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異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと  作者: アニッキーブラッザー
第七章 熱き者たちの世界への反逆(17歳)

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第247話 寄り道へ


「ふん、迷いなくか……世界の業を背負うっていうのかい? あんたのようなクソガキが」


 よく意味の分からない言葉に俺が首をかしげると、ママは静かに語った。



「十年前、一十勇者になるはずだった、一人の男が居た」


「はっ?」


「私やタイラーの後輩として、共に神族大陸で共に戦うはずだった」



 何の話をしているんだ? だが、その話が出た瞬間、国王様が苦しそうな顔を見せた。


「そいつは強かった。頭もよく、剣も魔法の腕も冴え、そして何よりもその優しさは多くのものを惹きつけた。今の、真勇者ロアのようにね」


 そんなやつが居たのか? 話にも聞いたことがねえ、綾瀬やカー君に振り返っても、首を横に振られた。



「だが、あいつは変わっていた。肌の色、宗教の違い、種族の違いでこの世はいつまでも戦争が続く。だから、それを止めるためには、世界を誰かが一つにまとめなければならないとのたまわったよ。私も含めてみんな笑ったが、ただ、あいつならひょっとしたら……そう思っている奴も何人か居たけどね~」


「………それで、その男がどうしたんだ? どうなったんだよ」


「どうにもなってないよ。結局あいつは、世界にその名を轟かせる前に、心を壊したんだ」


「えっ……?」


「それは、突然に訪れた。ある日を境に、あいつは激しく混乱し、自暴自棄になり、自傷行為、そして自殺未遂を繰り返した。自分は生きていてはいけない人間なんだ……死ななくてはいけない人間なんだと繰り返し……そして、気づいたときにはあいつの姿は消えていた。人類の歴史に名を残すこともなくね」



 何だかわけの分からない昔話だ。一体、それと俺の何が関係しているのかは分からない。

 ただ、それでもママは言った。



「世界を征服しようとするものにしか見えない何かがあったのかもしれないね。私には錯乱したあいつが何を言って、何を考えてるのか分からなかったよ。『ガラスの勇者・アウリーガ』。あんたを見ているとふと思い出したよ」


「おいおいおいおい、俺がそんなよく分からん奴と同じ道をたどるとでも思ってんのか? あいにく、そんな繊細な心の持ち主じゃないんでな。俺はもっとアバウトなんだよ」



 俺はそこまで精神を病んで極端になる姿を想像できねえ。だが、ママはどこか俺を見透かしたかのように、ジッと見つめた。


「いいや、あんたは最後の一線を越えられない」

「なに?」

「あんた、馬鹿でいい加減で自分を非道なやつだなんて勘違いしているだけで、どうしても最後の一線を越えられない。そんな目をしている。あんたは、私たちと常識の感覚が違うだけで、本質はそんなところだよ」


 常識の感覚が違う? いや、そんなもんは何年も前から感じてるさ。

 戦争だなんだは未だに慣れた気はしねーし、マジで誰かを殺すとかそういうのはホント勘弁だし。


「つまり、こう言いてえのか? そんな甘ちゃんが、大口叩いてんじゃねえと?」

「そんなところだね。でも、それだけじゃないね。なんだろうね………あんたを見てると………どうもほっとけない………そんな気がするのさ」


 実は何だかんだで俺には過保護なママ。記憶を失っても変わらずか。なんだか、田舎から都会へ出ようとしている子供を心配する母親みてーな顔してるな。

 お節介で、心配性で、でも子供に素直になれなくて厳しい言葉で突き放す。

 親子揃って不器用なやつらだよ、本当に。


「ヴェルトと言ったね…………『スモーキーアイランド』を目指しな」

「えっ、はっ? す、すもー?」

「人類大陸からまっすぐ北へ向かった海にある島。人類大陸、魔族大陸、そして神族大陸の中間地点にあり、経由していくには丁度いい位置に存在する」


 唐突に告げられたママの言葉に俺は首を傾げた。


「お、おい、綾瀬……どこだ、それ?」

「スモーキーアイランド……確か、そこって……『生命の終末処分場』と呼ばれた……あの?」

「む、小生も聞いたことはあるが……まだ、あったのか?」


 なんだか随分と聞くのも気持ちわりい言葉が出てきたがどういうところだ。



「俺も行ったことないや。昔、ビジネスで使おうと思ったけど、話を聞く限りパナイ使い物にならなそうだから断念したところだし」


「加賀美、どういうことだ?」


「スモーキーアイランドとは、この世で唯一、人間、魔族、亜人が所有していない、生命最後の安らぎの場。そこには全世界で居場所のなくした生命が最後にたどり着くと言われている。その海域はヘドロのように濁りつくした海と汚染された魚、空は常に黒く染まり、そして島全体は太古の時代より捨て続けられた廃棄物の処分場の山で大地が埋め尽くされ、植物一つ育たない、死んだ島」


「おいおいおい、そ、そんな、ゴミだめみたいな島が、なんで『生命の終末処分場』なんだよ」


「まともな植物も野菜も魚もいないその島に、人がいるからさ。正確には世に出れない犯罪者、借金まみれになって表の世界で居場所の無くしたもの、戦争奴隷、どの種族からも受け入れられない混血児など様々。表の世界で生きる気力も居場所もなくした者たちが最後に辿り着き、ゴミダメやヘドロに汚染された魚や死肉を喰らいながら、最後の瞬間を迎える場所」



 聞くだけで吐き気がしそうな世界だな。



「生きる気力も行く気力も普通なら沸かない地獄のような世界。でも、だからこそ借金取りや逃げた奴隷を追いかける貴族たちも、わざわざそんなところまで探しに行こうとも思わない。それに放っておけば、勝手に死ぬんだからね」


