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第36話 デートの終わりと同級生

「げへ、げへへへ……!」


「お姉ちゃん、さすがにその笑い方はいろいろと怖いんだけど」


 雫とのデートの帰り道、私は雫から貰った誕生日プレゼント……ルビーのネックレスを眺めて悦に浸っていた。

 当の雫からもドン引きされちゃってるけど、これは仕方ないことだと思う。


 だって、雫からのプレゼントだよ!? 雫が私の誕生日をお祝いしてくれたの! それも、自分の意志で部屋を出て、自分の足で買いに行ってくれたプレゼント!! これが喜ばずにいられますかって話だよ!!


 しかも、別段私の誕生石っていうわけでもないルビーを選んだ理由を聞けば、「ルビーはあらゆる災厄を退ける幸運の石。……お姉ちゃんには、いつまでも元気でいて欲しいから……」なんて、それこそルビーみたいに真っ赤な顔で言ってくれたんだよ?


 もう、衝動的に愛を叫ぶのは生物としての本能だと思うんだ。私は悪くない。


「全く、もう……お姉ちゃんのばか……」


 そして雫は雫で、さっき偶々出くわした男の人の恐怖が抜けきらないのか、散々私を罵倒して殴ってと散々だったにも拘わらず、腕に掴まったまま離れようとしない。


 もうね、こんなにいじらしい雫は初めてで、私の理性が崩壊寸前だよ。いっそこの場で抱き締めてちゅーしたいくらい。

 まあ、いくら姉妹でも、流石にそこまですると雫に嫌われちゃうかもしれないから、やらないけどさ。


「うぅ……そ、それよりっ、お姉ちゃん、《空歩》スキルは取れたの!? 今週ずっとやってたけど!」


「うぐっ……まだ」


 そんな雰囲気に耐えきれなくなったのか、雫は最近の私が気にしていたことにズバッと切り込んできた。


 うぎぎ、あの修行僧、あと一歩のところで届かないんだよね……そろそろAGIにステータス振るべきか、悩ましい。


「ふーん……お姉ちゃんにしては珍しい。まあ、《空歩》なんて、前衛職しか取らない前提のスキルだし、仕方ないかもしれないけど」


「私も前衛……いや、魔術師は後衛だった。あれ? 私はどっちを名乗ればいいの?」


「前衛でいいけど、お姉ちゃんは例外。普通、AGIを捨てた前衛なんて地雷も地雷だから」


「地雷?」


「弱すぎて足手まとい、むしろ邪魔になる存在ってこと」


「私足手纏い!?」


「そうならないからお姉ちゃんは例外なの」


 雫の容赦ない言葉に愕然としながらも、フォロー(?)されてほっと息を吐く。

 少なくとも、今でも足手纏いじゃないって思われるレベルには達してるんだ。良かった。


「私も、特に《空歩》スキルは必要ないから詳しく知らないし……蘭花さんは何か言ってなかった?」


「ええと、普通に正面から追い掛けたら普通に追い付いたからなんとも、って」


「さすがAGI職……」


 言葉とは裏腹に、どこかやれやれと言った雰囲気で呟く雫。「なんで私の周りは真っ当なキャラメイクしてる人が少ないの?」って、それもしかしなくても私が含まれてるよね?

