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異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと  作者: アニッキーブラッザー
第九章 俺は嫁を二度と泣かせず、幸せにする(17歳)

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第289話 天候

 多分、この世界の歴史の教科書に出てきそうな怪物だが、教養とは無縁な三人が集まれば、伝説の怪物らしいやつが目の前に現れても反応に困る。


「うわ~、つか、何でこいつ座ったままなの? まさか、こいつが前世で有名だった考える人?」

「顔が気持ち悪い。死ね」


 ボロクソだった。


「でさ、ヴェルト、他の連中どうしたん? つか、今気づいたらヤバくね! あたしらだけだとヤバくね!」

「おい、ゴミ。とりあえず、この目障りなのをさっさと片付けろ。私の可愛さが損なわれる」


 黒ギャルエルフのアルテアは、戦う気がないどころか、自分の状況を把握してパニクる。

 一方で、竜人姫のユズリハは、俺を顎で使おうとする始末。

 このやりとりには、ネフェルティのホログラムもクスクス笑ってる。


『ふははははは、バラバラではないか。人望があるのかないのか分からん奴だな』

「大きなお世話だ! つか、テメェら二人もちっとはまとまって、キョーリョクして戦うとかねーのかよ!」

「はっ? ふざけんなし! 怪我したらどーすんだよ、水着とか着れねーじゃん!」

「死ね」


 ダメだこりゃ。仲間がバラけた不安より、単純に頭が痛くなってきた。


『まあよい頑張ることだな、他の戦場と同様に、結婚式の前夜祭の余興として楽しませてもらおう』

「あー、くそ、テメェこそ待ってろよな! こんなのソッコーでぶっ飛ばして、明日は離婚会見させてやるからよ!」

『できるかな? 怠惰と冠せられているとはいえ、侮るな? かつて、偉大なる魔法発明家として恐れられたベルフェゴールをな』


 くそが。多分ツエーんだろうな、この化けもん。

 最初はタイマンでもやってやろうって気持ちだったが、急に近くに仲間が居たと知ってホッとしたと思ったら、それがこいつらだったと分かって、上げて落とされた感覚だ。

 

「それも全部、テメェの所為だ! 一瞬で終わらせてやる!」


 どーせ、相手は死体だ。俺の力なら、やりようはいくらでもある!


「ふわふわ砂嵐サンドストーム!」


 化けもんは、座ったまま一切動く気配がない。なら、そのままぶっ倒す。

 まずはこの強制的に巻き上げた砂嵐で完全に視界を奪い、そして一気に下へと突き落とす。


「ふわふわ蟻地獄!」


 流砂に飲まれて、そのまま二度と出てくるんじゃねえ!

 と、まあ、これで終わってくれるなら、めでたしめでたしなんだが…………

 


