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深海竜の太刀で敵を切り裂き、敵本陣を突っ切っていったら、上位種族と思われる連中を発見した。
この先にボスか中ボスくらいはいそうだ。
遠くでヒャッハーしている連中の声が聞こえる。
ここに来るには、まだ時間がかかりそうだ。
「……んじゃ、相手願いますかね」
向こうもやる気だ。
俺は深海竜の太刀を腰に戻し、背中の六角棍を取り出す。
深海竜の太刀も悪くないが、魔素の乗せ具合は、こっちの打撃武器の方が良い。
頑丈なので、思いっきり振れるのもいい。
敵の一人に狙いをつけ、身体強化して間合いを詰める。
どうやら奴らの想像よりも、俺の突進が速かったらしい。
連中が驚愕している間に、脳天からの一撃を見舞ってやった。
頭を打ち抜かれて、もんどりうって転がっていく姿を見て、俺は口角を上げた。
渾身の一撃を受けても、まだ息がある。つまり、こいつらはかなり強い。
全力で掛かっても、一撃では死なない。それくらい頑丈なのだ。
「こいつは当たりかな」
目の前の連中は、中ボスかボスを守る側近といったところか。
敵の一体が俺を睨みつけた。
「散々蹴散らしてやったのに、まだかかってくるか」
面白いことを言う。俺たちをトラルザード軍と勘違いしているのだ。
「こんな辺鄙なところを任されるくらいだ。お粗末な状況認識は許してやる」
後々、面倒だから訂正はしない。
まあ、この場所は、本命の進軍経路から外れている。
トラルザードを撃つにはここは遠回りとなる。
つまり連中は、防衛のために布陣しているはずだ。
おそらく迎撃軍を回り込ませないための軍隊だろう。
とすると、俺たちより先に進んでいた軍は、回り込んで強襲するつもりだったのかもしれない。
その辺はどうでもいい。
要はこいつらが任されているこの地は、戦略上それほど重要じゃないってことだ。
そこを守っている連中の実力は推して知るべし。
二軍と見ていい。
「俺はおしゃべりしに来たんじゃねえぜ、だからコイツで語らせてもらう」
本陣の中に入って分かった。本当はもっと兵が常駐していたはずだ。
随分と広く本陣を作ったなと思ったが、そうではなく、本来いるはずの兵がここにいないのだ。
つまり最初の予想通り、逃げたトラルザード軍の兵を追っている。
「口ではどうとでも言える。無謀にも少数で突撃してきたことを後悔させてやろう」
「やれるものなら、やってみな!」
見たところ十名近い上位種族がいるが、本当に強いのは三名ほど。
実はそのうちの一人は最初の一撃を喰らってまだ転がっている。
飛行部隊が、俺たちのことを知らせに走ったはずだ。
あまりぐずぐずしていると、追っていた連中が帰ってきてしまう。
時間制限ありのイベントだ。速攻でクリア……殲滅させてもらおう。
俺は、六角棍を振るった。
強敵揃いとは言え、強い連中さえ倒してしまえば、あとは雑魚だ。
多少の被弾さえ我慢すれば、短時間で殲滅することも容易だ。
というか、余裕だった。
魔素をたっぷりのせた俺の一撃は、ほどほど効いたらしい。
「……さて奥に気配があるんだよな」
真打ちか、それとも同じような側近の群れか。
天幕らしきものを避けて進み、衝立の向こうにいる奴の顔を覗こうかとしたその時。
――ドドドドドド
巨大な馬の群れがやってきた。
「なんだ!?」
「ゴーラン、ちょっと失敗しちゃった~」
馬の先頭を走っている。というか逃げている。
走っているのはベッカだ。俺に睨まれて、テヘとかやっている。
「赤獰馬族じゃねーか! なに連れてきてるんだよ!」
赤獰馬族は獰馬族の進化系種だ。
獰馬族が進化すると身体が赤く、巨大になる。
馬とはいえ完全な肉食で、敵を頭からバリバリと喰う。とても悪食だ。
全身が筋肉の塊みたいな奴で、集団でこられると対処が難しい。
「なんかさ~、怒らしちゃったみたい~」
避けて~と間の抜けた声が聞こえた。あとでベッカは殴る。
「くっそ!」
避けてもいいが、コイツらは集団で襲いかかる習性を持っている。
ハイオーガ族だって、こんなのに囲まれたら、為す術がない。
結構単純な思考しか持たないはずなので、戦局を変えるときまで温存しておいたのだろう。
それをベッカがちょっかいかけたと。そんな感じだろう。
俺は赤獰馬族の群れ止めようと、前に立ちはだかった……が。
「だめだ、怒りで我を忘れている」
暴れ馬ならぬ、狂い馬だ。
口から泡を吹いて突進してくる。ちょっと見たくない光景だ。
「先頭をぶっ飛ばすか」
それで収まるとは思えないが、やらないよりはマシだ。
ベッカを追っている先頭の一頭が群れを引っ張っているのは明らかだ。そいつを潰すことにする。
「くらえ!」
今から使うのは、人気に根ざした技。
気功とも発勁とも言われる技といえばいいだろうか。
俺が人間だったときに習得し、それを鍛錬して、魔素で扱えるようにした。
魔界版発勁だ。
これはヤマトにも効いた。
「はっ!」
体内の魔素を集め、両手で発射するよう、先頭の赤獰馬族に打ち込んだ。
これで止められるか?
――パアン
「えっ!?」
「ええっ!?」
俺とベッカが同時に叫んだ。予想外の展開がおきた。
先頭の赤獰馬族はというと……きれいに破裂していた。
中身入りの赤い風船――肉袋が破裂するような感じだ。
飛び散った臓腑がスローモーションで落下していく。
いまがクリスマスで、これが粉雪だったら、ノリで告白してしまいそうなほど幻想的だ。
だが現実はいつも残酷。
鼻孔をくすぐる血なまぐさい香りが、俺を現実へと引き戻した。
「ゴーラン、これはさすがにわたしも、どん引きだよ~」
え~、何やってんの~? 空気読まなきゃ~と言われた。ベッカに言われた。
ベッカは後で殴る。
そうではなく、この魔界版発勁……封印した方がいい。
「ゴーラン、どん引きついでに、残りもよろしく~」
「おまえも手伝え」
「え~」
そんな声をあげるベッカだが、ちゃんと手伝ってくれた。




