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異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと  作者: アニッキーブラッザー
第九章 俺は嫁を二度と泣かせず、幸せにする(17歳)

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第282話 魔族大陸へ

 随分と微妙な感じの国のようだが、そこに嫁が行ったのなら仕方ない。

 ダメ亭主が頭を下げて迎えに行かねえとな。まあ、あんまり下手に出ると後々つけ上がられそうだが、今回だけはな。


「どっちにしろ、ウラの居場所が分かったんだから、さっそく行くか。というわけで、ユズリハ」

「なに? またか! また、私が飛ぶのか? 嫌だぞもう、疲れる!」

「頼むって。ちゃっちゃと捕まえてやらねえとな」

「いやだ! なんで貴様の女を探すために私が飛ぶんだ! 他の女とはペロペロチュパチュパしてるくせに、私だけ何で働く」

 

 うっ、言われて言い返すことができなかった。

 まあ、確かにウラが逃げたのは俺の所為なわけで、それをみんなは善意で協力してくれるわけなのだから、俺が強く言うのも筋違いってやつだ。

 今回はユズリハのケツを叩いてというのも難しい。なら、ジャックポットに?

 そう思ったとき、「えっへん」と胸を張ったコスモスが俺のズボンの裾を引っ張った。


「パッパ、パッパ!」

「ん?」

「コスモスとあれ乗って! あれで一緒にパッパとマッマでお空飛ぶの!」


 おい、最愛の娘よ。そこでダンガムをなぜ指差す? えっ? これ?


「ええええ、ちょっ、コスモスちゃん、それ、ひょっとしてそうなの? 移動に使えるの? 何そのパナいの!」


 コスモスはニンマリと頷いた。


「こ、コスモス、だ、ダンガムで行くのか?」


 確かに、背中にはジェットエンジンモドキがくっついているが、だからってこれ、飛ぶのか?

 こんなファンタジー世界にSF持ち込むとか、色々と怒られるぞ?


「みんなは、お胸の中に乗っていいよ。パッパとマッマとコスモスは、頭のお部屋に乗るの!」


 しかも、ちゃっかりファミリーゾーンと客室も区分けしているようだ。なんなの、この天才少女は。


「あのね、コスモスちゃん。その、わ、私も、頭部に乗せてくれないかし―――」

「めっ!」

「…………あの―――」

「もー、ダーメーなの! あそこは、パッパとマッマとコスモスだけなの!」

「うっ、うう……」


 アルーシャ、意外とマジ凹み。

 仲間はずれがそれほどショックだったのか、ガックリと項垂れている。

 まあ、ドンマイ、と肩を叩いてやった。

 とにかく、この未来の猫型任侠ロボットもひっくり返る、超SF物質で行けるのなら、問題ない。


「じゃあ、三人仲良くだ」

「うん!」

「まあ、コスモスったら、嬉しそうにして。ふふ、私も嬉しいですけどね」


 俺は、コスモスを抱っこして、頭を撫でてやった。


「へい、ヴェルト。行くのは構わないが、少しヤーミ魔王国についてのインフォメーションを、トークしておきたい」

「ん? ああ、そういや、その国はあんまり情報が出回ってないみたいだが、どういう国なんだ?」

「そうね。私も個人的に興味はあるわ。ヤーミ魔王国とコワイ魔王国。この隣接する二国については、開放された現代の世の中でも情報が少ないのよね」

「あっ、俺も知らないや。まあ、パナイ暗く、特異な国ってのは知ってるけど。あと、妙な噂だけだけどね」


 情報通のマッキーでも知らない国。だが、妙な噂? なんだそりゃ。


「おい、その妙な噂ってなんだ? 怪物たちが戦争してる世界で、今更それほど驚くものもねえと思うけど?」

「うん。まあ、なんつーか、俺の聞いた話ではね、『ヤーミ魔王国と戦うなら、仲間の死体は持って帰れ』、『コワイ魔王国と関わるなら、ポジティブシンキンキングであれ』ってさ」


 それは何とも分かりやすいのか分かりにくいのか。


「ヴェルト。ヤーミ魔王国は国力や軍事力自体はそれほどでもない。バット、一つだけ恐怖がある。それは、ほとんどの魔族が肉体の朽ちた、アンデット………」


 アンデット? 不意に俺の頭に思いついたのは、ドクロ姿の兵士がうろついている光景だった。


「それって、二年前にチーちゃんが天空世界を襲ったときに連れてたような奴らか?」

「ああ。あんとき、俺様が引き連れていたのは、もらいもんだ。スカル族は腹も減らねえし、感情も痛覚もなく、命令どおりに動くから、軍には貴重な存在なんだよ」


 痛みも感情もない? どういうことだ。


「お兄ちゃん、この世のアンデットと部類されるスカル族やゾンビ族なんだけど、実はそういう種族が元々この世に居たわけじゃないんだ。彼らは生前、普通の魔族や魔獣だったんだ。それを作り出す者たちがいて、その数があまりにも増えたために、そういう俗称が生まれたんだ」


 それは俺にとっては初耳だった。まあ、アルテアと亜人組も知らなかったみたいだが。


「ヤーミ魔王国は、死体を操り、アンデットを生み出す者たちが住み、国を動かしているんだ。アンデットはヤーミ魔王国にとっては国民ではなく、ただの兵士であり、武器である」

「死体を操るか。そんな奴らがウラの望みを叶える? けっ、胸糞悪いことしか思い浮かばねえ。だが、もし本当にそうなのだとしたら、そこまであいつを追い込んだ俺の責任とも言えるわけだが」


