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俺たちの国に魔王ギドマンの国が攻めてきた。
ギドマンは、魔王トラルザードに対抗するために小魔王国を併呑したかったようだ。
狙いとしては間違っていない。
メルヴィスの国を狙わなければだが。
ギドマンの軍をファルネーゼ将軍の側近であるアタラスシアが迎撃した。
そこに俺が参戦して、すぐ決着がついた。
こちらの被害は軽微。まったく問題ない。
救援に駆けつけたのはもちろんファルネーゼ将軍だ。
わざわざメルヴィスの城から飛んできたらしい。
将軍が来る前に戦いを終わらせられたのは良かったと思う。
だが将軍は、とんでもない情報をもたらしてくれた。
「天界から侵攻があって、メルヴィス様が暴れているらしい」
「なんですって!?」
天界の侵攻……魔界が大混乱しているときにやってくるとは。
いまここにいるのは、将軍と俺、そしてアタラスシアの三人。
軍師フェリシアは城に残っている。
なにかあれば、フェリシアが判断してくれることになっているらしい。
たしかに軍師が城にいれば安心だ。
「しかしゴーラン。少し見ないうちに随分と魔素量を増大させたな」
「そうですね。魔素量の増加については俺も驚いていますが、今はそれどころではないのでは?」
あれは俺がネヒョルを倒したからだろう。
あの戦いで得た魔素で、俺は小魔王に至ったのだと思う。
「そうだな。その話はあとにして、ここの状況だ。今はどうなっている?」
「国境を越えて来た軍は撃破しました。軍の総大将は死亡し、兵たちは国境外へ撤退しております」
アタラスシアがそう報告する。
戦後処理しつつ、逃げた軍の情報をしっかり集めていたらしい。
そもそも軍が国境を越えてきた情報も、アタラスシアはかなり早い段階で掴んでいたようだ。
城に使いを出しつつ迎撃にでたらしい。
ここで誤算は、敵がジャニウス軍でなかったことだった。
軍団の構成が違う。
対ジャニウス軍を想定していたことで、肩すかしを食らったようだ。
アタラスシアは首を傾げつつも、より詳しく情報を集めたらしい。
敵軍の構成から、どの国の軍なのかを推し量る。
しばらくして、魔王ギドマンの軍だと判明したようだ。
アタラスシアは、国外で何か行われているのか大凡理解したという。
つまり魔王が手を組んでもまだトラルザードには届かないと。
そのため小魔王国へ食指を伸ばしてきた。そう理解した。
「ギドマンの軍は、トラルザード国へ攻める前哨戦となります。被害を出さずに済ませたいはずです。そのため私は、長期戦に持ち込む予定でした。そうすれば援軍も間に合いますし、向こうに出血を強いることができますから」
アタラスシアの報告にファルネーゼも頷いた。
「トラルザード戦が有利になるよう小魔王国へ攻め込むのに、そこで大きな被害を出せば、計画を根本から見直す必要が出てくる。少なくとも、わが国に全力で挑むことはしてこない」
「はい。ですので、私どもはただ待っているだけで良かったのです」
「だがゴーランが到着したことで、短期決戦に切り替えたわけか」
なるほど、あの戦いにはそんな意味があったわけか。
そういえば、防御陣を作って戦っていたっけ。
「俺が勝手に参戦した感じですが、結果的にそうなったようです」
敵がじれて大将が出てくればアタラスシアが相対しただろうし、そうでなければ援軍到着までゆるゆると戦っていたのだろう。
「今後、ギドマンはどう出てくると思う?」
「おそらくですが、すぐの侵攻はないと思います。同程度の戦力を投入しても同じ結果になるでしょう」
「ということは、しばらくは安泰か」
「そうだと思います」
今回、軍の大将を撃破できたのが大きい。
勝つためには、それより強い者を連れてくるしかない。
だが、そうそう強力な部下を派遣できるとは思えない。
かといって、前より少し強い程度では同じ結果になる。
「俺もそう思います。あまり弱いところを見せると、ジャニウス軍が侮りますし」
少し前まで小競り合いを繰り返していた魔王たちだ。
