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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
最終章 魔界はいつでも世紀末(ヒャッハー)編
322/359

322

 話を聞いた限りでも、魔界が大変なことになっているのが分かる。

 そもそも魔王がやる気を出すと、どうなるのか。

 周りはどう反応するのか。


「魔王のみなさん、頑張ってくださいね」


 これで終わる訳がない。

 魔王どうしの戦いでは、小魔王ですらポンポンと死んでゆく。

 周辺に与える影響が大きすぎるのだ。


 たとえばもし、魔王が一体死んだとしよう。

 その空白地帯を倒した魔王がその地をすべて奪う……ことができればいいが、反抗する者たちもいる。


 そんな連中は、他国に逃げるか、決戦をしかけるか、独立するか。

 もし他国に逃げた場合、その地を治めている小魔王を喰らって強くなろうとする。


 逃げてきた連中がいれば、小魔王国は迎撃するしかない。

 勝てばよし。


 負ければ、小魔王の部下たちは他国へ逃げるか、従属するか、独立するか……つまり戦いの場がどんどんと広がり、延々と繰り返されるのだ。


 魔王たちはこれまで牽制し合っていた。

 ひとたびバランスが崩れれば、あとは一直線。


 大魔王への道が開ければ邁進するし、他の魔王はそれを潰しにかかる。

 より巨大な戦いが待っている。


「……マジかよ」

 魔界全土がいま、そんな状態なのである。


 俺が思い悩んでいると、トラルザードは「生き返ったばかりじゃ、ゆっくりするがよい」と出て行った。

 別に生き返ったことに頭を抱えているわけじゃない。


 そう言ってもしょうがないので、俺は頷くだけに留めた。

 どうやらトラルザードは、俺がワイルドハントの急襲を阻止したことで、いろいろと恩を感じているらしい。


 それはいいのだが、魔王に気を使われると、こっちが困ってしまう。




 部屋にひとりになった俺は、そこでゆっくりと身体を動かしてみた。

 魔界の住人にとって、生と死は単純だ。


 動いていれば生きているし、そうでなければ死んでいる。

 長期に亘る昏睡状態……いわゆる植物状態となっていた俺の存在など、想像の埒外だろう。


「……ふむ、大丈夫そうだな」


 全身に魔素を巡らせて確認したが、おかしな所はない。

 体内の魔素が、身体を万全な状態に保ってくれていたのではと思う。


 根拠はないが、魔界の住人にとって、魔素はかなり有益なもの。

 魔素が無くなれば死ぬし、枯渇すれば身体を動かすこともできなくなる。


 反対にちゃんと体内に魔素があれば、意識が無くてもこのように身体を保全してくれるのではないかと思う。


 身体強化を施し、身体を動かしていると、部屋の外から足音が聞こえた。

「ゴーラン様……?」


 城の兵士がリグを連れて現れた。

 リグは俺の副官だ。うん、懐かしい。


「久し振りだな、リグ。元気してたか?」

「それは私が言うべき言葉かと思いますが……何をされているのですか?」


「鍛錬?」

 俺は部屋のはりをつまんで、それにぶら下がっている。


 指先だけに魔素を這わせている。部分身体強化の練習だ。

 ヤマトが俺と戦っているときに使っていた。


 擬人の器に入っていたから最後の方でようやく気付けたが、これはかなり有用だ。

 俺が全身を強化しているのに対して、ヤマトは部分強化で対応していた。


「それよりリグ。おまえたちはもう、国に戻ったのかと思ったぞ」

 そう、なぜかリグはここにいる。


「ゴーラン様が生きているらしいと聞いて、留まっておりました。そのうちに情勢が悪化しましてどうしようかと思っていたところです」


 判断を仰ぐにも、俺は寝ている。

 動くに動けず、そのままだったらしい。


 俺が何年もこのままだったら、どうするつもりだったのか。


「まあいい。少し話したいことがある……あと聞きたいことも。ちょっと話をしよう」

「分かりました。何なりと聞いて下さい」

 できる副官リグだ。こういうときは、頼りになる。


「まず確認したいんだが、俺が生きているって分かったのは、支配の石版に名前があったからだよな」


「はい。魔王トラルザード様は、以前より支配の石版に書かれている名前を、すべて書き出させております。通常はその中で増減があったものだけ修正しているようです」


「それは聞いた。ネヒョルが完全に死んだか確かめたかったらしい」

「ヴァンパイア族の中には、ときおり死ににくい者たちが生まれます。念には念を入れたのだと思います」


 死んだと思っていても実は……なんてことはよくある。

 小説の世界でだが。


 魔界では、支配の石版が絶対だ。誤魔化すことはできない。


「で、ネヒョルは完全に死んだ。それでいいか?」

「はい。支配の石版から名前が消えました。そのときゴーラン様の名前が加わったようです」


 どうやら、それまで俺の名前はなかったらしい。

「とすると、石版に俺の名前が載ったのは、ネヒョルと入れ替えか」


 ネヒョルを倒したことで、俺が小魔王へ至ったようだ。

 進化したからではなく、純粋に強者を倒したことで昇格したらしい。


「なるほど……それで埋葬を免れたわけか。危ないところだったな」

 俺は致命傷を受けて絶命した。


 自分自身でもそう思っていたし、事実冥界へも行った。

 あれはおそらく、人間の臨死体験と同じような現象だろう。


 あの時、魂がまだ繋がった状態で冥界に行ってしまったのだ。

 冥界に繋がる穴が空いて、そこへ吸い込まれた。


 考えてみれば、本当に死んだのならば、「穴が空く」のではなく、否応なしに冥界に落ちるのではなかろうか。


 この辺は確認できないことだが、いま考えてみれば、ただ穴が空いただけでは、絶対に冥界へ落ちるとは限らない。


 天界、魔界、人界の三界で、古今東西、冥界行きを逃れる者がでてきてもおかしくない。

 穴に吸い込まれるだけでは、不確定要素が多すぎる。


 致命傷ではあったが、首の皮一枚で繋がっていた。

 そんな感じだろう。


 放っておけば俺は死亡。

 復活できずに終わっていたはずだ。だが、そうはならなかった。なぜならば……。


「俺が小魔王……か」

「はい」


「責任重大だな」

「はい?」


 このレベルになってくると、魔素の多寡だけで勝敗は決まらない。

 戦闘経験や相性、特殊技能をどれだけ使いこなせるかも重要になってくる。


 この荒れた魔界で平穏は望めそうにない。

 強敵が列をなしてやってくるかもしれない。


 そのとき俺は、前に立ちはだかることになるのだろう。

 後ろの者を守るために、俺は前にでるのだろう。



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