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異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと  作者: アニッキーブラッザー
第八章 新たに紡がれる仲間と家族、そして天使な娘(17歳)

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第277話 宴会と深まる謎と奥様

 ゴミが完全に撤去されたスモーキーアイランドで、俺たちはラブ・アンド・ピースより支給されたテントでキャンプをすることになっていた。


「しょ~うせい、しょ~うせい、は~ながながいぞ~♪」

「コ~スモスはあまえんぼ猫さん、にゃんにゃんにゃん♪ すきすっきパッパとマッマにごろごろにゃんころりん♪」


 酒も出た。火をつけた軽いキャンプファイヤーの周りで、キシンのギターに合わせて歌や笑いが飛び交っていた。

 初日に続いてうるさい夜が続き、島の住民たちもいい迷惑だろう。


「うおおおおおおおおお、コスモス~! テメェ、歌も天才か!」

「まあ、コスモスったら。マッマもコスモスが大好きよ」

「ひははははははははははは、いや~、一回だけカー君にこの歌を歌わせたかったんだよね。さすがのカー君もコスモスちゃんに手を引っ張られたらパナイ断れないっしょ!」

「おっしゃ、次は私っしょ! キシン、童謡から一気にアゲアゲで! キャリーパコパコでいくっしょ!」

「あっ、ずるいで! 次はワイやないんかい!」

「おい、ゴミども。コスモスなら許すが貴様らのゴミ声のゴミ歌など可愛くないから許さん。だから私が歌う」


 こいつら、よくもま~、これだけ騒げるもんだ。

 昼間にサイクロプスとダンガムと戦っていたとは思えないぐらいの元気ぶりだ。


「元気だな、君たちは」

「サラッとお前は流すなよ。あの壊れたお姫様は、一応、昔あんたが仕えていた国のお姫様だろ」

「はは。当時は幼い割には大人びた方だと思っていたが………今は年相応の子らしく、恋に悩んだり笑ったり、………今の方が魅力的だと思うが」

「そんな無責任なこと言うなら、どうにかしてくれ」


 そんな俺たちのやり取りを見ていたアウリーガがそう言った。

 瞳を細めて、どこか微笑ましそうに俺たちを見ながら、アウリーガは口を開いた。


「俺はここに残るよ、ヴェルト君」


 それは、既に自分で決めているように迷いのない言葉だった。


「なんだよ、せっかく立ち直ったんだ。もっと世界に出ればいいじゃないか」

「ありがたい話だがね………」

「なあ、もし俺たちの………そのなんだ、前世だなんだで気を使ってるなら、別にもう気にしなくていいんだぜ?」

「………………………」

「マッキーのアホも、生まれる前のことをいつまでもゴチャゴチャ言わねえだろうし」

「君は、………荒くれたようで、随分と繊細な子だな」


 俺は思った。一緒に来ればいいだろと。こうして再会できたのも、縁だったんだと。

 だが、アウリーガはそれでも首を横に振った。



「ヴェルト君。俺はもう終わった人間だ。もうここで、これからの人生に疲れて安らぎを求めてこの地にたどり着いた者たちを迎え入れ、そしてこの地を守り、運命を共にするよ」


