第231話 覚えてる
「我ら、アークライン帝国所属特殊部隊・イエローイェーガーズ! たった今、この地下カジノ出入り口は全て封鎖した! 違法なカジノや闘技場で私腹を肥やす愚か者たちよ! 絶対なる正義の名の下に、全員この場で逮捕する!」
イエローイェーガーズッ!
「おいおいおいおい、マジかよ!」
「なんだ? あのゴミどもは」
「帝国特殊部隊? 知らんゾウ。小生が居ないあいだに新設された部隊か?」
次の瞬間、至る出入口から一斉に黄色いコートの集団が地下へと流れ込んできた。
武装した選ばれしエリート部隊たちの姿に、観客たちは驚く間もなく次々と拿捕されていく。
「うっわあああ、に、逃げろ!」
「ま、待てお前ら! ワシを逮捕せんほうがいいぞ! ワシは帝国でも顔が利く商工会の人間じゃぞ!」
「くそ、いくらだ! いくらだって払ってやる! だから、ここは……うわあああ!」
おいおいおい、完全に包囲されて底引き網みたいに一網打尽にされていくぞ。
観客だけじゃねえ。カジノ関係者のジーエルたちも抵抗する間もなく逮捕されていく。
「け、ふっざけんじゃねえ、帝国がどうしたってんだ!」
「俺たちは近海最強の海賊団だ!」
「へへ、全員返り討ちにしてやらァ!」
抵抗する奴らもいる。闘技場参加選手や、カジノを楽しんでいた凶悪犯罪者たちが徒党を組んで反撃しようとしている。
だが……
「超異次元発動!」
「フレイムボール!」
次元が歪むほどのエネルギーの篭ったひと振りの剣。
輝く灼熱の光球。
二つの力がハジけた瞬間、反撃に出た男たちが一斉に吹っ飛ばされた。
「ひ、ひいいい、な、なんだ、なんだよ!」
「ちょ、おい! 見ろよ、あそこに居るの……う、嘘だろッ!」
吹っ飛ばされたやつらが恐怖に震え上がりながら叫ぶ。
その瞳に映っているのは、いつか見たことのある奴らだった。
「異次元剣士のドレミファ! 去年引退した、『流星弓ガジェ』の後任として『光の十勇者』に選ばれた、帝国剣士!」
「あっちは、天才大魔道士のソラシド! 史上最年少で『大魔道士』の称号を得た、人類大陸屈指の魔道士じゃねえか!」
そうだ、二年前に見たことがある。
あいつらまで……
「へへ、戦がねえのに、俺も有名になったもんだな」
「それはそうでしょう」
「しっかし、噂の闘技場がこんなところにあったとはな。徹夜して探した甲斐があるってもんだぜ」
「その通りです。さあ、大人しく捕まってもらいますよ、みなさん。しかし、抵抗されるようであれば、我らも黙っていませんよ」
二年前よりも一段とたくましく、自信に満ちた笑で見下ろす二人。
ああ、居たな……こんな奴ら……
「って、おい! そこの闘技場で戦ってるやつら、何やってんだ! 大人しくしろってのが、聞こえねえのか? って、おいおい、なんつーエネルギーだ!」
「ただちに戦闘をやめなさい! 聞き入れないようであれば、強制的に拿捕します」
言われて、俺たちも気づいた。
「ナーハッハッハッハッハッハッハ!」
「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!」
あいつら、あの最強バカ二人は、未だに喧嘩したまんまだよ。
笑いながら頭突き合戦をしてる。
つか、この状況に気づいてねえ。
「ったく、あの二人は………」
思わず笑っちまった。そうか、お前ら二人にとって、こんな状況すら取るに足らねえことってことなんだな。
「おい、いい加減にしろ!」
そう思った瞬間、ミルコとジャックポットを止めようと飛び出しドレミファとソラシドの前に、俺は回り込んでいた。
「ッ、な、なんだテメエは!」
「カジノの客ですか?」
邪魔しに入った俺に睨みつける二人。
だが、俺からすれば、邪魔しに来たのはこいつらの方。
「邪魔なのはテメェらの方だ」
「な、なんだと?」
「何者です?」
そうだ、邪魔するな。
「前世も世界も越えて実現した男同士の熱いガチンコに、余計な茶々を入れんじゃねえよ」
今、ミルコはかつてのダチと、全てをさらけ出してぶつかってんだ。
テメェの人生を賭けてもいいぐらいのことなんだ。
邪魔はさせねえ。
「そんなに遊んで欲しけりゃ、俺がまとめて相手してやるよ、綾瀬の金魚のフンども」
「なっ、なんだと?」
「我らを相手に挑発とは、随分と身の程知らずな方が居たものですね」
俺の挑発に目の色が……ん? 俺は言ってて今の自分の言葉を思い返した。
綾瀬の……そうか、こいつら、綾瀬の……
「どうしたのです? まだ、全員皆殺しにできないのですか?」
そして、『アイツ』も居たんだったな。
「なっ! あ、あの女は、確か、七年前に真勇者と一緒に居たゾウ!」
七年も外の世界から隔絶されていたカー君ですら、そいつを知っている。
そして、俺も七年前から知っている。
「あら? これは一体どういうことでしょうか?」
美しく可愛らしい表情の中に、見える大人の女の表情。
イエローイェーガーズの黄色いコートを羽織、頭には黒いつばの広い帽子。
髪は玉虫色のふわふわロング。
「クハハハハハハハハハハハハハハハ、ギャンザァァァァァァ!」
間違いない。
俺のキングオブトラウマ!
