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異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと  作者: アニッキーブラッザー
第七章 熱き者たちの世界への反逆(17歳)

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第221話 豚の介入


「…ぐっ………………」


 ファルガは崩れ落ちるかと思ったら、踏みとどまりやがった。

 痛みに声を上げるわけでもなく、ただ割れた頭を摩り、その手にこびり付いた自身の血を見て、ただ無言で俺を睨みつけた。


「へ、へへ…………な? 雑種が噛み付くと、痛いだろ?」


 間違いなくダメージはあるはずだ。痛みもかなりあるはずだ。

 ポーカーフェイスでそれを隠しているが、俺には分かる。

 だが、一方で…………


「ふう……………まだ、名前も上げてねえクソガキに、これだけ噛み付かれるとは思わなかったぜ」

「……へへ、油断大敵だな」

「………いや、油断はしてねえ。テメェの物体を操る能力を最大限警戒していた……だが、それでもこのザマだ……」


 俺を敵として見ている、ファルガ。だが、それは言い換えちまえば………


「テメェもクソ強いな」

「ッ!」

「名前は……なんだったか……そう、ヴェルトだったな」


 敵として見るということは、認めるということ。

 それは、俺にとって生まれて初めてのことだったかもしれねえ。


「……………ん? おい、どうした、クソ野郎」

「えっ?」


 なんで? なんで、俺のことを忘れた、今なんだ?

 フォルナの婚約者としてでも、弟としてでもねえ。

 俺は生まれて初めて、ファルガに一人の男として認められて褒められた?


「ちょっ、朝倉くん、なんで泣いてんの!」


 ッ、くそ、そりゃねーだろうが!


「ふ、ふざけ、くそ! ッ、見てんじゃねえ、なんでもねえよ!」


 敵のくせに、ずりーな、この元クソ兄貴は!

 せっかく、覚悟決めたってのに、俺に未練を感じさせやがるから。


「ふん、よくわからねーが、だが、泣くのは死んでからにしろ」

「あっ?」

「とりあえず、テメエがクソ危険だってのはよく分かった。世界のクソ脅威になる前に……全員まとめて俺が始末してやることに変わりはねえ………」


 それは、俺にほんの僅かな温かい言葉を放った直後だった。

 ファルガが再び槍を構えた。


「ふう………………ッ!」

「……うおっ!」


 息を殺し、ほんの僅かな俺の挙動すら見逃さんとする、狩人の瞳。

 分かる。俺とファルガの間だけ、世界が止まったかのようにスローモーション。

 雑音すら聞こえてこない。本来であれば、クレランとモンスターたちとミルコの争いが騒がしいはずなのに。

 ユラリと構える槍は、完全に地面に平行。その先端は、一寸の狂いもなく、俺の眉間の直線上に置かれている。

 恐ろしいほどの集中の世界。


「テメェ、これは………」


 空気の流れが変わった。


「………パナイ静か…………どうしたっしょ?」

「……この魔力の空気……まさか……」

「精霊がやかましい。……不愉快だ……二人共、死ねばいいのに……」


 ファルガはタイミングを伺っている。

 一方で、俺は一歩も動けねえ。

 俺達はただ、無言で神経を削る睨めっこに終始したままだった。

 そして、次の瞬間、ファルガが声を荒げた。



「光の女神の微笑みは、天地を生み出す創造の光。時に闇を消し去る護符となり、時に闇を穿つ刃となる。エレメントランス・アウローラトライデント!」



 禍々しかった槍が、三叉の矛へと変化し、オーロラのような神秘的な光を放ち炎を包み込む。

 ああ、そういや、そんなのできたよな……


「はは……さっきまでは、全力じゃなかったって言いたいの? パナいね」

「上位魔法闘技、『精霊エレメント兵器アームズ』だゾウ」

「ふ~~~~~ん……不愉快な空気だ」


 だが、これだけなら二年前も出来ていた。

 よくよく考えたら、俺みたいになニート暮らししてたわけじゃないんだ。

 ファルガなら、もっと……



「クソ野郎、見せてやるよ。この、一歩先を…………」



 来る! いや、何かやるつもりだ!

 ここから先は、俺が全く知らないファルガが、俺を本気で殺すために、その力を解放する!


