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異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと  作者: アニッキーブラッザー
第九章 俺は嫁を二度と泣かせず、幸せにする(17歳)

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第287話 葬儀屋

 死んだ奴に殺されてたまるか。たとえそれが太古の怪物だろうとも、俺たちの邪魔はさせねえ。


「ふわふわモーセ!」


 ダンガムの足元に群がるスカル魚人ども。

 筋肉も内臓も搭載していないガリガリ共なんか、まとめて道を開けてもらう。


「ワリーな、全員分の墓なんて用意できねえ。海の中で眠っててもらうぜ」


 こいつらが、生前はどこのどいつでどんな人生を送ってきたかは知らない。

 死んでも骨になって動かされるとは、哀れな奴らだ。

 だが、同情はしても、温情を与えている余裕はねえ。


「代わりに、俺の嫁を奪おうとしているバカをぶっとばしてやるから、許してくれよな!」


 だから代わりに、無念だけは晴らしてやると俺は誓った。


「おー、パッパつよい!」

「負けていられませんね、奥様として!」


 俺の攻撃が合図となり、群がるアンデットたちとの戦闘が開始した。

 ここから大陸の海岸線まで、数百メートルってところか。

 ダンガムをダッシュさせれば一瞬でたどり着く。

 だが、足元で群がる兵たちは次々と海の底から顔を出してくる。


「お兄ちゃん! さっきのリヴァイアサンが修復されて復活しようとしている!」

「オウ、ネフェルティのリモートコントロールだ。破損したボディを自動修復させている。ネフェルティの魔力がエンプティにならない限り、続くぞ?」

「くそが、ウザッてえな。なら、俺様が壊すんじゃなくて、跡形もなく消滅させてやる!」

「いや、見てみるのじゃ! 対岸にも兵が待ち構えておる。あれは……なんと、デーモンや魔獣、亜人までおる!」

「数はおよそ数千……バカな、どれだけ遺体を所有しているゾウ! いや、これだけの数を一体どれだけのネクロマンサーが操っているゾウ!」


 簡単には通さないか。まあ、俺らは向こうからしてみれば魔王の嫁を奪おうとするテロリスト集団だ。国の警備が厚くなるのも納得。

 気づけば、コバルトブルーの海も、南国風の木々が並ぶ海岸線も、多種多様な白骨がズラリと並ぶ異様な光景が出来上がっていた。


「なんだ? ゴミダメ島の次は死体処理場か? 気持ち悪い……ゴミと旅をし始めてから、こんなのばっかりだ」

「ぐずるんやないで、ユズリハ。あんさんの嫁のためや。黙って協力するんが、ダチってもんやろ!」

「いや、あのさ、あたしは昼ドラみたいなのを冷やかしにきただけだから、マジで戦いはあんたらに任すから」

「アルテアさん、あなたは本当にマイペースで感心するわ。でも、私は頑張らせてもらうわ。ウラさんへの嫉妬も込めてね」

「姫様は必ず連れ戻すであります」、


 敵は無量大数。だというのに、俺の仲間は誰一人臆する様子無し。つか、頼もしすぎる。

 だからここは、俺もそろそろ頑張りを見せねーとな。

 つか、脱獄してから、あんまり俺が活躍する場面なかったし。



『なかなか勇ましい者たちだ。ラブ・アンド・ピースなどがのたまう、上辺だけの友好より、よほど、「らしい」ではないか』



 いきりたつ俺たちの様子に、ネフェルティは嘲笑するかのような物言いだが、その言葉にウラは黙っていなかった。

 

『おい、ネフェルティ! 上辺だけとはどういう意味だ!』

『ふっ、言葉の通りだ。所詮お前たちの茶番劇など、次に始まる戦いまでの準備期間と腹の探り合いに過ぎぬ。お前は単純に、人間たちに利用されていることに、何故気づかん』

『何を言うか! 確かに我々は過去に色々あったが、種族は違えど、同じ痛みを共有した者たちだ! もう、時代は変わった。そのためのサミットだって開かれるようになった!』

