千以上の躯を動かす余が、この一体のみに力を集中させる。昼間相手にした下級兵や中途半端な力しか使わせなかった七つの大罪と同じと思うな?」


 同じかどうかは別にして……なるほどな……そう来たか……



「生前の遺品を使い、細胞・遺伝子レベルで全てを再現する。筋力、技、魔力、全てをかつてと遜色ないレベルまで到達させる。それが余のネクロマンサー!」



 ああ、何となく、この国がどういう国かを聞いていたから、こんなことがあるんじゃないかとは思っていた。



「あ…………ああ! あ……」



 檻に閉じ込められたウラが、鉄格子を掴んで身を乗り出し、涙を流している。

 その涙は、どんな意味があるんだ? 喜び? それともこの胸糞悪い願いを願った自分自身の愚かさか?

 それとも、安らかに眠らせてやることのできなかった、こいつへの懺悔か?


「嬉しいか? ウラ」

「………ヴェルト……ジーハ……」

「これが、お前の望んだことか?」


 俺の問いかけに、ウラは唇を噛み締めて答えない。

 答えられない。 

 だって、目の前に現れたのは、あの男。


「ふざけやがって。どーせ、こんなベタな展開だとは思ってたよ」


 その容姿は人間に近かった。

 身長も人間の平均男性と同じぐらいだが、その身体は鍛え上げられた筋肉を搭載。

 顔つきは二十代ぐらいに見え、黒髪の長髪。

 尖った耳と、赤い瞳が無ければ、魔族に見えない。

 そして、この人物のことを、俺はよく知っていた。



「七大魔王の一人。かつて、魔拳と恐れられし、シャークリュウ・ヴェスパーダだ」



 知ってるよ。魔王であるこいつも、こいつの魂についてもな。



「俺にこいつを倒してウラを手に入れろってか? まあ、間違ってねえか」



 ようするに、ウラが縋る幻影を、俺が超えればいいってことだろ?

 だが、やることやっても、ケジメはつけねーとな。



「とりあえず、この戦いが終わったら、ネフェルティ、そしてウラ。二人とも一発殴ってやるからな」



 安らかに眠っていたこいつを無理やり叩き起こしやがって。そのお仕置きだ。


「ほう、シャークリュウを知っているのか? だが、知っているのならむしろ納得であろう? 父から娘を貰いに行くというのは、結婚における通過儀礼ではないか?」


 確かに、ネフェルティ側から見ればそう取れるかも知れねえな。

 だが、俺は違う。



「その儀式なら、七年も前に済ませている。まあ、俺自身がその誓いをほったらかしにしていたのもワリーけどな」



 七年前を思い出す。鮫島と再会し、そして最後を看取ったあの時を。



「リレーのバトンよか遥かに重いものだ。魔王の娘でなく、あいつを一人の女として大切にし、そして幸せにしてやると誓ったあの日。それを疎かにしていたのは俺の責任だ。だから、それを思い出させてくれたウラの家出は無意味じゃなかった。でもな、それでもこいつは別だ」



 俺がもっとしっかりしてりゃ、ウラがこんなものに縋ることはなかった。

 ウラが縋りさえしなければ、ネフェルティはこんなもんを生み出すことはなかった。

 全ては確かに俺から始まったかもしれねえ。

 でもな、だからどうしたよ。



「俺のダチで遊びやがって! 覚悟しやがれ!」



 自分に対して、ウラに対して、ネフェルティに対しての怒り。

 俺はホルスターから二本の警棒を取り出し、開始の合図を待たずに走り出した。


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