第201話 それでも俺はヤッてねえ
戦争が一旦終息し、タイラーやママンは勇者とジーゴク魔王国の使者を相手に、金の支払いや領土の譲歩等について会議中。
そんなトップ会談なら、俺やこいつも出た方がいいんじゃねえのか?
「なあ、フォル―――――」
「黙りなさい。あなたはワタクシの質問にだけ答えなさい」
鬼と人類の戦争は終わった。なのに、何故俺の目の前に怒りに満ちた鬼が居る?
「さあ、どういうことかキッチリと説明してくださいませ!」
あっ、鬼じゃなかった。俺の可愛い幼馴染……?
「ヴェルト、あなたはワタクシの知らない間に、随分とお美しい方とお知り合いになり、その、し、親しくなったようですわね」
「あ~、まあ、だから色々あって?」
「色々とは何ですの? 一体、ナニがアレしてナニがどうなったらそのようなことになりますの? だいたい、あの女性、明らかに愛おしい表情であなたを見ていますわ! 一体、どれほど深く関わって、そのような関係になったのですの? し、しかも、お、奥様で、パーパとは、な、なんですのぉ!?」
「いや、まあ、深くっつうか、事故っつうか、人助けっつうか………」
鬼どもが去った地の最前線に張られた陣営のとある天幕の中、俺はなんか知らんが正座させられていた。
中に居るのは、俺とフォルナとウラと備山と綾瀬。
「待て、フォルナ。ヴェルトとエルジェラとコスモスには事情が……」
「ウラ! お黙りなさい! そもそも、あなたが付いていながら、どうしてあんな、きょに、巨に、巨、お、お、お胸の大きな女性がヴェルトの周りをうろついていますの! それに、こ、ど、うっ、うう、こども…………」
さっきからこの繰り返しだ。説明しようにも、間髪いれずに説教が始まり、そんで泣き出す。
「わ、ワタクシは、子作りは……いえ、たとえ子作り目的でなくても、愛の営みを……ワタクシの純潔はヴェルトにと十年も前から……それなのに、それなのに! 世界一周譲ってウラが相手ならまだしも、どこの馬の骨かも分からぬ女性にヴェルトの初めてを……そ、それに、こ、子供まで作っているなんて、どうしてですの? ワタクシは、ワタクシがどれだけ……どれだけ!」
「いや、だから安心しろって。コスモスは俺のことをパーパとか言ってるが、別に俺とエルジェラが、その……なんだ? まぐわって出来たガキじゃねえっていうか」
「安心しろ? 何をおっしゃいますの? 帝国での別れからそれほど経っていないというのに、伝説の天空族の方と、妖艶なダークエルフまではべらせて、挙げ句の果てに子供まで居て、何を安心しろと仰いますの!」
あっ、ヤベエ。殴られるのは何だか笑い話で済みそうなんだが、今のフォルナの目………光沢を失って……なんだろ、殴るというより、刺すって感じの目だ。
「ウラウラ、朝倉の……じゃなかった、ヴェルトの嫁さん、マジでコエーな。つか良かった~、前世の名残でこいつ口説こうとか思わなくて」
「おい、黒姫。今はシャレにならない。命を賭してでもヴェルトの傍に居ようと思わないのなら、身を引くことだな」
「はは、マジでそ~しとくよ。あ~あ。相変わらずこいつ、競争率こえーな~」
備山とウラがコソコソ話してるが、お前らいつからそんなに仲良くなったんだ?
備山は備山で、フォルナに若干ビビリながらも、俺を哀れみ半分呆れ半分な目で見てきた。
「あら、備山さん……随分と余裕な口ぶりじゃない」
「はあ? べっつに~、つか、あんたはあんたでまったく相手にされてなかったじゃん? つか、何でいんの?」
「あら、別にいいじゃない。私はフォルナにも朝倉君にも、用事があるのだから。それに、私の戦友であるフォルナの気持ちも知らずにフラフラしているヤンキーかぶれの女たらし倉くんに、説教の一つぐらいしてあげたいと思ったのよ」
「うわ~、あんた、相変わらず偉そうだね。別にあんたに関係なくね?」
「関係なくないわ。それに、そういうあなたこそ相変わらずお尻の軽そうな容貌ね」
すると、そんな備山を嘲笑うかのように、何故かこの場に居るアルーシャこと綾瀬が腕組んでいた。
そんで、何だかゴングが鳴る始末。
つか、お前らせっかく会えたクラスメートの女子同士なんだから、もう少し仲良く……
「聞いていますの、ヴェルト!」
「ああ、聞いてるよ。だから、言ってんだろうが。俺は別にエルジェラとヤッたわけじゃねえって!」
「では、どうやって子供が出来たといいますの! コウノトリですの? 野菜畑ですの?」
「いや、そうじゃなくて! エルジェラは天空族で、天空族は一人でも子供を産めて、だけどあいつが子供を産むとき、体力とかが消耗してて、たまたま近くに居た俺が魔力を代用して手助けしただけだって!」
「本当にそれだけですの? でしたら、それは出産補助にあたる行為であって、ヴェルトがあの方の旦那様で、子供にパーパと呼ばれる道理もないではありませんの!」
「だから、そこらへんは、エルジェラとか、周りに居た奴らがノリでそういう風に話を持ってたんだよ!」
まあ、ようするにだ。俺が浮気したとかそういうのは勘違いだって分からせればいいわけだ。
幸いなことに、俺は嘘ついてねえし、浮気したなんてこれっぽっちも思ってねえ。
後ろめたいことは何一つ……なくもないが、最後までしてねぇ……し?