『フハハハハハ、だから上辺だけなのだよ、ウラ。そして、だからこそ余は、利用されているだけのお前が放っておけなかったのだ』


 ウラの怒鳴り声すら軽やかに回避するネフェルティ。

 そして、この時ばかり俺は心の中で、ネフェルティの言葉を否定できないでいた。

 ウラが利用されている……


「かもな。結局そのサミットも、どんだけの奴らが本気かなんて分かったもんじゃねえ」

『ヴェルト・ジーハ! キサマッ!』

「でもな、そんなもん関係ねえ。上辺だ幻想だ、そんなもんどうでもいい! 今、ここに居る俺は本気だってことが本物なら、それでいいだろうが!」


 だから、俺はウラの本物であるために、ここまで来た。そして戦ってやる。誰かが邪魔をするならな。



「全員まとめて、沈んでろ! ふわふわ世界ヴェルト!」



 浮くのは、俺が今、見えている世界そのもの!

 嫁のためなら、全ての魔力も、気力も、体力も、なんなら命すら懸けてやるよ!

 その先に居る、俺の女を取り戻すために。


「ヒュウ、パッションマックスだな、ヴェルト! 実にロックだ!」

「なんや! 銛や武器が、いや、アンデット兵に、なんや……海が揺れとる……地震か!」

「ほほう、なかなか応用力があるゾウ、ヴェルト君」

「けっ。かつて俺様をやった、忌々しい能力だぜ」

「ひはははははは、パナイ気合入ってるじゃん、ヴェルト君!」


 海が嵐の中のように大きく荒れ、単調な動きしかしないスカル魚人たちを全て飲み込む。

 空に浮いているスカルドラゴンを、無理やり海に叩き落し、更に勢いのついた波は、そのまま海岸線で待ち構えているスカル兵を丸ごと飲み込んだ。



『ほう』



 高みの見物を決め込んでいるネフェルティから声が聞こえた。

 全てを飲み込む大津波が、数秒前までの世界を全て変えた瞬間だった。


「はわーーー! パッパ、パッパなの? パッパがすごいの! コスモスのパッパすごい!」

「コスモスのパッパで、私の旦那様も、これほどの力を持たれていたのですね」


 久々の感覚だな、大暴れ。

 考えてみれば、脱獄してからは俺がどうにかする前に、頼もしい仲間どもが全部やってくれたから、こういう力の解放は懐かしい。

 世界の全てを掴んだような感覚。

 今日の俺は、かなりキテる感じがするな。



「どうした? 葬儀屋ヴェルトはいつでも死体を弔ってやるぜ?」


『ふはははははは。遺体を動かす余と、遺体だろうと容赦なく破壊しつくすお前、一体どっちがズレているのだろうな?』



 少しぐらいはうろたえてくれればと思って、俺は挑発的に言い放ったが、そこまでは敵も小物じゃなかったか。



「何言ってる、母なる海へ返してやったんだ。ワザワザ土から掘り起こすお前らに、感覚云々を言われたくねえよ」


『ふふ、言うではないか。まあ、その調子で精々頑張るがよい。こちらでは、結婚式の準備は進めさせてもらう』


「俺とウラの結婚式か? そいつは困った。給料三か月分の指輪はまだ用意してねえ。家族も呼んでねーしな」


『渡す相手も居ないのに、用意しても仕方あるまい? 余はいつでも大丈夫なように、常備しているがな』


「いつかミイラ好きに出会えるまで取っておけよ。多分いるぞ? 遺跡発掘にしか興味ねえ、考古学者のジジイとかな」



 お互いどうやら一歩も引く気なく、俺たちの言葉の応酬は続いた。

 ネフェルティはこの光景にどうやらハッタリでもなく、大して慌てた様子もなく、俺と冗談交じりの掛け合いに付き合ってきた。

 それを聞いているウラの顔は、一目瞭然で真っ赤になっていた。

 まあ、傍から見たら、目の前で自分を奪い合う者の争いを見せられているようなもんだからな。

 勝つのは、俺だけどな。