「何とも言えねえが、やっぱ必要なのか? こういう場所って」


「さあ。だが、君が分かる必要もないし、分からない人生を歩んで欲しい。つらくなっても、立ち上がって欲しい」



 随分と淋しいことを言うもんだ。

 年齢的には、キシンやバルナンドより全然若いのに、もう定年した爺さんのようなセリフを言いやがる。

 まあ、それだけ精神をずっと病んで生きてきたわけだから、仕方ねえのかもしれねえがな。

 すると、ウラが重い口を開いた。


「避難をさせた島の住民たちも、我々が保護しようと申し出たが、全員がここに残ると言っていた。ここから出るのは、チロタンとラガイアだけだ」


 アウリーガだけじゃない。もう外の世界で生きる気のない奴らにとって、もう自分たちには関わらないで欲しいというのが本音なんだろうな。


「お前たちはラガイアを簡単に立ち直らせたのに、私たちは一人も新たな希望を与えてやることもできない。無力だな……私は……」

「ウラ?」

「昔、母上が殺され、父上が死に、そして仲間たちともはぐれて人類大陸に残された私は、同じだったのかもしれない。もし、私があの時…………」


 目を細めて遠くを見るような目で昔を語りだしたウラだが、急に言葉が止まった。


「そうだ、もしあの時……出会って……誰にだ? そうだ、もしあの時、……誰に出会ったから私は死ななくて……ん、まあいいか。別におかしなことはないか」


 途端に口元を抑えて動揺しだしたウラ。

 どうやら、失った記憶がゴッチャになりだしてるんだ。

 だが、この魔法の恐ろしいところは『過去の矛盾と記憶の疑問を、おかしいと思わなくなる』こと。

 さっきは、コスモスの存在が場をおかしくさせたが、俺とウラの個人的な思い出ならばこうなっちまう。

 ウラは、本来なら追求すべき疑問すら、アッサリと自己完結した。

 それが少し寂しい気もしたが、仕方ないと俺も割り切った。


「そうだ、別にいいじゃねえか。結局立ち直るかなんて、最後は本人次第だ。テメエもラガイアも何だかんだで、自分の意思で立ち直ったんだ。もう、それでいいじゃねえか」


 俺は、ウラに誤魔化すように話を切り上げさせようとした。

 ウラも何か難しそうな顔をして黙り込んだ。

 そんな時、ウラの様子を見て、アウリーガが俺に耳打ちをした。


「ヴェルト君。ウラ姫のことだが……ひょっとして彼女は……」

「ん?」

「……近しい存在の記憶を封じられているのではないか?」

「ああ、まあな。聖騎士の魔法でな」

「なんと、では今、世界には……そうか。発動されたのも気付かなかったよ。あの魔法を……」


 思わずドキッとしたが、こいつはかつて聖騎士に仕えていたって言ってたな。

 ならば、その魔法の存在を知っていてもおかしくない。

 俺は言葉にできない代わりに、軽く頷いた。

 すると…………


「そうか。まさかあの魔法が……『もう一度』使われることになるとはな」


 …………もう一度…………?


「ちょっといいか? アウリーガ」

「なんだい?」

「もう一度? どういうことだ。聖騎士の記憶消去の魔法が、過去にも使われたことがあるのか?」


 スルーできなかった。俺は考え事しているウラに背を向け、アウリーガを引っ張った。

 ちょっとみんなの輪から離れるようにして、聞いてみた。


「ああ。十二年ほど前に一度だけ。ある一人の人間を、世界はその存在を忘れた……そうだ」

「そうだ?」

「私は聖騎士様の右腕として動いていたので、話だけは聞いたことがある。あの魔法は、生涯に三人までは使用できるからな。その一人目だよ」


 俺とキシンだけじゃなかったのか?

 じゃあ、何か? 俺とキシンのように、この世界から忘れられた存在がもう一人居るってことか?


「もっとも当時は実験的な意味合いが強く、対象者も世界的にはそれほど有名な子ではなかったらしいが……なんと言ったかな……当時、側室が百人近くいたボルバルディエ王国の中の、五十人ほどいた王子や姫の中の末っ子だったと聞いたが……」

「ボルバルディエ? それもボルバルディエなのか?」

「ああ……私も話したことはないので誰だったかまでは……それに、そのすぐ後にクロニア姫が紋章眼であることが発覚したりとゴタゴタしていたしな」


 もう十年以上昔のことで、アウリーガもかなり記憶が曖昧になっているようで要領を得ない。


「ただ、それでも悲しい魔法であることには変わりない。忘れられた本人も……大切な人を忘れたことにすら気づかぬものにとってもな」

「だな」


 何となく重要そうな話だったのに、何だか謎が余計に深まるばかりだったが、それに関しては同意だった。

 もう二度と、誰かに使われることも、自分に使われることも勘弁だ。

 俺だって、マッキーやアルーシャ含めて一人残らず忘れられていたら、立ち直れなかったかもしれねーしな。

 だから、それはそうだと頷いた。


「きゃっほ~う」


 その時、火の周りで踊っていたはずのコスモスが俺の足に飛びついてきた。


「パッパ~、ふにゅ~、おねむ~!」


 歌って踊り疲れたのか、目をシパシパさせて俺の足にしなだれて来た。

 