 言われてみればそうだ。確かに、アンデットなんて種族が元々居るとも思えねえ。だって、生まれた瞬間から骸骨とかゾンビとか、ありえねーしな。

 だから、死体を動かしている奴らが居るという言葉には納得がいった。



「ちなみに、アンデットを生み出すなんて、どうやって出来るんだ。まあ、ファンタジー的な思考でいけば、何でもありなんだろうけど」


「ヤーミ魔王国の王都に住む者や限られた貴族や王族。彼らは、旧ヴェスパーダ魔王国と同じ魔人族にあたる。だが、その国に住む者たちは皆、代々魔族大陸の中でも遺伝として伝わる特殊な魔法を扱うことができる。それが、死霊魔法、『ネクロマンサー』と呼ばれる者たちだよ」



 ネクラ様? なんか中二丸出しの単語が飛び出したな。


「ええ、そこまでは私も知っているわ。ただ、分からないのは、どれほどの国力なのか。ネクロマンサーと呼ばれる魔人族は何人居て、意志を持たぬアンデットはどれだけ居るのかよ」

「正確な実力は分からないが、国家の力そのものは七大魔王国家の中でも最弱だ。それこそ、ジーゴク魔王国やヤヴァイ魔王国がその気になれば、一息で消し飛ぶ程度だ。生きている魔族は数千人程度の小さな国だと思う。まあ、その代わり、死体を使ったアンデットの兵士が数万単位で国境を見張っているから、多少の軍事力はあるみたいだけどね」

「そうなの? 彼ら、神族大陸でも戦ったことがないから、全然ピンと来ないからアレなのだけれど、ネクロマンサーの実力はどれほどなのかしら?」

「結局やることと言えば、死体を人形のように動かすだけだと思うよ。レベルの低いスカル族やゾンビ族などは時間が経てばいずれ朽ちるが、それまでは半永久的に動く。また、レベルの高いネクロマンサーなら、死体の一部、本人の形見も含めて、本人の遺伝子情報さえあれば、生前の肉体を作り出すことが可能みたいだけどね」


 そういうもんか。なら、なぜそんな国が未だに滅ばねーんだ?


「YES。確かにミーたちがその気になれば、ヤーミ魔王国単独であれば脅威にあらず。バット、位置的なプロブレムがあった」

「キシン?」

「実は、ヤーミ魔王国は海面に面していてね、国の真上はコワイ魔王国、東にはジーゴク魔王国。西にはヤヴァイ魔王国がある」


 そう言いながら、キシンは中腰になって地面に指で大陸の絵を書いていった。


「ヤーミ魔王国は三国に囲まれているために、自らアッタクするには最も不利なシチュエーションにある。バット、この国は絶対にデストロイすることはない。Because、ヤーミ魔王国に三国どこかがアタックしたら、他の国がヤーミ魔王国をヘルプするからだ。それは、ヤーミ魔王国が、他の三国にとっては、他国の侵攻を防ぐウォールになっているからだ」


 そういうことか。確かに、ヤーミ魔王国が滅びれば、それは魔族大陸最強のジーゴクとヤヴァイの全面戦争になる。

 だが、そうはならない。例えば、ジーゴク魔王国がヤーミ魔王国に攻め込めば、ヤヴァイ魔王国が援軍を送ることにより、ジーゴク魔王国は、ヤーミ魔王国・ヤヴァイ魔王国の二国を相手にしなければならない。それは、逆のパターンもありえるわけで、よほどの力の差がない限りはできないことだ。コワイ魔王国を攻めても同じことになる。

 つまり、地理的な問題と微妙なパワーバランスが、返って魔族大陸の統一を阻んでいたということになる。

 そんなパワーバランスの中で、最弱でありながらも未だに滅びずに存続し続ける、ネクロマンサーの国、ヤーミ魔王国か。


「そのためにミーも、ヤーミ魔王国とリアルファイトはした経験はあまりない。ヤーミ魔王国自体も鎖国的な国でインフォメーションもベリー少ない。だから、油断はノーだ。ヴェルト」

「俺様も、あんま知らねえ。アンデット兵を調達するために行ったことはあるがな」

「僕も知ってるのはそれぐらいだね」


 キシン、チーちゃん、ラガイアの話は分かった。

 もう十分だ。


「もういいよ。少々グロいお化け屋敷に行くと考えりゃいい」

 

 未知な国だというのは分かったが、そもそも俺は二年前の旅から、未知なんてもんには慣れてる。


「お化け屋敷ってのは遊園地の定番。デートで男が頼もしさをアピールする絶好の場なんだ。ビビってねえでとっとと行って、俺のお姫様を連れ戻すさ」

「パッパ、あのね、コスモス、ちょーつよいんだよ!」

「ああ、だから、俺たちは最強だ」


 俺がそう言うと、仲間たちもみな、「それもそうだ」と笑って頷いた。

 そうだ、多少の油断程度で揺るぐメンツじゃねえからな、このメンツは。


「行くのだな、ヴェルト君」


 俺たちの出発を知ったアウリーガが、微笑みながら歩み寄ってきた。


「ああ。女を泣かせたままだからな。男と女の問題は、世界も種族も超越して、永遠の共通課題だな」

「はは……だが、ここまで世界規模な問題に発展させている君は特別だけどな」


 アウリーガの背後には、昨日までと何一つ変わらず俯いたまま立ち上がらない島の住民たち。


「いってらっしゃい、だな。君たちは、ここを必要とする人生は歩まないでくれ」


 色々と変わったが、それでも変われず、立ち上がれない者だっている。

 でも、俺たちは同じにならない。そう心がけた。


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