第九十話・議員の末路
さとると江之木、真栄島、杜井、葵久地、三ノ瀬の六名が会議室に集まった。葵久地が持参したノートパソコンを起動させている間に、真栄島が口を開く。
「今回の件はシェルター職員である尾須部とうごの犯行でした。管理が行き届かず、みつる君とりくと君の連れ去りを未然に防げなかったこと、改めてお二人にお詫び申し上げます」
「い、いいって。頭あげてよ真栄島さん!」
椅子から立ち上がり、深々と頭を下げる真栄島にさとるは焦った。同じ勧誘員として、杜井も同じように頭を下げている。それを見て、江之木は大きく溜め息をついた。
「……元はと言えば、ウチの家庭の問題も原因のひとつだ。杜井さん達が謝ることじゃねェ」
尾須部がりくとを連れ去ったのは、りくとが彼を慕っていたからだ。単なる学習塾の講師にあそこまで依存してしまったのは、江之木親子の長期のすれ違いが原因。
「子ども達も俺達も無事戻った。もうこの話は終わりだ。……それでいいか?」
「はい、分かりました」
シェルター側からの謝罪を受けたという形を取り、連れ去りの件での責任追及はここまでとなった。
「では、本題に移らせていただきます。葵久地君、例のサイト出せるかな」
「はいっ」
話はここで一旦仕切り直された。
真栄島の指示で、葵久地がノートパソコンの画面をさとる達に向ける。ネットニュースの見出しが並ぶページだ。その一番上に大きく写真付きで出ている文言に、さとると江之木は目を見開いた。
『売国疑惑の阿久居議員に辞職勧告』
『暮秋せいいち議員、急病のため辞職』
那加谷市での講演会は昨日の話だ。会場に居たマスコミのカメラの映像データはアリが奪い、今は真栄島の手にある。テレビで映像が流出したわけでもないのに何故こうなったのか。
「実はですね、会場にいた避難民の何人かがスマホで講演会の模様を撮影していたんです。SNSにアップされた動画が拡散されて凄いことになってるんですよ〜」
そう言って、葵久地は別の画面に切り替える。
SNSで『阿久居』と検索しただけで講演会の動画が幾つも表示された。主に、尾須部から敵対国内通の証拠を突き付けられて狼狽えている場面からだ。シェルターについて発言した辺りの映像もある。
さとる達は前方にあるステージにばかり気を取られ、周りにいる人々がスマートフォンを構えていることに全く気付いていなかった。那加谷市は爆撃による被害がなく、電気や通信がいち早く復旧した地域だ。多少繋がりにくいが携帯電話なども使える。
撮影したのがスマートフォンのカメラだからか、ステージを拡大して映しても輪郭がぼやけている。みつるとりくとも映ってはいるが、顔が識別できるほど画像は鮮明ではない。これには、さとると江之木はホッと胸を撫で下ろした。
「えっ、ちょ、待って。これ、この後さぁ」
三ノ瀬が焦ったように周りとノートパソコンの画面を交互に見る。
映像は尾須部が暮秋せいいち側の悪事を暴露し、みつるとりくとを泣かせた辺りに差し掛かった。銃声が響くと、映像の天地がひっくり返ってブレ始め、音声も悲鳴ばかりになった。
「安心してください。避難民の方の撮った映像に三ノ瀬君は映ってませんでしたよ」
「銃にビックリして撮影どころじゃなかったみたいです。良かったですね、三ノ瀬さん!」
「あっっっぶな……」
三ノ瀬は長机に突っ伏して安堵の溜め息を洩らした。
彼女が人前で発砲した決定的な証拠となる映像はなかった。ただ、動画を投稿した避難民の証言で『女性が銃を持っていた』という情報は流れている。
「政府がこれらの動画の削除依頼を掛けていますが、ダウンロードされて不特定多数のアカウントで再投稿され続けています。全て削除する頃には内容は全国に知れ渡っちゃうと思いますけど」
内容が内容だけに国民の関心は非常に高い。
特に、阿久居の敵対国との内通疑惑は実際に被害に遭った人々が存在する。決して許される問題ではない。
阿久居と暮秋は今回偶々矢面に立ってしまっただけで、それぞれ派閥に属している。個人をスケープゴートとして切り棄てるか組織として守るかは分からないが、大ごとにしたくないのはどちらも同じ。
「暮秋せいいち議員のほうは、阿久居せんじろう議員の悪事を暴くために必要な裏工作をしたという理由があるため、現段階ではそこまで問題視はされていません。しかし、後半の話はかなりマズいものですから、大ごとになる前に辞任して有耶無耶にするつもりでしょうね」
引退しても、まだ暮秋とうまがいる。ほとぼりが冷めた頃に支持者をそっくり引き継がせて立候補させるつもりなのだろう。
「今回の件が公になったことで、敵対国に内通していた他の議員の何人かが免罪、減軽を条件に情報提供をしてきたそうです。そのおかげで、新たに攻撃される前にあちらの拠点を幾つか潰せたとか」
一人が捕まれば芋づる式に仲間も捕まる。現在の立場を守るため、今度は敵対国を裏切るのだ。内通者に信念などないのかもしれない。
地方都市で開かれた政治家の講演会。
さとる達は連れ去られた二人を取り戻すことしか考えていなかったが、戦局が大きく変わる節目になったらしい。これも、尾須部が彼らの悪事を暴露したからだ。尾須部があの後どうなったのか誰も知らない。この場にりくとが居れば気にしただろうが、江之木は敢えて何も尋ねなかった。
「しかし、たった一日で随分状況が変わったなァ」
「それだけ国民の関心が高いということです」
江之木の呟きに真栄島が応える。
その声色は明るくない。
「……実は、阿久居せんじろう議員がシェルターについて言及したことで、一般市民による『シェルター探し』が始まっています。ここは国有地の奥にありますが、見つかるのも時間の問題でしょう」
「えっ」
さとるは講演会を思い出した。
シェルターの存在を知った聴衆のほとんどは怒っていた。狡い、不公平だという声を直接聞いた。もし見つかればどうなるか。
困惑した表情で、六人は顔を見合わせた。