突如叫んだ俺に首をひねる三人組。だが、構わねえ。
「死ぬほど会いたくねえのに、会えて嬉しいぜ!」
まあ、会いたかったのは俺だけで……
「ドレミファ、ソラシド、誰です? あの若い男性は。カジノの客ですか?」
「いや、俺たちも何が何だか」
「ただ、身に纏う空気が少し普通とは違いますね」
そう、覚えてねーんだよな。
ギャンザ……テメエは俺に「あれだけ」のことをしたくせに、俺を見ても何も反応しないぐらい、俺のことを完全に忘れてるんだよな。
「ちょっと、何かしら? 外にまで聞こえたわよ? 一体、誰がギャンザの名前を叫ん…………」
お……おおう、綾瀬、お前も居たのか。
「これは、どうする、ヴェルトくん?」
「このゴミども、ウザイな」
俺のやることは変わらねえ。誰一人、今のミルコとジャックポットには近づけさせねえ。
例え、誰が相手だとしても。
「おい、正義の味方四人衆。誰も手ェ出すんじゃねえ。こっから先にはいかせねえ! どうしても押し通りたいってなら、俺がまとめて相手してやるよ!」
俺の言葉がどういうことなのか分からないみいたいだが、それでもカー君とユズリハは気づけば俺の隣に立っていた。
「まあ、小生にとっては因縁浅からぬ相手。少しは現代の勇者の実力でも図るゾウ」
「ゴミ掃除だ」
威圧感むき出しにする二人。そして、さすがにカー君の姿を見て、ギャンザの表情が変わった。
「ッ、あなたは! ま、まさか、そんな……なぜ!」
「ふっ、久しぶりだゾウ、光の十勇者よ。七年前は世話になったゾウ」
カー君が監獄に入る頃から光の十勇者だったギャンザ。
ギャンザが目を見開き、明らかな動揺を見せている。
だがな、カー君。そいつの相手は俺だ。俺にトラウマ植え付けて、二度もボロクソに負かしてくれた因縁の相手だからな。
「ねえ………ちょっと待ちなさい」
なんだ? 綾瀬がなんか頭抱えて何か言いたそう………あっ……
「お………よう………」
うおっ! 綾瀬だよ! うわ、ギャンザに集中してて流しちまってたけど、綾瀬だよ! うおおおお、ビックリしたーッ!
二年前はまだ、中坊と高校生の狭間って感じで、まだまだガキっぽいところあったような気がしたが、今ではなんかスッカリ大人の女だな。
ストレートの長い水色の髪。
凛とした冷たい瞳と、整った顔立ち。
相変わらずだな。
「って、あ~、まあ、俺のこと覚えてねーんだろうけど」
つっても、こいつも二年前のことで俺のことを忘れて………
「つっ、う………ううう……」
「あら?」
「どうして……どうして、こんなところに……」
って、あれ?
「姫様! ど、どうされたんですか!」
「何が? 姫様!」
なんか、クールな表情が一変して、急に目元に涙を浮かべて泣き出しやがった。
「何を……一体……君は、この二年間……何をしたの、何をしていたの……どうして……どうして、世界は、みんなは、あなたのことを忘れてしまったの? それに、村田くんまでいるし! 加賀美くんもいるし!」
なんで?
「答えなさい! 朝倉くん!」
「……ふぇ?」
あれ……覚えとる? えっ? あれ? なんでこいつ、俺のこと覚えてんの?




