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第63話 アプデ初日とメンバー合流

「さて、いよいよこの日が来たね」


 時は流れ、今日はついにアップデート初日。

 みんなとの待ち合わせは済んでるし、家事も一通り片付けた。後は夏が近いから、水分補給もちゃんとして……脱水症状には気を付けないとね。


「よし、完璧! さあ行こう!」


 準備はOK、というわけで、いつものようにベッドで横になり、FFOにログイン。

 ベースキャンプに降り立った私は、いつものように周囲を見渡して……


「お、多っ!?」


 予想を遥かに越える人の多さに、目を丸くした。


「アップデート初日だからかな? まさかこんなに人でごった返してるとは思わなかったよ」


 普段から多くのプレイヤーとNPCで賑わってる場所だけど、こんなに人が多いのを見たのは初めてだ。

 もしかしたら、他の人達も私と同じように、新エリア攻略のためにフレンドさんと待ち合わせしてるのかもしれない。


 うーん、これ、ちゃんとみんなと合流出来るのかなぁ? 心配になってきたよ。


「んー……まあ、みんなこの広場にいるのは間違いないっぽいし、探してみよう」


 フレンド検索から現在地を調べ、少なくともこの広場にいるらしいことが分かった私は、ひとまず人ごみをかき分け走り回ってみる。


 こういう時、小さい体は狭い隙間に入り込めて便利だよね。いやでも、小さいせいですぐ目の前にいる人の顔すら確認するのが難しいから、一長一短?


「んー、見付からない」


 案の定、人ごみの中をスルスルと駆け回ることは出来ても、肝心のティアやエレイン……あとついでにボコミを見付けられないでいる。


 何かいい手はないものか……ん? あの人は。


「おーい、そこの人、クッコロさーん!」


「ん? ……おかしいな、幻聴か? 今ちょっと恐ろしい声が聞こえたような……」


「ここだよここ。後、恐ろしい声って何さ、こんな可愛らしい女の子捕まえて」


「ひぃ!? 幻聴じゃなかったぁ!!」


 すぐそばまで近付き、ぐいぐいとズボンの裾を引っ張ったら、ようやく足元にいる私の存在に気付いてくれた。


 この人の名前は、クッコロさん。ティアのファンで、以前一度だけ決闘したことがある。

 大柄な体から繰り出される大剣の一撃は強烈で、初めての対人戦だった私は中々危ないところまで追い詰められた。


 最後はなぜか回線落ちしてたけど、元気そうで良かったよ。


「ななななんでございましょうかベル様」


「あはは、なんで様付けなの? 見た目私の方がずっと年下なのに」


「めめめ滅相もございません、ベル様を呼び捨てなんてそんなおそろし……げふん、恐れ多いこと出来ませんとも」


「言い直しても意味変わってなくない?」


 というか、なんで私そんなに怖がられてるの? 私とクッコロさん、一度決闘しただけで何も変なことしてないんだけど。


「まあいいや、それよりクッコロさん、ちょっと今人探ししてるんだけど、肩車してくれない?」


「え? お、俺が?」


「うん、クッコロさん大きいから」


 これだけプレイヤーがいる中でも、クッコロさんの体格は中々目立つ。

 その上から見渡せば、私からもすぐに探せるし、ティア達からも探しやすいかと思ったんだけど……


「あ、もちろん嫌なら別に無理にとは」


「いえいえいえ滅相もないそれくらい喜んでやらせていただきますとも!!」


「そう? じゃあお願いします!」


 勢いよく首を振り回すクッコロさんの好意に甘え、肩の上に跨がる。

 ふふ、こういうの、小さい時以来だから懐かしいなぁ……っと、浸ってる場合じゃなかった、早く探さないと。


「んー……あ、いた! ティアー!!」


「あ、お姉ちゃん……って、何してるんだ!?」


「知り合いのプレイヤーに肩車して貰ってるの。今そっち行くから、ちょっと()()()()()!」


「え? 受け止め……」


「クッコロさん、ありがとね、またそのうち! とうっ!!」


「うおぉ!?」


 また降りたら分からなくなりそうだし、見えている今なら着地地点の心配もない。

 というわけで、私はクッコロさんの肩を足場に大ジャンプ。多くのプレイヤーの視線を集めながら、ティアの胸元へと飛び込んだ。


「うわっ、とぉ……!? ちょっ、お姉ちゃん、いくらゲームの中だからって、いきなり危ないだろ!?」


「えへへ、まあ無事に合流出来たんだから、細かいことは言いっこなしってことで!」


 そう言って笑いかけると、ティアは呆れたように溜息を溢す。

 えっ? 最近私がこの見た目通りの精神年齢になってる気がするって?

 いや、そんなことないから! 私は今この時もちゃんとお姉ちゃんです!!