 えっ、含まれてるどころかダントツでおかしな筆頭だって? がーん。


「まあ、帰ったら攻略サイトとか覗いてみれば、何か情報が……」


「うん? 雫、どうかした?」


 急に黙り込んだ雫の視線を追ってみれば、その先にあったのは公園の一角。そこで、雫と同い年くらいの子が、何やら困った様子で木の上を見上げていた。


 どうしたんだろう? というか、あれってもしかして……。


「雫、あの子ってもしかして、雫と同じ学年の子だったり?」


「出席したことほとんどないから、知らない。でも、そうなのかな、とは思った」


 ずっと引きこもってる雫は、中学校にもほとんど通ってないし、クラスメイトの顔と名前だって全く知らないと思う。

 ただ、見た目には歳が近そうなその子が気になるようで、じっと見つめていた。


「よし、雫、行こうか」


「えっ、あ、ちょっ」


 どうするべきか迷っている様子の雫の手を引き、その子の元へ。

 すると、すぐにその子も私達に気付いたようで、くるりと振り返って頭を下げた。


「あ、こんにちは」


「こんにちは。ねえ、こんなところで何してるの?」


 私の方も軽く頭を下げ……雫が少し警戒するように私の後ろに隠れているのを見て苦笑しつつ、女の子に話を振る。

 頭の横からぴょこんと跳ねたサイドテールが特徴的なその子は、頬を掻きながら木の上を指差した。


「いやー、それが、子猫が木の上に登って降りられなくなってるみたいで。どうしようかなって」


 見上げた先では、確かに小さな子猫が木の枝に掴まり、悲しげに鳴いていた。

 うーん、なるほど。


「じゃあ、私がちょっと登って助けてくるね」


「えっ、本気ですか?」


「本気も本気。大丈夫、これでも私、木登りは得意だから」


「それ、小さい時の話でしょ……大丈夫なの?」


 不安そうに見詰めてくる雫の頭を撫でつつ、「平気平気」と軽く笑う。

 実際、そこまで登りづらい木でもないし、なんとかなるでしょ。いやー、今日はスカートじゃなくて良かった。


「よしっ、行くよ!」


 軽くその場で屈伸し、いざ行かん。

 気合を入れて木に手をかけ、するすると登る。うん、久しぶりだけど問題ないね。


「おお~、すごい……サルみたい!」


「あはは、どーもどーも」


 ド直球な感想を飛ばす女の子に、私が軽く手を振って応えていると、雫がその子に若干不機嫌そうな顔を向けていることに気付いた。

 調子に乗らせるなとか、そんなこと思ってるのかな? まあうん、心配しなくても、これくらいへっちゃらだよ。


「さーて猫ちゃん、こっちおいでー」


 あっさりと子猫がいる木の枝まで到達し、ちょいちょいと手招きする。

 でも、困ったことに子猫は私を警戒してこっちに来てくれない。


「大丈夫、大丈夫だからねー」


 これ以上は危ないけど……仕方ない。

 子猫がいる枝の先端に向け、少しずつ体を移動させる。


「そのまま、そのまま……」


 少しずつ枝が軋み、限界が近づいていくのを感じながら、どうにかこうにか手を伸ばす。

 よし、これなら届く……!


「フニャッ」


「ああっ!?」


 その瞬間、私から逃げようとしてか、猫が足を踏み外した。

 それを見るや否や、私もまた宙へ身を投げる。


「お姉ちゃん!?」


 雫の悲鳴染みた声を聞きながら、空中で子猫をキャッチ。迫る地面に背を向けて、着地の瞬間に前転。うまく衝撃を逃がす。


 よし、完璧!!


「うわっ、お姉さんすごい! 役者さんみたい!」


「あはは、下が芝生だったからね」


 流石に、地面が砂利だったりコンクリートだったりしたら、無傷で着地とは行かなかったと思う。ゲームだったら、ダメージなんて気にせず飛べるんだけどね、現実じゃそうもいかない。


 ……ん? いや、逆にゲームならそういうのを気にせず無茶やれるわけだし、あるいはこれなら修行僧さんも……


 と、今はそれよりも先に、と。


「ほら、子猫ちゃん」


「ありがとうございます!」


 猫を受け取り、うりうりとあやす女の子。

 よくよく見れば首輪とかもしてないし、思い返すと特に自分の飼い猫だとも言ってなかった気がするけど……なんというか、手慣れてる感じするなぁ。


 そう思っていると、それに気が付いたらしいその子が自分からネタばらししてくれた。


「うち、ペットショップやってるんです。その関係で動物の扱いには慣れていて」


「へ~、そうなんだ」


 ペットショップかぁ、うちはちょっと飼う余裕がないからあれだけど、そういうお店もいいよねえ。

 雫が可愛い小動物に囲まれて戯れてる光景とか見たい……じゅるり。


「お姉ちゃん……」


「ん? 雫?」


 そんなことを考えていると、雫にくいっと裾を引かれた。

 振り返ってみると、雫は何だか見るからに不機嫌な様子で私を睨んでいて、握った拳をぽすっと抜けるような勢いでぶつけて来る。


「ばか……なんで飛び降りるの。危ないでしょ、怪我したらどうするの」


「ごめんごめん、あれくらいならいけると思って」


「いけると思って、じゃないっ。失敗したらどうするの……あまり、心配させないで……」


「……うん、ごめんね、雫」


 思った以上に心配をかけてしまっていたようで、私は大丈夫だと示すために、雫の体を優しく抱いて頭を撫でる。

 今にも泣きそうな顔をしていた雫は、それで少し落ち着いたのか、次第に顔が赤くなってきた。


「はぁ~……仲いいんですね、お二人」


「うん、私と雫は世界一愛し合ってる姉妹だからね!」


「恥ずかしいからやめてばか姉」


 私の宣言に、女の子は特に引くでもなく、「おーっ」と手を叩いてくれる。

 そして、雫の様子を見て可笑しそうに笑いながら、手を振った。


「それじゃあお姉さん、そのうちまた会いましょう! 雫ちゃんも、そのうち学校でね!」


 パタパタと、子猫を抱えて去っていく女の子。

 それに手を振り返しながら、私は雫と顔を見合わせた。


「あの子、やっぱり雫と同じ学校の子だったんだね。……なんて名前?」


「さあ? 私、入学式くらいしか学校行ってないの、お姉ちゃんも知ってるでしょ」


 興味なさげな雫の言葉に、流石にそれはどうなのと突っ込みつつ、私達は先ほどまでのように手を繋ぎ、家へと帰るのだった。

何気に初めての鈴音のリアルスペック披露

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