「んなところを、どうしてビジネスに活用しようと思ったんだよ」


「いや? ゴミの処分とかしたらそこそこの土地が入るとか、ゴミの中にも宝があるんじゃ~とか思ったけど、そうでもなさそうなんだよね。あそこにあるゴミって、遥か昔にどこかの軍が作戦基地にして崩壊した時の残骸の山とか、武器とか船とかも全部使い物にならなそうだってことだしね。土地も海も空も死んだ場所だし、金かけてなんかやる気も起きないな~って」



 まあ、しかしそれはそれとして、問題なのはどうしてそんな場所に行けとママが言うかなんだが。

 すると、ママは言った。


「そこには、勇者になれなかった、アウリーガが居るみたいなんだよ」

「それって、さっきの?」

「十年前までは何とか説得を試みようと帝国の連中が何度か行き来したみたいだけど、失敗したみたいでね。それに、単純な渡航も難しいゆえに以降は諦めたらしい」

「……なんで、俺にそのことを?」

「あいつのことだ、まだ生きているかもしれない。もし生きていたら、その目で見てくればいい。かつて、あんたと同じ考えに至った男がどうなったのかをね」


 つまり、こういうことか? 先人を見ろ? それとも、世界を語るなら、この世の底辺の底辺を見て来いとでも言いたいのか?



「ちょ、何をそんなパナイこと言ってんの! あそこって、近場まで行くと海面がドロドロでそんじょそこらの船でも近づけないし、グリフォンや飛竜に乗って空から行っても、嗅覚の鋭すぎる騎獣は悪臭に耐え切れずに全く近づけないって。だから行くだけでも相当な準備に金かかるんだから、簡単に行けって言われても!」


「ああ? 知るかい、そんなもん。だが、そんなことも乗り越えられないクソガキどもに、世界だなんだとチャンチャラおかしいんだよ」


「いやいやいや、つか、そんな生きてるか死んでるかも分からない落ちぶれ勇者、会ってもしょうがないっしょ!」



 その通りだ。寄り道というか、徒労以外の何者でもない。俺も正直気が進まねえし、綾瀬だってものっすごい嫌そうな顔をしている。

 だがそんな時、意外なところから声が上がった。



「スモーキーアイランドって島について、ワイも聞いたことあるで。まあ、親父から聞いた話やけど」



 それは、こういう話には興味ないと思っていた、ジャックポットの口からだった。


「へい、ジャック。聞いたとはどういう話をだい?」

「ん~、なんやったかな、確か……あそこに逃げた、族長暗殺未遂犯を捕らえにシンセン組の何人かが行ったみたいでな、まあ、犯人はアッサリ捕まったんやけど……」


 けど、なんだ? 



「他の隊士たちは、も~、えらい大変やったとか臭かったとか文句ばっかやったんやけど……一人だけ……隊を率いていたバルナンドっちゅう爺さんだけは違う反応やったみたいなんや」


「えっ、バルナンドって……」


「まあ、ワイもあんま会ったことないんやけど、親父の片腕言われとるやつや」



 その時、俺と加賀美と綾瀬とミルコと先生の肩が大きく震えたのは言うまでなかった。


「大ジジの! ジャックポット王子! 一体、大ジジに何があったでござる!」


 ムサシが思わず声を上げるが、正直俺たちも一緒になって声を上げたいくらいだった。

 バルナンド……宮本……あいつに、何があったんだ?


「なんでも……『誰にも知られたらダメだ。誰かがあの島に気づく前に隠さなきゃダメだ』……とか言うとったらしいで?……」

「はあ?」

「なんや知らんが、それ以来、ずっと島に行き来しとるみたいで、道場にも顔出さん、隊の任務にも顔出さんで、親父もまいっとるって」


 この時、ふと、俺たちは共通で直感的に何かを感じた。

 俺、綾瀬、加賀美、ミルコの四人。

 他の誰もとは違う反応を見せた宮本。

 その宮本が、そのスモーキーアイランドなどという場所で何を見たのか? 何を思ったのか?

 それを気にせずには居られなかった。


「ふむ、ミスターケンドーか」

「ほ~、俺も部下に行かせただけで直接は行ったことないけど、へ~、宮もっちゃんが」

「何を……見たのかしら」


 確かに気になるな。

 あの宮本が、何を隠そうとしているのかを。


「でも、なんでだ? マ……女王様」

「なんだい?」

「なんで、そんなに気にかけてくれるんだ? それに、アルーシャ姫やカイザーがいることは、あんたにとって見過ごせないことなんだろう?」


 俺におせっかいな道を示したママに尋ねると、ママは小さく笑った。


「もし、ギャンザなら……アルーシャ姫やあんたが魔族や亜人に洗脳されてるとか言うんだろうが……」


 ああ、絶対に言いそう……


「私はたとえ相手が世間知らずなバカでも、本気で言ってる奴の目ぐらいは見分けられるんだよ」


 もし、ママが俺に対する記憶が残っていたら、俺が馬鹿なマネしないように首輪でもつけて監禁でもするんだろうな。

 ある意味、俺のことを忘れてくれていたことが、何だか丁度いい関係になれたような気がした。

 それはそれで、悲しいもんだが。


「まあ、神族大陸へ経由で行くってなら、それほどロスにもなんねえし、……行ってみるか? そのゴミダメの島にな」


 また、何かの再会の予感もするからな。

 あまり気は進まないが、俺たちの次の目的地が決まった瞬間だった。



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