―――――天候魔法・豪雨ヘビーレイン



 アラビアンナイトのような砂漠の世界が一瞬で大雨に見舞われた。


「なっ!」

「ちょっ、雨じゃん! なんで? け、化粧が!」

「なんで砂漠に雨が?」


 何の前触れもなかったはずが、一瞬で空には雨雲が発生し、そのまま豪雨が降り注いだ。

 足場はグチャグチャネチョネチョで、パウダー状だった砂嵐も水分を吸って、そのままかき消されてしまった。


「つか、今のこいつがやったのか?」


 砂嵐から出てきた化物は、ただ椅子に座ったまま微動だにしない。

 質問しても何の反応も見せない相手に、俺たちは一瞬でキレた。


「くそが、こんなのに構ってられるか!」

「よくも私の一張羅を。殺す!」


 おっ、珍しくユズリハまで動いた。

 だが、これでいい。


「ふわふわ空気弾!」

「ドラゴンブレスッ!」


 見えない空気の弾丸と、焼け付く竜の息吹の同時攻撃。

 こんな雨程度じゃ、防ぐことは出来ねえ。

 だが…………



―――――天候魔法・暴風雨ハリケーン



 砂嵐よりも激しく、そして力強い乱回転が化物の周囲を覆い、俺とユズリハの攻撃を弾きやがった。


「今度は、台風だと? 水属性の次は風属性の魔法か? こいつも複数の属性魔法を使えるのか」

「くだらん、なら、その竜巻ごと引き裂いてやる」


 イラついたユズリハの右腕がドラゴン化し、鋭い爪を光らせた。

 おお、相当怒ってるな。


「なんだよ、急にやる気出したじゃねえか、ユズリハ」

「私はこれ一着しか持ってないのに、あのカスが汚したからだ。許さん」

「お前がやる気出してくれるならそれに越したことはねえ」


 まあ、アルテアは役に立たねえが、ユズリハは仮にも神童的な存在だしな。


「俺が台風を操作して、野郎を剥き出しにする。そしたら構うことはねえ、ぶっつぶせ!」

「おい、何、指図をしている、ゴミ。殺されたいのか?」

「おい……ケツをメチャクチャにされてーのか?」

「ひぐっ! う、わ、分かった……お尻には優しくして……たまになら……叩いてもいいけど……」


 たとえ強烈な竜巻でも、所詮は範囲数メートルの小規模なもの。

 魔法で移動させちまえば、こんなもん……



「いくぞ、ふわふわ――――」


―――――天候魔法・爆弾低気圧ボム・ロウプレッシャー



 その瞬間、俺たちに異変が起こった。


「ぐっ!」

「ひぐっ!」


 痛い! 痛え! なんだ? 意識が遠のく。

 めまいが、吐き気が、耳鳴りが、頭痛が!


「が、な、なにが、う、お、おえっ」


 俺もユズリハもその場で頭を抑えたまま膝をつき、立ち上がれねえ。

 あの、すました顔していたユズリハすら、苦痛に表情を歪めている。

 一体、何が起こったんだ?


「きあ、つが、……」

「ユズリハ?」

「くっ、気圧が……変化している……」


 気圧が変化? どういうことだ。


「おい、ゴミ、奴に、近づくほど、低気圧に……距離を離す……お前の体じゃ……死ぬ?」

「あ? ……なに、を言って……っう!」

「ばやぐじろ!」


 ユズリハが唇を噛み締めながら、俺の腕を掴み、渾身の力を込めて飛び、化物から五十メートル以上距離を取った。

 その瞬間、ようやく耳鳴りや頭痛が和らいできた気がして、呼吸も少しずつ整ってきたのが分かった。


「おいおい、なんなんだよ、つか、ここに居るあたしも、一瞬、頭痛かったし」


 離れた場所で様子を伺っていたアルテアが慌てて俺たちに駆け寄ってきたが、何が起こったのか知りたいのは俺たちの方だ。

 そしてユズリハは……


「つう、……」

「ユズっち、鼻血が!」

「うるさい、見るな。……ちょっと無理した……」


 エロメスガキ衣装に血が零れ落ちる。

 あの状況下で無理やり体を動かして俺を助けたからか。


「ユズリハ、ワリーな」

「ゴミのせいだ。ゴミの」

「ああ、ナメてたわけじゃねーが、やっぱ、相当ヤバイやつだったな、あいつ」


 相変わらず相手は座ったまま、微動だにしない。

 一歩も動かずにこれか? おまけに死体だから感情もないために、既に本気か手を抜いているのかも分からねえ。


「たしかネフェルティは、奴のことを、怠惰のベルフェゴールとか言ってた。知ってるか?」

「知るわけねーし」

「知らん」


 終了。


「くそ、ここにカー君とか居れば、奴の能力が何なのか分かるんだが、それが分からねーから、対処のしようがねえ」

「雨ふらしたじゃん、台風起こしたじゃん、んで、今度は頭痛とか耳鳴りとかじゃん? 何でも出来すぎじゃね?」

「……分からん……ただ、さっきのは気圧が下がったという感じだったが……」


 ダメだ。このメンツじゃ考えても、無い頭を使ってるだけで、なにも解決策が出てこねえ。


「とにかく、奴に近づいたら頭が痛くなるみたいだから、なるべく遠距離で攻撃するしかねえ」

「おい、ゴミ。でも、台風で弾かれるぞ?」

「うわ、ダメじゃん! つか、ユズっちとヴェルトの、なんかこー、どかーんみてーなので、ぶっ飛ばせるのないの?」


 つっても、俺にはねえよ。頼みのふわふわ技も、砂漠しかねえこの土地じゃ武器にできねえ。

 唯一の砂も、雨吸って使い物にならねえしな。

 だが、考えている時間というか、余裕もなかった。


「とりあえず、奴の台風は俺の魔法で………」


 俺の魔法で何とかする。そう言おうとした、その時だった。



―――――天候魔法・太陽光サンライト



 一瞬何か分からなかった。が、急に雨雲が散った。

 魔法が解除されたのか? だが、そうじゃない。

 今度は、顔を出した太陽が、燦々と照らし、ズブ濡れになった俺たちの体から水分が一瞬で蒸発し、気づけば……


「あっちゃああああああ!」

「あつ、あっ、つ、あちゃちゃちゃ!」

「ッ! こ、れは! 陽の光が異常に強く!」


 ちょっと待て、これはシャレにならん!

