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俺が仮死状態という『かりそめの死』を迎えて、人界へ赴いた。
人界の中でも、ヤマトが造った世界『異界』に転生した。
そこで旅をして異界の現状を知り、旅の最後にヤマトに会って戻ってきた。
これを話すのに、それなりの時間がかかった。
メルヴィスはじっと俺の話を聞いていた。
真贋を見極めるかのように、俺の言葉を一つ一つ、注意深く吟味していた。
真っ暗な空間でメルヴィスと二人きり。
なんとも背筋の氷る展開ではなかろうか。
「先ほど、儂の魔素を吸収したな。それはヤマト様から習ったのか?」
「いえ、これは俺の特殊技能です」
そこでメルヴィスは、少し不審な顔をした。
ヤマトだけが使える特殊技能だと思ったのかもしれない。
戦いの最中で、敵の魔素を吸収するのはかなり特殊な技だ。
魔界での戦いは、魔素の削り合いと言っていい。
魔素がなければ、攻撃も防御も貧弱となり、魔法だって撃てない。
逆に保有する魔素が多ければ自然と鍛えられ、相手の必死の一撃でさえ、まったくダメージを喰らわないでいられる。
だから相手の魔素量をはかり、強者を見極めるのだ。
それを戦いの途中で補充できるのはかなりの強みだ。しかも、相手から。
「その技が使えるのはヤマト様しか知らん」
メルヴィスも初めてらしい。
そこで俺の素性が気になったようだ。
「俺の種族、素盞鳴尊が関係しているかもしれません。魔王トラルザード様は、ヤマト様の種族と類似点があると仰っていました」
「ふむ」
俺がオーガ族から素盞鳴尊へと特殊進化したことを告げると、いろいろ質問してきた。
共通点を見いだそうとしているようだが、途中から昔を懐かしむ雰囲気の方が強くなった。
メルヴィスが出会った頃にはすでに、ヤマトは日本武尊になっていたらしい。
追い払ってもヤマトを慕って付いてくる者たちが列をなし、本人は嫌そうに言いながらも、彼らを守っていたという。
メルヴィスの昔話は、俺が会ったヤマトとは別人のようで、また同一人物のようでもあった。
俺とメルヴィスは、この黒い霧の中で長く話した。
人界でのことが中心だったが、先ほどのように俺の種族についての話も多かった。
あとは、俺の前世の知識が役に立った。
ヤマトが恐れた、人間が作り上げた科学技術。その粋を俺は知っている。
いかに魔界の住人が強くても、何千、何万というミサイルを受けて、無事でいられるか分からない。
少なくとも、ただの上位種族たちでは無理だろう。
大量破壊兵器には、それだけの威力がある。
魔界の存在を秘匿し、人間の関心がこちらに向かせないために、ヤマトは結界を解除しない。
それは伝えなければいけないことだった。
「ヤマト様は、魔界に住む者たちを守ることを選んだのだな」
帰ってこようと思えば、結界を壊せばいい。
ゼウスが人間を守ろうと張った結界は、今では人間から魔界や天界を守るための壁となっている。
ヤマトの選択をメルヴィスはどう受け止めたのだろうか。俺には分からない。
結局、すべて話していたら、思ったより長い話になった。
「よく分かった。一度、考えを整理することにしよう」
メルヴィスは国に帰るらしい。
なんと、ミッション成功だ。
何の問題もなく、こんなに上手くいくとは思わなかった。
ヤマトのことは伝えられたし、キレたのも元に戻った。
久し振りの大勝利ではなかろうか。
メルヴィスは『負の霧』を解除した。
周囲が元に戻る。
これでメルヴィスが国に帰れば、すべて丸く収まる。
俺がホッとして空を見上げると……
「見ツケタ」
「成功例、見ツケタ!」
「ココニ、イタ」
「確保、確保」
「魔石ヲ取リ出セ」
天界の住人がいた。しかも大勢。
なぜ天界の連中がここに集まっているのか。
メルヴィスが拠点の上に『負の霧』を発生させたからだ。
そして俺と長話ししていたからだ。
異変を感じて集まってきていた。そりゃ、集まるわ。
「……ふむ。ちょうどよい。ヘラの研究を根こそぎ吐いて貰うとしよう」
ですよねー、戦いますよねー。
メルヴィスが魔素を練っているのが分かった。
危険だ。危険すぎる。
俺は巻き添えを食らわないように、身体強化してメルヴィスから離れた。
ダッシュで離れた。脱兎のごとくだ。
それはもう一直線に離れた。
後ろを振り返らずにそのまま全速力で……そしてもういいかなと思って振り向くと。
「なんで、俺の方に来るんだよ!」
天界の住人が大挙して俺を追いかけてきていた。
直後、メルヴィスの魔法が完成。
『豪槍』と聞こえた直後、漆黒の槍が四方八方から飛び出してきた。
「あぶねえ!」
避けた。ギリギリで避けた。
避けられたのは僥倖。
身体強化をかけていたからと、漆黒の槍が前からしか来なかったからだ。
天界の住人たちは空中にいたことで、かなりの数の槍に身体を貫かれた。
半分以上の敵が、頭を下にして落下する。
中には上位種がいたらしく、傷ついても堪えている者もいる。
「応援、呼ベ」
「呼ビマシタ」
不吉な声が聞こえた。
念話か、テレパシーか、そんなやりとりが交わされている。
「マジか」
応援って、ここに集まってくるのか?
というか、連中、俺を狙って来ているんだが。あと魔石取り出せとか言っていた。
魔界の住人にとって、支配のオーブは心臓と同じだから。
そこに魂が入っているから。
(かなり拙いな。俺だけじゃ相手にしきれないが、メルヴィスの所へ向かったら、魔法の余波でそのまま死にそうなんだが)
さて、どうしよう。