「ち、くそが、来るなら来やがれ!」


 受けてやろうじゃねえか。見てやろうじゃねえか、その力。

 俺は逃げず、攻撃もせず、ただ、俺の知らないファルガが解放される瞬間を待った。

 しかし………



「ぐふ、それまでですぞ、ファルガ王子」



 予想外の者が現れた。


「ッ!」

「えっ!」

「おっ!」

「……あの、汚物は……」


 ファルガの輝く手首を、一人の老けた豚……じゃなかった。

 肥えて脂ぎったハゲオヤジ。


「オルバント大臣、なぜ………」

「いやいやいや、これは予想外でしたよ。ユズリハ姫とジャックポット王子と、ある程度の交戦は覚悟していましたが、まさかこの規格外の四人とは………せっかくの情事の最中でしたが、抜け出して来て正解でしたよ」


 そうだ、こいつは、ファルガとクレランを連れてきた男。


「ひゅー、オルバンド大臣っしょ!」

「マッキー社長、まったく、困らせてくれる」


 確か、帝国の大臣とかって呼ばれていた、ハゲ豚野郎!

 加賀美とも顔見知りみたいだし、間違いねえな。


「なぜ止める?」

「まあ、そう睨まないでくだされ、ファルガ王子。もしその力を使っていたら………あそこの屋根の上で見下ろしている鬼が、一対一の戦いを無視して邪魔してきたでしょう」


 言われて見上げる。するとそこには、屋根の上でスローテンポの曲を引いて見下ろしているミルコが居た。

 その傍らには、ピクリとも動かず倒れているクレラン。


「ッ、テメェ!」

「お~、睨まないでくれ、プリンス。傷一つつけてない。レディはちょっとスリーピングしているだけだ」


 えっ、つか、いつの間にお前らの戦い終わってたの?

 そういや、気づかなかったけど、クレランが召喚した百匹のモンスターは? 


「前奏の時点でエスケープさ。ミーの歌をワンフレーズでバニッシュさ」


 おい………


「ミスター。アフターでレディに言っておけ。育てる気のないハートの弱いモンスターを無闇に生むなとね」


 お、俺は……俺はクレラン倒すために、全身ミイラになるまでボロボロに……パナイな、お前……


「ふ~、家出した二人を返還し、武神に貸しを作る良い機会かと思ったのですが………これは、たまりませんな。まさか、脱獄し……この四人が合流していたとは」


 それにしても、ただの肥えた豚だと思っていたのに、なんだ?


「おまけにカイザーまで解き放つとは………」


 なんか、顔つきがただのエロオヤジから、キリッとした表情と空気を出している。

 

「なにもんだ? テメェ。ただの政治家……じゃねえのか?」


なんだ? この豚。

 その様子は、加賀美も初めて見たのか、少し驚いてるようにも見える。

 それどころか、あの並々ならぬファルガの気迫の中を、何の躊躇いもなく近づき、その手首を掴んでいた。

 普通じゃねえ。


「……大臣と呼ばれていたが、ユーはそれだけか? ミーは一国の文官まではイチイチ覚えていないが、ユーは何か……妙な力を感じる」

「ふむ、小生もだ。戦争では見たことないが、不思議な感覚がするゾウ」


 ミルコとカー君も感じたのか、口に出して訪ねていた。

 すると……


「ほう、タイラーからは何も聞いていないのですか。まあ、二年前はこうして顔を合わせなかったですし、戦争に出ない私が持っている称号など、あまり世界では有名ではありませんからね」


 タイラー? 何のことだ? なんで、今、タイラーの名前が……

 それに、二年前?


「タイラーの言うとおり、味方でなければ危険な男だ……ヴェルト君?」


 すると、その時、ファルガが口を挟んできた。


「おい、何の話をしてやがる。それより、こいつらが先じゃねえのか?」


 だが、その言葉に、オルバントは落ち着いて首を横に振った。


「テメェもいりゃ、刺し違えることぐらいできんじゃねえのか? こいつらはクソ危険だ」

「ファルガ王子。この鬼は世界でも五指に入る怪物。私ごときでは、力になれません。ここはまだ命をかけるところではありません。引きましょう」


 なんで? ファルガがこんな豚を戦力扱い……


「二十年以上実戦に出てないと、流石に錆び付いてんのか? それともビビってんのか? なあ? 六人の聖騎士の一人が、情けねえ」


 え………………?


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