 体中が、火で炙られているかのように熱い!


「ちょ、やべ、マジ肌やける! 黒焦げになる!」

「っ、て、めえは、ダークエルフだろうが。ギャグか?」


 太陽の光がモロに全身に喰らい、俺もアルテアも耐え切れずに砂の上をのたうち回った。


「おかしい、どう考えても異常だ!」


 ドラゴンであるがゆえに、多少の熱の耐性は持っているんだろうが、ユズリハもこの状況はさすがにおかしいと理解していた。

 だが、同時に疑問も思い浮かぶ。

 どんな魔法なんだと。

 だが、それも次には分かることだった。

 何故なら………



―――――天候魔法・雷嵐サンダーストーム



 今度は雷雲が空を覆い、容赦ない雷が降り注いだ。



「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」



 空が光った瞬間、ユズリハが完全竜化へと変身し、俺たち二人に覆いかぶさるように庇った。


「ッ、ユズリハ!」

「ユズっち!」


 ユズリハの皮膚から煙が立っているのが見えた。

 朱色の鱗に傷が入ってる。


「おのれ……ゴミがのろますぎて見てられない……」


 何で自分がこんなことを? 自分でも良く分かっていないが、体が勝手に動いてしまったと、ユズリハはイラつきながらそう言い放った。

 俺はただ、その言葉に対して、殊勝な顔して見上げることしかできず、「わり」と小さく謝った。


「くそ……ユズリハ……どう思う?」

「……よく分からんが……雷を使ったというより、空から降らせたという感じだ」

「確かに、雨降らした時もそうだった。普通は、何もない空間から魔力で生み出した水とか雷とかを放つのに、奴は空から降らせたな」


 それだけで、何となく俺たちも察しがついた。


「なあ、どういことだよ、二人して納得すんなし。つか、ユズっち、マジ大丈夫?」

「天候だ……あのベルフェゴールとかいうのは、天候を操ってやがるんだよ」

「テンコー?」


 アルテアはよく分かってないのか、顔に「?」が浮かんでるが、どっちにしろ、分かったからってどうすりゃいいのかは俺も分かってねえ。


「くそ、自然じゃなくて、空を操るか。それは、聞いたこともねえな」

「私もないぞ。というより、アレと私は、相性が悪い」


 確かにな。ゴリゴリのパワー系なら、俺もユズリハも対処できるかもしれねえ。

 だが、こうも遠距離からネチッこくやられて、さらに近づくこともできねえから、何も思い浮かばねえ。

 しかも、余裕もねえ。



―――――天候魔法・集中豪霰


「いたいたイタイイタイ! うう、なぜ私が!」



 今度はアラレかよ! 氷の球体上の塊が空から激しい勢いで次々と落下していき、俺たちを庇うユズリハを痛めつけていく。


「ユズリハッ! くそっ、数が多すぎる!」

「ユズっち!」


 勢いを殺そうとしたり、霰の軌道を変えようとしても、次から次へと落下してきて、キリがねえ! 


「くそが、天気操るのがこんなにコエーとはな」

 

 どうすりゃいいんだ!

 しかし、そんな時、意外な方面から言葉が出た。


「なあ、つかさ……よくわかんねーけど、天気操るとか言ってたじゃん?」

「アルテア?」

「ならさ、空なくしちまえば、いいのか?」


 いや、何言ってんだ?


「そりゃ、できるもんなら……でも、空を無くすとか、どうやって……」

「ああ、いいのな? じゃ、そうすっから、何が起こっても、マジで文句言うなよな!」


 アルテアが急にそんなことを言い出し、何やらメンドクサそうに頭をかいてる。

 何をやる気だ? そう思ったとき、アルテアが何か難し顔をしだして、聞いたこともない言語をブツクサと唱え始めた。

 つか、こいつ、こんな顔もできたのか?

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