第267話 子供以外のゴミは死んでよし
「森羅万象ッ!!」
スモーキーアイランドに巨大な大樹が出現した。
「ッ、な、な!?」
「なんだ、あれは!?」
あれは、カー君の技。
草の根一本すら生えない不毛と化したゴミ溜めの島に、島全土を覆う巨大な大樹が天まで伸びていく。
わお、カー君、気合入ってるな~………
「わははははは、すっげ! お前、やるじゃねえか、この顔面チンチン野郎! 地上世界には、こんなスゲー奴が居たのかよ!」
「ふっ、さすがは伝説の天空族だゾウ。なかなか滾らせてくれるゾウ」
「この力………看過できん……あの魔王を仕留める前に、今ここで討つ!」
そこには大樹の枝を躱し、斬り、そしてぶつかり合う、カー君と、天空皇女のレンザとロアーラ。
天空族の中でも特に戦闘能力の高い二人をまとめて相手しているカー君の姿に、ラブ・アンド・ピースもマーカイ魔王国も天空族もゾッとしている。
だが、戦いが激しくなるにつれて、その正体を皆が気づき始めた。
「お、おい! ちょっと待て! あの魔法! それに、あの風貌……どこかで!」
「いや、まさか……だって、だってあの亜人は、七年前に、真勇者ロアの手で討たれははずでは!」
「で、でも……あれは………嘘だろ!」
気づいたのはカー君だけじゃない。
「なはははははははは、まだ立っとるとは、やるの~、ステロイはん」
「ぐっ…………つ、……つよ……すぎる……」
あっれー! いつの間に形勢が!
「ば、馬鹿な! うそだ、うそだ、うそだ! す、す、ステロイ王子が!」
「何者だ、あの、竜人! ……ん……竜人? ……いや……そんな……まさか……」
かなり顔を怪我してるが、それはゲームゆえ。
内容的には危なげない圧倒ぶり。
俺の見ていない間に、ジャックはあっさり敵の総大将をぶっとばしてた。
「ステロイ王子が………ぐっ、こうなったら、ガリガ王子……って、あれ? あれええええええ!」
「な、なんなんだ、あの鬼……ん、鬼? あの……妙な弦楽器……まさか!」
もう一人の王子ガリガ。なんか、誰も見ていない、誰も気づかない間に、既にノックダウンしてた。
つか、秒殺されたのか? まあ、無理もねえ。相手が悪すぎる。
「やれやれ、ワシ一人で相手とは。年寄りを働かせすぎじゃぞい」
そして隣では、巨大な岩の巨人ゴーレムが、一瞬で豆腐のようにスパスパ切り裂かれていた。
「し、信じられないであります、あの老亜人。私の銃も全弾完全に見切られているであります」
「ゴーレムをいとも容易くとは、恐るべしなり」
「昔、シャークリュウ様が言っていたでしょうが。剣道三倍段。我らが奴を倒すには奴の三倍の段が必要と。だが、奴は既に段数が我らと桁違いでしょうが」
三人の連携を、たった一人で受け持つのはバルナンド。
ロイヤルガードと言われて、常にウラに付き従う三人の、三人がかりの力を、たった一人の老人が請け負う。
スーパーおじーちゃんだな。
「いやー、ビビったっしょ! あ~、危な、やっぱ友達が強いと、パナイ安心だね~、およ、ヴェルト君?」
「あ~、やば、も~、マジ最悪じゃん。危うく怪我するところだったじゃん~~って、あれ? やべ、ヴェルト、修羅場じゃん!」
そんな仲間たちの活躍から、こっちは逃げ回った挙句に、俺とアルーシャが居るラブ・アンド・ピースの船に飛び乗って避難してきた、マッキーとアルテア。
「お、お前は、黒姫!」
「おお、ウラウラじゃん!」
「お前まで……なんなんだ、なんなんだ、この組み合わせは!」
そういやー、ジェーケー都市でみんなと会ってるんだよな。
アルテアの存在に気づいてなかったウラもようやく気づき、驚きが募るばかりだった。
あれ? ユズリハは~~あ、ゴミの影に隠れて寝転がってやがる。あのやろう、一人だけサボってんな。
「お~、ここに来て、鮫島くんの娘さんか……、ヴェルト君、これはどういう修羅場っしょ? パナくね?」
「うるせーな。つか、あれ? お前を見てもラブ・アンド・ピースの連中、あんま反応なしだな」
「ああ、そりゃー俺は、素顔を一部の奴にしか晒してなかったし。こいつら、魔族みたいだから、二年前からの新参でしょ?」
ああ、そっか。こいつらは二年前にジーゴク魔王国から解放された奴ばかり。
それに天空族もマッキーのことを知ってるはずねえし、意外とこの中で一番顔が知られてねえのは、俺とマッキーなのかもな。まあ、ウラは知ってるか? マッキーの顔見て固まってるし。
どっちにしろ、マッキーも只者じゃないのは誰の目にも明らかだったのか、魔族たちの緊張感が更に高ぶっているのが分かる。
「やはり……どうでもいいではすませられないぞ……そこの男」
だよな。
「この組み合わせ……やはり、無視できるものではない。何者なんだ、お前は。何を企んでいる。そして、私たちにとっての何なんだお前は!」
ウラの改めての言葉に、俺もため息ついた。
そして、テキトーに誤魔化そうとしても、今度は力づくで吐かしてきそうな鋭い目をしてる。
だが、そんな緊迫した船上の中、誰もが思いもよらない人物の口がその場に割って入った。
「お、おーい! たすけてくれ~!」
それは、俺たちの仲間でも、こいつらの仲間でもない。
助けを求めながら一人の魔族が、島の住人を何人か抱えて船に飛び乗ってきた。
「なんだ、お前は! 魔族か?」
「一体どこの!」
ラブ・アンド・ピースたちが激しく反応して武器を構えると、現れた魔族は慌てて両手を上げた。
「ち、違うんだ、俺は、俺たちはこの島に元々住んでいて……だが、戦いがあまりにも激しくて……怖くて……」
そう、今、スモーキーアイランドを舞台に、地形が大きく変わるほどの戦いが、あの規格外の連中によって繰り広げられている。
そりゃー、元々島に住んでいた連中からすれば、迷惑極まりないことだ。
この魔族は、その連中をひとりひとり抱えて、ここまで避難してきた。
男に連れてこられたのは、ラミアやダムピールなどの幼い……ん?