「まあまあ、眠くなってしまったのですね」

「エルジェラ……」

「今日はこの子にも色々ありましたからね。どうか、甘えさせてあげてください」


 島の中心で盛り上がるキシンたちから離れた場所で、火を眺めるように岩を背中に俺は腰を下ろした。


「ヴェルト君。今日はもう休むがいい。安らいで、心を休め、そして明日、旅立つんだ。私は終わったが、君は今から始まるのだからね」


 そう言ってアウリーガはその場から離れた。

 俺はそれに無言で頷いて、コスモスを胸に抱きかかえた。

 あったかい……


「ぱっぱ~……」

「あっ、そうだコスモス、お前に聞きたいことがあったんだけど、お前が言ってたオネーチャンって……」

「ん~、しゅき~」

「……はあ、まっいっか。明日で」


 胸に顔を埋めるようにしがみついてくるコスモスは、ものの数秒で穏やかな表情のまま、俺の胸の中で眠りこけた。

 コスモスの呼吸に合わせるように背中を優しく叩く。


「あらあら、この子ったら」

「ったく、誰に似たんだか。少なくとも、俺はここまで甘ったれじゃねえぞ?」

「ふふ、でしたら……」


 微笑みながら、俺の隣にピタリと寄り添うようにエルジェラが腰を下ろした。


「私に似たのかもしれませんね」


 ラブ・アンド・ピースに支給されたのか、長めのシーツを広げて、コスモスと俺を包み込むようにして自分にも纏った。

 一枚のシーツを三人で身を寄せて、エルジェラは俺の肩に頭を乗せた。


「……家族……ですから、パッパとマッマは仲良く……ですよね」

「お、おお…………」


 横髪で俺に顔を見せないようにしているが、何だか顔を赤くしているのが良く分かる。

 エルジェラでも照れるんだな。っていうか、少しだけ俺もまずい。一瞬でドキッと心臓がでかく鳴った。


「先ほど、あの方と話を何かされていましたね。記憶がどうとか……それは、私やウラさんが、あなたを忘れていることと何か関係があるのですか?」


 シーツの下から、俺の右腕に腕を絡めてさらに距離を詰めるエルジェラの言葉に、俺は少し喉が詰まった。どこまで聞かれていたのかと。

 ただ、エルジェラはそれ以上深く聞かずに、ただ自分の想いを教えてくれた。


「申し訳ありません。私たちに対してあなたも相当やきもきされたのかもしれません。私たちの過去に一体何があったのかも知りませんし、私がどれだけあなたを想っていたかも分かりません。でも……これからは……記憶をなくす前以上に、あなたとコスモスと一緒に、時を過ごしていきたいと思います」


 思い出せない……でも、これから新しく作っていく……まあ、そういう考え方もあるのかもしれないな。


「とても勝手かもしれませんが、先ほどの方が仰ったとおり、私とコスモスも、今この場で、この瞬間から、またヴェルト様と始めさせてください」


 ああ、それでいいよと、俺も頷いてやった。


「ふふ……うふふふ、恥ずかしい……でも、とても幸せで、夢が叶ったような感覚で……そしてあるべき姿のように感じます」


 俺の腕が更に強く抱きつかれ、エルジェラの温かい胸が、形が変わるほどギュッとしがみつかれた。


「小さな夢です……畑の真ん中の小さな家で……決して裕福ではないけれど、とても幸せで……この子と……そして……パッパと……いつまでも……」


 あっ、やば、やわら……あ、なんかドクンドクンと音が……エルジェラの心臓の音か。

 そして、それと呼応するかのように、俺の心臓の音も大きく高鳴っているのが分かる。


「エ、エルジェ…………ッ」

「あっ……ヴェルト様……」


 これ以上は子供の目の前でまずい! と言いそうになったら、丁度顔を上げたエルジェラと親距離で目が合ってしまった。

 

「あの……ヴェルト様…………これだけは教えて欲しいのですが……」

「な、んだ?」

「記憶を失う前の私は、どれほどあなたのことを愛していたのですか? 記憶を無くしたのに、あなたがパッパと分かっただけで、これほど……ヴェルト様を……」

「いや、それはよくわからな……お、お前は……なんつーか、母性の塊みたいだったから……世間知らずで、男女の仲ってのは、あんまり……」

「男女の仲では無かったと……確かに、この身が生娘であることは事実ですが……しかし、今……ヴェルト様を求めるこの感情は……」

「エルジェラ……コスモスが……」

「この子、寝付きはとても良いのです。一度寝たら、滅多に起きません……それと……先ほどからヴェルと様の腕に触れている私の乳房がとっても心地―――」


 その瞳に映る俺の姿が確認できるぐらい。エルジェラから漏れる吐息が俺の顔にかかるぐらい。

 


「子供が起きないから? それを確認して、……………………なにやろうとしているのかしら? 乳房がなぁに? あなたたちは。まさか、もうひとり作るつもりじゃないでしょうね?」



 心臓が口から飛び出すかと思った。

 なんか、ワインをボトルごと持った青髪のお姫様が、赤くなった表情で仁王立ちしていた。 

 あら? アルーシャさん? 目が座ってますけど、酔ってらっしゃらないでしょうか?

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