いまは協力しているとはいえ、全面的な信頼関係を結んでいるとは思えない。
使えない相手と分かれば、同盟していたとしても、牙を剥く可能性は十分にある。
次は絶対に勝つ……その算段がつかなければ、ギドマンの軍は侵攻してこないだろう。
「分かった。私の軍が到着次第、迎撃態勢を整える。それでいいだろう」
ファルネーゼ将軍は、後続に精鋭を連れてきているらしい。
「俺はずっとトラルザード領にいたので、最近の動きが分かっていないのですが、メルヴィス様といい、天界といい、この地で何が起こっているのですか?」
「私もすべてを理解しているわけではないが、魔王リーガードが死亡し、魔界が震えた。近い未来にやってくる大魔王到来に向けて、各国が野心をむき出しにした」
「それは分かります。一人が突出すれば周囲から抑えられますが、周囲が突出しようとすれば、競い合い、力の大きい者が残りますしね」
出る杭は打たれるが、みなが出る杭ならば、一番伸ばした者が勝つ。
魔界はいま、そんな状況だ。
「メルヴィス様だが、大魔王ダールム様のもとへ向かわれた。互いに領土を接しているし、旧知の間柄である。出かけられることは問題なかった。私が城を預かっていたし、北も南も大人しかった」
「国の南北には将軍がいるわけですか。万全の守りですね」
「そうだ。だが天界からの侵攻があったと報告が入り、メルヴィス様がキレられたという話も入ってきた」
「……マジですか?」
キレたのか。あのひと。
「私も冗談であって欲しいが、本当のことだ。ついでにいうと、天界からの侵攻があったのは、ダールム様の領内ということで、メルヴィス様は他国で暴れられたことになる」
「えっと……それって、どうなるんでしょう」
「さて……」
ファルネーゼ将軍は遠い目をした。
どうなるか知っていてとぼけているように見える。
「それで、将軍はどうしたんです?」
「私を含めた他の将軍たちは、静観せざるを得ない。向かえば被害を受けることがわかりきっているから、行くとしても部下は連れて行けない。行ったところで説得できるとも思えないので、無駄死にになる可能性が高い」
「……もしかして、静観という名の放置ですか?」
「そうなる。せめてこの国を全力で守るくらいしか、やりようがない」
キレたメルヴィスに近づけば死ぬ。
死ななくても、説得できるとは限らない。そんな感じらしい。
「メルヴィス様と天界の住人との戦いですか。被害が凄そうですね」
「歳を取られてからのメルヴィス様は、広範囲の殲滅魔法を得意とされている。被害は……かなり出るだろうな」
「…………」
「北と南は動かせないから、最悪私が止めに入ることになる。今から気が重い」
南北に将軍を置いて防衛している現在、自由に動けるのはファルネーゼ将軍のみ。
これまで城を守るというのは、そこで眠るメルヴィスを守ると同義だった。
いまメルヴィスが外で戦っているならば、ついていくのが普通……そう考えることもできる。
「大変ですね」
本当に将軍職は大変だ。
「そういえば、ゴーランはどうしてこれほど魔素が増えたんだ?」
「俺ですか? ワイルドハントの集団と一戦やらかしまして、首領のネヒョルを一騎打ちで倒したんです」
一騎打ちに持ち込んで、邪魔が入らない状況で殺した。
あれで小魔王に成り上がり、魔素が格段に増えたのだと思う。
「そうか。ついにネヒョルを倒したか。よくあれを倒せたな」
将軍は考え深げに頷いた。
考えてみれば、ネヒョルは身分を偽っていたけど、もとは将軍の部下だった。
ネヒョルのことは、俺より詳しいんじゃなかろうか。
「俺は元部下ですからね。下克上を仕掛ければ、受けるしかありません。邪魔が入らない状況で戦って、なんとか勝ちを拾いました。トラルザード様が支配の石版で確認して、名前の消滅も確認しています」
だから俺が成り上がれたわけだ。
その後、死んだけど。
そして生き返ったけど。
その辺は言わないけど。
最後に生き返ったのだ。
どんな勝ち方でも、勝ちは勝ち。
胸を張って勝ったと言おう。
その後、死んだけど(以下無限ループ)。




