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魔界が大混乱に陥っているのは分かった。
各地で戦争がおこっているだけでも大変なのに、天界からの侵攻まであった。
そしてメルヴィスがキレた。
ここがポイントだ。
元気なじいさんだというなかれ。
メルヴィスの広範囲魔法は、周囲への影響が半端ないらしいのだ。
そして俺の話。
トラルザード領内での出来事を話したあと、ファルネーゼ将軍はかなり真剣に考え込んでしまった。
俺が伝えたのは、魔王トラルザードが魔王リーガードを倒して、周辺魔王から狙われたこと。
それは将軍も知っていた。
いまだリーガード領の残党が活動しているので、トラルザードは南方の軍を引き揚げることが難しいこと。
南と北で二面作戦を強いられているのだ。
それによる将軍の返答は、なかなかロックだった。
「そんな状況では、トラルザード様を使ってメルヴィス様を止められそうにないな」
トラルザードは大魔王にもっとも近いとはいえ、それはどうだろうか。
話を持っていった瞬間に涙目になって、プルプル震えると思う。
城に引きこもって、絶対に出てこない。
「それは難しいんじゃないでしょうかね」
「やはり無理か……国内は攻め込まれているし、魔王を動かすのは難しいな」
将軍は勘違いしているが、動かすとかいう以前に無理なのだ。怖がって。
その辺は言っても理解されるかどうか。
「キレたメルヴィス様は、そんなにヤバいんですか?」
「他国で大暴れしているため、宣戦布告ととられる可能性がある。また、戦場がこっちに移動すれば、この国も滅ぶ」
「それはヤバいですね」
他国って、暴れたのは大魔王ダールムの国だよな。
さすがに大魔王国と戦争は勘弁してもらいたい。
といって、この国でも暴れてほしくない。
なるほど、だから「止められる者」が必要なのか。
話が戻るが、南北には将軍が派遣されている。
城を守るのはファルネーゼ将軍だ。
もしメルヴィスを止めるとなれば、ファルネーゼ将軍が向かうしかない。
運が悪ければ即死。
普通で死亡。
運良く生き残れても、話を聞いてくれるか分からない。
そりゃ、困るわけだ。
「……仕方ないな」
将軍は覚悟を決めたらしい。
俺でも「仕方ない」と思う。将軍に頑張ってもらうしかない。
「ゴーランが強くなってくれて助かったよ」
「そうですか。あまり強くなった実感が湧かないんですけど」
以前、進化したときは大きな変化があった。
あれは肉体が組み変わったようなものだから当然だ。
今回はただ魔素が増えただけ。そんな印象だ。
俺は小魔王になったらしいが、それだって死ぬ直前の話だ。
あれからずっと擬人で過ごしていたので、正直小魔王と言われても実感がない。
「進化したときも驚いたが、こんな短期間でこれほど見違えるように成長するとは、正直私もビックリだ」
「いや、本当に実感がないので……」
いやに持ち上げる。部下が成長して、そんなに嬉しいのだろうか。
下克上されるとか考えないのだろうか。
上に立つと面倒ごとが増えるから俺はやらないけど、普通強くなったら、なるべく多くの者を従えさせると、息巻くんじゃなかろうか。
「これなら耐えられるだろう」
将軍がウンウンと頷いている。耐えられる? 何に?
「えっと、ファルネーゼ将軍。言っている意味が分からないのですけど」
「ああ、すまない。勝手に納得してしまった」
「いえ……それで何が耐えられるんです?」
「もちろんメルヴィス様の元まで、耐えられるだろ?」
「はい!?」
ちょっと待った……今なんて言った?
「これだけの強さを持てば大丈夫だ。問題ない」
「問題ないって……まさか」
「これってゴーランにしか頼めないことだ」
「それって具体的に言いますと……?」
「メルヴィス様を止めてくれ」
「やっぱり!」
「メルヴィス様に近づくだけでも大変だ。通常の上位種族でもおいそれと近づけない。だが、ゴーランくらい強靱ならばそれも可能だ」
「あのですね……」
「途中、天界の住人と遭遇するかもしれないが、小魔王クラスならば大丈夫だろう」
「あのですね……」
「頼む。この国を救うと思って、行ってくれないか」
「…………」
この国を救うと言われれば……どうだろう。
この国には俺が守ると決めた連中が大勢住んでいる。
オーガ族や死神族、ラミア族だけでない。非戦闘種族もいる。
それに俺は、メルヴィスに会わねばならなかった。
とすると、サシで会えるいい機会なのか?
危険な気がするが、どうせだれかが落ちつかせないと被害が広がるばかり。
そして取り返しの付かない状況になってからだと、じっくり話もできない。
「……分かりました。俺が行ってきます」
「そうか。助かる。そうと決まれば早速……」
「大魔王ダールム様の国ですとかなり距離があります」
身体強化して駆け抜けても数日はかかる。それも走りっぱなしでだ。
「大丈夫だ。今回、私は飛行能力に優れた部下だけを選りすぐって連れてきた」
「はっ?」
どういうこと?
「四人もいれば問題ない……おい」
「「はっ!」」
ヴァンパイア族が四人やってきた。
みな大柄で、歴戦の勇士みたいな面構えをしている。
「……って、ええっ!?」
二体のヴァンパイア族に両腕を掴まれた。そして俺の身体が浮き上がる。
「ちょっ、まっ……」
浮いた足を残りの二体が掴んで飛び上がった。
俺は四肢を掴まれて、地面と平行に浮いている。
昔の映画で見た、胸に「S」を付けた超人が空を飛ぶような格好だ。
「ではゴーラン、頼んだぞ。そしておまえたち」
「「はっ!」」
「大急ぎで届けてくれ」
「「分かりましたっ!!」」
「ちょっ……ファルネーゼ将軍! もしかしてこのままぁ~~~~」
言い終わるよりも早く、俺は四肢を掴まれたまま飛翔した。