「お、いたいた、ベル、ティア」


「あ、エレイン! 良かった、ちゃんと合流出来たね」


 するとすぐに、エレインも私達のところにやって来た。

 どうやら、私が大ジャンプする姿が離れたところからでも見えたようで、そのお陰で合流出来たらしい。


 ふふふ、計算通り! これも私の計画だったんだよ!


「後はボコミだけだね」


「そうだね、さっき確認したら、この辺りにいるのは間違いないっぽいんだけど」


 エレインの確認に、私はこくりと頷きを返す。


 私が飛び上がって、真っ先に寄ってくるのがボコミだと思ったのに、当てが外れたかな?


「それよりお姉ちゃん、そんなずっと抱き着かれてると、流石に恥ずかしいんだが……」


「私としては、もっと抱き着いていたいんだけどね。まあ、ボコミも探さないとだし、仕方ないか」


 渋々、本当に渋々と、私はティアの胸から離れ、地面に降り立つ。


 ぐにっ。


「ふぎゅぁ!?」


 ……なんだろう、明らかに地面とは違う感触に加えて、凄く聞き覚えのある声がしたんだけど。

 嫌な予感を覚えつつ足元を見れば、なぜか地面に這いつくばった姿勢で私に踏んづけられる、ボコミの姿が。いや、なんで?


「ハァハァ……ベルお姉様と素早く合流するためには、同じ目線に立って探すのが一番かと、地面を這うように探し回っておりましたが……ま、まさかこのような形で踏んでいただけるとは思いもよりませんでしたわ! これからはずっと地面を這って移動しようかしら?」


「うん、普通に周りの人の迷惑だから、止めようね?」


「あぁぁぁぁ!! そこ、後頭部ぐりぐりされると、顔面が地面で削られて……! 最高ですわお姉様」


 ゲームだから痛みの程度が緩んでるんだとは思うけど、中々過激なこと言うねこの子。普通だったら顔面血だらけで大分悲惨なことになるよ?

 いやまぁ、私だって普通の環境じゃないって分かってるからやってるんだけどさ。


「ほら起きて、起きないともうやってあげないよ」


「分かりました、起きますわ」


 すくっと起き上がり、自慢の縦ロールを腕でかきあげお嬢様ポーズを取るボコミ。

 直前の言動もあって、周りからの視線が完全に不審者に対するそれになってるけど、本人は全く気にした様子もないし、まあいいか。


「それじゃあ、無事に集まったことだし、新エリアに移動しようか! えーっと、船着き場だよね?」


「ああ、十分ごとに定期便とかいうのが出てるみたいだから、行ってみようぜ。せっかくの新要素だし、乗り込む時から配信始めるのもいいかもな。可視化表示してカメラの近くにウィンドウ開いておけば、来たコメントは全員見れるし」


「なるほど。じゃあそういう感じで行こうかな」


 エレインとボコミにも許可を取り、船着き場の辺りで配信を開始。

 私とティア、二人分の光球が空に浮かび、視聴者さんが次々と挨拶コメントを書き込んでくれる。


『わこつー』

『こちゃー』

『いよいよ新エリアか』


「うん、今回は私とティア、それにボコミとエレインがパーティメンバーだよ。今はまだ船着き場だけど、今日はガンガン新エリア攻略してくよー!」


『おー!』

『がんばれがんばれ』

『期待してる』


 そんな風に、挨拶とメンバーの紹介をしている間に、船着き場に到着。

 するとそこには、これまで見たこともない巨大な飛行船が停泊していた。


「うわー、すっごーい……!」


 飛行船と言っても、実際にある巨大な気球で飛ぶタイプの物じゃない。言葉通り、「空を飛ぶ船」だ。

 巨大な帆船の横から立派な翼が生え、空を掻くオールのようなものが船底付近からいくつも飛び出してるのが水面越しにもよく分かる。


 普通に考えたらとても飛びそうにない構造なのに、空を見上げれば似たような船がいくつも空を航海している辺り、自分が今いるのがファンタジーな世界なんだって実感出来てワクワクするね。


「ほら、ボーッとしてないで、行くぞ、お姉ちゃん」


「うん!」


 そうこうしているうちに飛行船の出航時間になったようで、それを知らせる鐘の音が鳴り響く。


 果たして、新エリアはどんなところなのか。

 色んな予想が飛び交うコメント欄を横目に、私は急いで船へと乗り込むのだった。

いよいよ新エリア解禁!

感想評価お待ちしております……!(;><)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ボコミそのうちに、這って、動く、白!とか言い出しそう というかこんなヤバイ連中が誰かの配信にうつりこんでたりするとおもうと笑うんですが!
[良い点] 幼女を肩車するなんて掲示板でギルティ判決待ったなしですね
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