「ん? もっと他にも居ただろ? 全員、子供しかいないな」
まあ、島には何十人も居たし、抱えきれないのは無理もないが、全員子供というのに、ラブ・アンド・ピースたちも首を傾げた。
だが、その魔族は逆に首を傾げて聞き返していた。
「いや、かわいい幼い子供以外のゴミは死んでもいいと思って……」
あかん人だった。
「ま、まあいい。とにかく、そのことは完全に頭から抜けていましたな」
「ああ。さすがに、見捨てるわけにもいくまい」
確かにこのままでは島の住民たちも危ない。
元々、生きていようと死んでいようとも、未来への希望を全て捨てた奴らの集まりとはいえ、だからといって自分たちの戦いに巻き込んで死んでもいいなどと言えるはずもない。
「おい、天空族! まだ島には何人も人が居たはずだ。戦いに巻き込まれぬよう、一時的にこの船へ運んでくれ!」
「分かりました。みなさんも気をつけて! 姫様たちを!」
空を飛べる天空族たちが一斉に島へと向かう。今更ながら避難誘導が遅すぎたと誰もが反省しているが、まあこの状況では仕方ないだろう。何ぶん、あまりにも突発的に始まったことだからだ。
それにしても…………
「ふん、嫌味じゃねえけど、死を迎える島で、死ぬの恐れて逃げ出すとはな……しかも子供抱えて……ナナシっつったけ?」
「あ、ああ……あんたたち……いや……静かに死を迎えるならまだしも、こんないきなり激しいのはな」
「だからって、自分だけじゃなくて、ガキまで助けるか? ほれ、助けられたのに、無反応じゃねえか」
「分かってる……でも……体が自然に動いた……もう死んだと思っていた俺の体……だけど、目の前で幼い子が巻き込まれそうになった瞬間………心臓が激しく脈打ったんだ」
そう、逃げてきた魔族はナナシという、島で会った魔族だ。
確か、島に来たばかりゆえに、まだそこまで絶望の中の絶望に居たわけではないとは言ってたが、まさか人助けまでして逃げてくるのには驚いた。
まあ、幼児限定というところが怖いが。
「パッパ!」
その時、ザ・幼女オブ幼女とも言うべき、世界一かわいい天使が俺の胸に飛び込んできた。
えっ? なんだ? この、この世のものとは思えねえ可愛すぎる天使は。あ、なんだ、俺の娘か。
とまあ、ふざけた一人妄想は置いておいて、コスモスが泣きながら俺に飛びついてきた。
「パッパ、パッパ! マッマが、マッマがないてるの! どこも痛くないのに、泣いてうの! ないて、う、うう、えええ~~~ん」
本当にカオスすぎる。あっちを向いてもこっちを向いてもメチャメチャだ。
俺はどうすればいいんだ?
だが、その時だった。
「ッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
ナナシが激しく動悸した。
「な、な、なあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!??? くわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!?? なかせたのだれだああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
その叫びは、海・風・天を激しく揺るがし、混沌と化したスモーキーアイランド周辺を一瞬で静寂に包み込んだ。
つか、鼓膜敗れるかと思った! コスモスもビックリして余計に泣いてんじゃねえか!
「う、うわ、ビックリしたっしょ! パナ!」
「ちょ、マジ耳がキ~~~ンとしてるんだけど!」
「び、びっくりした~……ナナシさん、だったわね。どうしたの?」
突如絶叫したナナシに俺たちが驚く中、ナナシが頭を抱えて苦しみだし、そしてのたうち回った。
一体何が起こった? 何が起ころうとしている?
すると、ナナシの枯れ枝のように細かった腕の神経がむき出しになり、徐々に膨れ上がっていった。
それどころか、折れたと思われる額の角が徐々に再生し、『カブトムシ』のような形へと変わっていく。
これは?
何が起ころうとしているのか、誰にもわからない。
だが、俺には、どこか懐かしさを感じるものがあった。




