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特攻列島  作者: みやこのじょう
第六幕 追跡
63/102

第六十二話・信用の基準

挿絵(By みてみん)

 さとると江之木(えのき)がデッキで話をしている時、狭い操舵室の中で三ノ瀬(みのせ)とアリが情報交換を進めていた。


「ふうん、いなくなった保護対象者って、あの二人の身内なんだねー」

「そうなのよ! せっかく任務を終わらせたっていうのに、入れ違いで行方不明になっちゃって」

「……弟と息子、かぁ。なるほどねー」


 潮の跡がこびりついた窓越しに前方に広がるのは大海原。太陽が沈み掛け、水平線を赤く染めている。


「それで、唯一の手掛かりがコレなのよ〜!」


 三ノ瀬がカバンから取り出したのは、国会議員阿久居(あぐい)せんじろうの講演会のポスターをコピーしたもの。阿久居の名前と写真を見た途端、アリは口の端を歪めた。


「……ああ、そーゆーコトねー」

「え、なに?」

「たぶんアタリだよー。居なくなった子達は確実に講演会に連れて来られる」

「ホント? なんで!?」

「この国会議員、アッチの偉い人には有名。……どーゆーコトかわかる? 三ノ瀬サン」

「??? 全っ然分かんないです」


 ポスターを見ながら三ノ瀬は首を傾げた。

 元々趣味以外に興味関心もなく、政治や国際情勢にも疎い。流石に現総理大臣の名前なら知っているが、この国会議員のことも今回の件が起きるまで知らなかったくらいだ。


「コイツは『裏切り者』だよー」


 三ノ瀬が広げたポスターに印刷された阿久居せんじろうの顔写真、そのど真ん中をトンと指差し、アリがくつくつと笑った。

 意味が分からない、といった表情でアリを見上げる三ノ瀬。彼女にも理解出来るようにと言葉を選ぶ。


「日本人でありながら外国に都合のいい政策やら何やらを通そうとしてる人、って言えば分かるー?」

「そんな国会議員いるの!?」

「いるんだよねーそれが」

「ええ〜っ、何それ!!」


 アリの言葉に驚いた三ノ瀬が大きな声を出したので、さとると江之木が操舵室までやってきた。


「おい、何騒いでんだ」

「三ノ瀬さん大丈夫?」

「ごっごめんなさい、びっくりしちゃって」


 もしやアリが不埒な真似をしたのでは、と疑いの目で江之木が睨み付ける。しかし心配したようなことはなかった。


「今アリさんから怖い話を聞いちゃって……二人も知っておいたほうがいいかも〜」


 掻い摘んで説明されたさとる達は、最初に話を聞いた三ノ瀬のように(しき)りに首を傾げた。


「えっと、阿久居っていう議員が外国贔屓(びいき)のことをやってたってことだよな。それが戦争と関係あるのか?」

「あるよー、もちろん」

「国会議員が何するってんだ」

「例えば特定の外国籍の船の領海侵入を見逃す、とか。……おかしいと思わなかったー? 離島とはいえ、決して小さくはない兵器を持ち込めたのはなんでだろうって」


 さとるは島の山頂にあった地対艦ミサイルの搭載された軍用トラックを思い出した。

 あんな大きなトラックを運ぶには大型船でなければ無理だ。誰にも見つからずに出来るはずがない。それも一、二箇所ではない。誰かが圧力を掛けて報告を揉み消したか、あらかじめ巡回ルートを敵側に教えていたか。

 そのせいで太平洋沿岸の市街地が被害を受けた。


「ちなみに、こういう奴は一人じゃない。政府に何人もいるし重要なポジションに就いてる奴もいるよー」

「……そんなバカな話……」


 ただでさえも信じ難い話だ。さとるにとって、アリは厭味でいけ好かない信頼には値しない人物。どうせ揶揄(からか)っているだけなのでは、と疑う気持ちがある。

 でも、こんな嘘をつく必要があるのか。



『だから、アリ君は命懸けで協力してくれます。貴方がたとなんら変わりませんよ』


『心配は要りません。彼は信頼のおける仲間ですから』



 ふと、以前聞いた言葉が脳裏に浮かんだ。

 日系人だからという理由でアリの裏切りを心配したさとるに対し、真栄島(まえじま)が諭すように掛けた言葉だ。

 アリは胡散臭いが真栄島は信用できる。その真栄島が信じているのだから自分も信じなくては。そう思えた。

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