ウラだってそのことを分かってる。だから、今はフォルナに騒ぎたいだけ騒がせて、あとでジックリと真実を……
「ヴェルト様、お話は終わりましたか? コスモスったら、ヴェルト様に構ってもらえないから、ぐずってしまって」
「ぱー! ぶんぱ! ぶんぱ! びゅん!」
一切の争いを感じさせない微笑みとともに、難しい顔したコスモスを抱きかかえて、張本人が来ちゃったよ。
「ふー! ふー! ふー! ふー! あら、これはこれは……」
「あ、申し訳ございません、まだお話中でしたか。えっと……ヴェルト様の正妻のフォルナ様でしたね?」
「……こほん……え、ええ、そうですわ! ヴェルトの正妻のフォルナ・エルファーシアですわ。この度は、ワタクシのいない間に、夫と色々とあったそうですわね」
エルジェラの、アッサリとフォルナ正妻宣言に一瞬毒気を抜かれたかのようなフォルナだったが、スグに姿勢を整えて少し強い口調で挨拶した。
だが、エルジェラはどこ吹く風。
「ふふ、とても素晴らしいですね、地上世界の愛の形は」
「えっ、ど、どういうことですの?」
「天空族は女性のみの種族で、恋人や夫婦や結婚といった文化がありません。ですから、フォルナ様やヴェルト様のように仲睦まじく、血の繋がりはなくとも魂の繋がりで家族となる文化がとても素晴らしく、美しいと思います」
なんつう汚れのない瞳で純真無垢なことを。
夜叉化していたフォルナがみるみると萎んでいく。
なんか悔しそうで、泣きそうで、頬をふくらませて拗ねた表情だ。
「………………ずるいですわ」
ようやく絞り出せたフォルナの一言。
「ヴェルトはいつだってそうですわ! ウラを最初連れてきた時から……ワタクシだけのヴェルトでしたのに………ワタクシはヴェルトだけのものですのに、ヴェルトは……ワタクシだけのヴェルトにならないで、ワタクシの知らない間に知らない人を連れてきて……ワタクシの心を嫉妬で醜く歪める……でも、それでもヴェルトの一番になりたいとずっと思って……そんなワタクシをそんな綺麗な瞳で見るなんて、ヒドイですわ! ヴェルトの傍に女としているのでしたら、せめて張り合ってほしいものですわ!」
俯いたフォルナ。その瞬間、俺のケツがウラと綾瀬に蹴られた。
「ふん……ま、今日は私もルンバたちとの再会で幸せだし……お前も今日ぐらいは言い訳より……今日ぐらいは……フォルナを可愛がってやっても構わんぞ?」
「ねえ、ちゃんとハッキリさせなさい、朝倉くん。そうでないと私、一生君を軽蔑するわ?」
ハッキリさせるもなにも、全部はほんの僅かな認識のズレが招いたことだ。
俺はフォルナを宥めるように、ゆっくりと丁寧に教えてやることにした。
「フォルナ。全部誤解だ」
「………ごかい? 今更、誤解とはどういうことですの?」
「俺はな、エルジェラと、そういう事はしてねえ。つまり、ヤってねえ。………昨日、温泉でもしあのままお前とヤってたら……あれが俺の初めてになるところだった」
「……………?」
いや、キョトンじゃねえよ。つまりだ、俺はまだドーテーってことだよ! 察しろ、それぐらい!
「エルジェラからも言ってやってくれ。その、なんだ? ほら、なんか流れ的に俺がコスモスのパパ役ってのは、まあ、仕方ねえけどさ、その所為でフォルナが色々勘違いしてんだよ。その、あれだ。俺がお前を孕ませて……コスモスを生んだとか……」
そう、俺はなにもヤってねえから、そこだけハッキリとさせてやればいい。
俺がエルジェラにそう頼むと……
「孕む? 勘違い……はあ………孕む? ああ! 分かりました。それは、地上世界で言う性交のことでしょうか?」
「人がせっかくボカして言ってんだから、直球で聞いてくるんじゃねえよ!」
「あ、その、申し訳ありません。その、えと、性交というのは……えっと確か…………そうです、思い出しました! チンチンを愛でる行為のことですね?」
――――――――――ゑ?
「「「ぶふううううううううううううううううううう!!!!」」」
はい、吹いた。
「そうですね……私は未熟。まだまだフォルナ様やウラ様には遠く及ばない………まだ、二回しかヴェルト様のチンチンの温もりを知りません……出会ったばかりの時と……一緒に朝を迎えたベッドの中で……うふふ♡」
…………………うわ




