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特攻列島  作者: みやこのじょう
第六幕 追跡
61/102

第六十話・胡散臭い男

挿絵(By みてみん)

 漁船から降りてきたのはアリだった。胡散臭い笑みを浮かべながら手招きしている。


「どーも三ノ瀬(みのせ)サン、昨日ぶりー」

「またまたすいませ〜ん! 休めました?」

「んー、スコシねー」


 笑顔で挨拶を交わす三ノ瀬とアリを見て、さとるは苦虫を噛み潰したような表情で立ち止まった。

 昨日の船内でのやり取りが思い出され、怒りや羞恥などの感情が腹の底で渦巻く。彼は何も間違っていないが言い方がいちいち気に触る。もう二度と会うこともないだろうと思っていた矢先の再会に気まずさを感じていた。


「ねえ三ノ瀬さん、なんでまたコイツと?」

「陸路で行くのは遠回りだし間に合わなくなるかもしれないから船でって真栄島(まえじま)さんが提案してくれたの〜」

「ああ、そう、ですか……」


 那加谷(なかや)市は海に面しており、件の講演会は埠頭にあるイベント会場で行われる予定となっている。制限のある陸路より海路の方が早い。

 みつる達を探すための確実な移動手段だと、さとるは自分に言い聞かせた。


「こっちこっち、この船ねー」


 そう言いながらアリが指差したのは、昨日の小型自動車運搬船ではなく古びた漁船だった。全長十五メートルほどの船が船首を岸壁に向けて停泊している。


「さあ乗って乗ってー」

「はァ!? どうやってだよ」


 繋げてあると言ってもロープで係留しているだけ。岸壁と船首までは一メートル以上空いている。落ちれば海だ。それを見て江之木(えのき)が尋ねると、アリは事も無げに跳躍して船へと移った。


「こーやって」

「……おまえ」


 ニヤニヤと(わら)うアリに対し、江之木は不快感を露わにしている。初対面の怪しい男におちょくられて平常心でいられるはずもない。やはりこの男相手に怒るのは普通なのだ、自分の心の狭さとは関係ないのだと、さとるは妙な安心感を覚えた。


「もう、意地悪してないでくださいよ〜」

「ごめんね三ノ瀬サン、面白いんでつい」


 三ノ瀬に促され、アリはデッキに置いてあった長い板を岸壁に渡して足場を作った。幅三十センチもない板の上を歩いて渡り、無事全員が漁船へと乗り込んだ。


「おい(あん)ちゃん、さっきの聞こえたぞ!」

「わあ、怖い怖ーい!」


 怒鳴られたアリは、ケタケタと笑いながら操舵室へと走って逃げていった。


「アイツ、なんかこうイラッとすんなァ」

「……分かります」


 江之木の率直な言葉に、さとるは何度も頷いた。

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