『まあ、式の準備にはまだ時間がかかる。それまでもう少し遊んでいくのだな。まだ、ゲストたちも来ていないのでな』


 何か含みのある言葉を残して、再びホログラムが消えた。

 あの野朗、随分と余裕たっぷりじゃねえか。



「ひははははは、なかなかつかみどころないね、あの魔王様」


「うむ。小生も初めて見るが……底が知れぬゾウ」



 確かにな。正直、死体を操るようなタイプはもう少し陰湿か、それとも精神的にイカれた奴だと思っていた。

 だから、これまでの様子から少し想像していたタイプと違うことに、若干驚いたのは事実。


「とにかく、事は一刻を争うであります。なんとか、魔王城へ移動して欲しいであります!」


 確かに、ルンバの言うとおり、ウラの意志とは関係なく、既成事実を作られるのは困る。

 結婚式をやるとか、ウラに対する気持ちがどの程度本気なのかは分からないが、そもそも今回の件はタイムリミットがある。

 急ぐことには変わりねえ。


「コスモス、頑張って走れるか?」


 屈んでコスモスの頭に手を置くと、コスモスは俺の手にブラブラとぶら下がって、笑った。


「うん! コスモス、おいかけっこだって、もうできるんだよ?」

「飛べるしな」

「えへへ、じゃあ、飛んじゃうもん!」


 ダンガムの背中のジェットが火を噴いた。どういう構造で動いてんだ? これ。

 だが、得意満面なコスモスの笑顔と共に、俺たちは海からジェット気流に乗っかり、一気に駆け抜けた。


「ひょー、パナイはやい!」

「コスモス、すげーじゃねえか! あとで、俺様がお菓子を大量に買ってやる!」

「今更ながら、ヴェルト君、エルジェラ皇女、絶対にコスモスちゃんを正しい大人になるように育ててね? 悪用されてしまったら、とんでもないことになるから……」


 さっさと海を越えて、あの浜辺の向こうに………………



『おお、そうだ。言い忘れていたよ』



 その時、再びネフェルティのホログラムが現れて、ワザとらしい様子で喋り始めた。



『葬儀屋ヴェルトよ。お言葉に甘えてお前に、葬儀を依頼したい。弔えるものなら……弔ってみよ』



 どういうことだ? そう思いかけたとき、背後から身も凍るような圧迫感を感じた。


「ッ!」

「ひうっ!」

「……これは……ッ!」


 強烈なプレッシャーを感じた俺たちが思わず振り返る。

 するとそこには、海をうねる様に泳ぐ巨大な生物。

 骨ではない。全身が青い鱗と巨大な翼、竜のような頭部と牙に覆われた怪物。


「ッ……バカな……肉体が…………」


 その瞳は死んだように黒い。そう、間違いなく死んでいる。まるで人形のような目をしている。

 しかし、それでも動いている。肉体も神々しく輝いている。



『な~に。特定の死体に魔力を集中させれば、このように骨を動かすだけではなく、生前の肉体をも、そして力すらも再現することができる。光栄に思え? 幻の幻獣族。神が生みし、七つの大罪……嫉妬を司る・リヴァイアサンだ』



 化石じゃねえ! これが、生前の姿を完全に再現した、怪物の姿!


「ま……まずいゾウ! コスモスよ、今すぐ退避するゾウ!」


 誰もが言葉を飲み込み絶句する中で、唯一声を上げたカー君だが、その言葉は間に合わなかった。

 咆哮の一つも上げずに巨大な口を開けた怪物が、機械のような動作のまま、天変地異を巻き起こした。



―――――――冥・海神撃!!



 それは、津波なんてレベルじゃない。

 一瞬、世界崩壊が頭によぎるような光景。

 海が、巨大なダンガムですら見上げてしまうほど大きな壁となり、世界を飲み込もうとしていた。


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