349
俺はファルネーゼ将軍に帰還の挨拶をした。
ところが、メルヴィスに呼び出されているのですぐに来て欲しいという。
また呼び出しだ。
というか俺、メルヴィスが天界の住人と戦っている間、ずっと放置されていたんだが、あれで俺が死んだとは思わないのだろうか……とか考えているうちに玉座の間についた。
左右から気配が迫ってくる。だが見えない。
(左の方が速い!)
俺は右に躱すと同時に蹴りを見舞う。
「ぐえっ」という声とともに、何かが吹っ飛んでいった気配があった。
すぐに右手からも攻撃がやってくる。
片足を上げたままなので、そのまま横に転がる。
――ザシュゥゥ
床に深い切り込みが入った。
殺す気、満々じゃねーか。
ならばこっちだって相応の反撃をしてやる。
身体強化を施して、頭のあたりに狙いを定める。
「やめい!」
身体が硬直した。
メルヴィスが声に魔素を乗せたのは分かったが、それでも身体が竦む。怖ぇええよ。
「「はーい」」
素直な声が聞こえて、二つの気配は下がっていった。
俺を襲ってきたのは、ジッケとマニー。
奴らはメルヴィスの側近で、エターナルインビジブル族だ。
だから見えないし、気配も掴めない。
前はかすかにしか気配を感じ取れなかったが、魔素を読み取る力が戻ったからか、やってくる気配まで分かるようになった。
「バレちゃったよ」
「バレちゃったね」
「やっぱりだね」
「やっぱりだよ」
確認のためだけに、俺を襲ったのか。
相変わらずコイツらは、訳が分からない。
「メルヴィス様、ゴーランです。ただいま参上しました」
メルヴィスの前で頭を垂れる。
「うむ……早速だが、天界の連中を尋問した」
早いな。いや、尋問の話ではなく、本題に入るのがだ。
もっとこう、雑談とか……って、メルヴィスと雑談する光景が思い浮かばなかった。
といって、俺から世間話を振ることはしない。
「今回の侵攻は、エンラ機関が主導し、多くの機関が加わったものらしい」
メルヴィスが行ったのは、尋問……という名の拷問だろう。
それ専用の魔法くらい所持していそうだ。
メルヴィスが聞き出した内容は多岐にわたるらしい。
いったいどれだけの尋問をしたのやら。
簡単にまとめると、天界で各勢力が鎬を削って、エンラ機関が勝ち抜いたらしい。
エンラ機関が一番良い土地を手に入れたそうな。
天界の一番良い土地というのは、聖気が豊富にあり、魔界への穴が開けやすい場所。
なぜその場所がよいかというと、より少ない力で魔石が取得できるからだ。
魔石とは、俺たちが体内に持つ支配のオーブ。
なんか手に入れやすいとか言われると、複雑な気分になる。
いくつかの組織を配下に収めたエンラ機関は、大規模な魔界侵攻に繰り出した。
理由は、人界へ行くための布石作り。
どうやら天界の住人が人界に行けないせいで、十分な聖気が確保できなくなっているらしい。
ヤマトのネガキャンも効いているのかもしれない。
そして天界はもはやじり貧。
このままではいつか聖気が枯渇する。
かといって、各機関は研究を止めないし、聖気を節約するという話も出てこない。
人界に行きたくても行けなくなる前に、何とかしよう。
これってもう最後の機会なんじゃ? とばかりに、その下準備に入ったらしい。
天界もなかなか切羽詰まっているのが分かった。
さて、では奴らが魔界で何をするかというと、魔石集めもそうだが、以前報告があった「唯一の成功例」探しがメインだったようだ。
トラルザード領で俺が見つかったからだ。
そういえばあの時、一部の敵は逃げ帰っている。
魔界に成功例がいるので、確保しよう。
そんな感じで捜索したかったようだ。
「探し出して、どうしようというのでしょう?」
それが不思議だ。俺に何の価値がある?
「人界への行き方を魂が理解しているらしい」
「……?」
あの実験。
冥界の中で「まったく浄化されていない魂」を選び出し、くっつけたらしい。
元となったのは「オレ」の魂で、くっつけたのは「俺」の魂。
そういえば俺、前世の記憶が残ったままだ。
まったく浄化されていないのだから、当たり前か。
「自我が残った魂を融合すると、元の魂が拒絶するらしい」
「……かもしれませんね」
よく無事だったな、俺。
「あまりに似通った魂以外、不可能だそうだ。魂の双子以外はな」
「…………」
「俺」と「オレ」って、双子だったの? 魂のという意味だけど。
知的で理知的な俺が? 紳士な俺がだぞ? うーん、ありえない。
「その浄化されていない魂ならば、冥界から抜ける方法を『魂が』覚えているのだそうだ」
「……?」
なんだそれ。魂が覚えている?
俺が覚えているってことだよな。
………………いや、待てよ。
なぜ俺は人界へ転生した?
肉体と魂が繋がっているのに。
しかも冥界を抜けるには、完全に魂が浄化されていることが条件だ。
いくら「オレ」の魂が浄化されたからといって、その「おまけ」で俺が冥界を抜けられるものなのか?
よく考えたらおかしい。
なぜあの時……冥界を……抜けられた?
そこまで考えたとき、俺は稲妻に撃たれた気がした。
「覚えています……そうか、そうだったのか」
冥界を抜ける方法……無意識だったけど、俺はなし得た。
その通りだ。俺は覚えていたのだから。
どこでどうすればいいのか、魂が理解していた。
人界で死んだ俺は冥界に落ちた。
その手順は覚えている。
だから俺は冥界から人界へ転生できたんだ。
何しろ俺は、前・世・の・記・憶・が・あ・る。
普通は魂が完全に浄化されるから、その情報も綺麗さっぱり消えてしまう。
だが俺は、俺だけは、覚えている。
そして分かった。
「オレ」が離れたからこそ、「俺」は転生できた。
「そうか……そうだったのか」
俺は、すべて思い出した。




