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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第9章 異界の旅路編
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 そういえば俺の人生って、なんか戦ってばかりじゃないか?

 オーガ族に転生してからというもの、いや前世でもそうだ。


 ずっと戦ってばかりだった気がする。

 俺個人はこんなにも大人しい、どこにでもいる、なんの変哲もないやつだというのに。


 なぜか戦いが俺を放っておかない。


 こんな世紀末ヒャッハーな世の中なのに、俺が平穏を求めるからだろうか。

 自由と平穏を勝ち取るために戦い続けなきゃいけないなんて……なんて俺は不幸なんだ。


「――さあ、来やがれ!」


 今度の相手は、おそらく史上最強。

 まぎれもなく魔界一の強者だ。


 だからなんだ。これから戦うのに、相手の肩書きなんか無用。

 鼻をかんで捨ててしまえ。


 なにしろコイツは強者ゆえの驕りで、魔界の住人を改造させてたのだから。

 牙を無くした獣を作ろうとした張本人だ。好き勝手させてなるものか。


 俺は全身に魔素を巡らせた。

 いい感じだ。しっかりと身体に魔素が巡っているのが分かる。


 擬人の身体で、使える特殊技能は少ない。

 その中のひとつ『身体強化』で極限まで身体を高めた。


 さっき二体を相手したことで、残りの魔素は半分ほどだ。

 だが何とかなる。


 ヤマトの素早い攻撃をいなしつつ、俺は反撃する。

 俺の拳がヤマトの顔を擦る。


 当たりそうになっても、ヤマトは顔色ひとつ変えない。

 あっちはまだ、まったく本気になっていない。


 どのくらいの力なら倒せるのか、それを測っている感じだ。

 戦って分かる。まだまだ余力を残している。


 ただ強いだけでは、魔界で小覇王の座に就くことができない。

 おそらく全力以上の力だって出せるだろう。


「さっきもそうだけど、ずいぶんと戦い慣れているね」

「当たり前だ。俺がどんだけ修羅場をくぐってきたと思っているんだ」


 本当に余裕の声をしている。悔しいな。

 こっちは端から全力だってのに。


 俺は必死で避け、必死で殴る。

 それがずっと続いた。


 ヤマトも無言で相手をしてくる。

 互いに無言で繰り返される応手。徐々に速度を乗せてくるヤマトの拳。


 俺が何とか対応できているのは、ただただ武芸を磨いてきたからだ。

 人間だったときとオーガ族だったとき。


 魂は同一だから、できること。

 鍛えただけの技が俺の魂に染みついている。


 だが、このままではじり貧だ。

 俺が強者と戦うときはいつもこうだ。


 勝てる可能性が少ない。俺はいつも奥の手、切り札を用意しておく。

 だが今回、「オレ」はもういない。


 最強の相棒が抜けた穴は、俺が自分で埋めなくてはならない。

(大丈夫だ。やれてる)


 直撃を避けつつ、ヤマトの攻撃パターンを掴んだ。

 戦って分かったが、やはりヤマトは俺に似ている。


 日本武尊やまとたけるのみことというオリジナルの種は、肉体強化に特化したタイプだと言われている。


 普通、肉体系の種族は魔法に弱い。

 だが、ちまたに流れるヤマトの戦い方は、ただの肉体系と少し違う。


 空も飛ぶし、魔力弾を放つこともある。

 ではオールラウンダーかといえば、それでもない。


 これは純粋な魔法というより、魔素の扱いに習熟した果てのものではないかと俺は睨んでいる。


「というわけで、そろそろこっちも本気でいくぜ」

「まだ本気じゃなかったのかな」


 余裕の顔でそう返してきやがった。

 ちくしょー、本気だよ。本気だったんだが、通用しなかった。


 そして俺の魔素はもう残り少ないんだ。

 あれだけあった魔素も、もう空っぽだ。


 ではどうするか。

 俺が使える特殊技能で反撃するしかない。


 俺は格闘に関する知識だけは豊富だ。

 それは俺ひとりじゃない。何千年と武を磨いてきた武の集大成だからだ。


 理論化し、系統立ててまとめあげ、洗練したあとで昇華したもの。

 俺はそれを学んできた。


 そして、それをもってしてもヤマトには通用しなかった。

 だからここからは、やり方を変える。


「――おっ!?」


 はじめてヤマトが驚きの声をあげた。

 それはそうだろう。ここまで一度も見せていなかった技だ。


「それは魔素吸収だね。いつどこで覚えたのかな」

 興味を持ったらしい。


 擬人の器に入っていると、魔素量が相手に読み取られなくなる。

 俺が擬人を動かしていることから、上位種族並の魔素を持っていることは分かっているはずだ。


 過去、ヤマトが会ったときの俺は死にかけのオーガ族のガキだった。

 そのイメージが強いだろう。


 進化したことは理解できても、「どう進化した」のかまでは想像できなかったはず。


(いや……少しは見通したかもしれないな)


 化け物みたいな奴だ。

 見透かされたとしても不思議ではない。


 だが……


「だが……魔素吸収を使えるとは思わなかっただろ?」

「そうだね。驚きだ」


 魔素吸収はヤマトのオリジナル技と思っていたのではなかろうか。

 魔素を吸収するなんて、他でも聞いたことがない。


「驚きついでに、本家の技を見せてもらおうじゃねえか」

「なるほど……ご所望とあらば」


 ヤマトが少しだけやる気を見せた。

 そう、俺が選んだ道は至極単純。


 魔素の奪い合いだ。

 どちらが多く相手の魔素を奪えるか。ただそれだけ。


 互いにどう動けばイニシアティブが取れるか。

 それを考えながら戦う、いわば魔素を介した頭脳戦だ。


 俺がヤマトの魔素を吸収し、ついでにダメージを与える。

 ヤマトも奪われた分はキッチリ奪い返しにくる。


 いま俺たちの間で行われているのは、単純なシーソーゲーム。

 奪い、奪われていく魔素。


 もちろん魔素吸収には、ヤマトに一日の長がある。

 このまま戦えば俺は不利だ。


「だからこそ、これ(・・)が生きてくる」


 俺はヤマトの胸に手を当て、思いっきり魔素吸収を発動させた。


 ものすごく濃厚な魔素が俺の中に流れ込んでくる。

(たしかにこれは反則だよな)


 魔界の住人は生きていくだけで魔素を消費する。

 身体のどこにでも魔素があるからだ。


 魔素は身体を動かすエネルギー、カロリーみたいなものだ。

 激しく動けば余計に消費するし、魔法を撃てばその分消費が激しくなる。


 傷を癒やすのも疲れをとるのもみな魔素が必要だ。

 それを敵から吸収できるなんて、なんてチートな技かと思う。


 ヤマトが最強たるゆえんのひとつがこれだ。

 戦いの最中に相手の魔素を吸収できるのだから、こんなに有利なことはない。


 そしてヤマトは近接型の種族。

 近づく術に長けているだけでなく、相手を打ち据える技も力も持っている。


 そのついでに魔素を奪えばいい。

 やっぱりヤマトはチートだ。


「だけど、どうだい。自分の技に自分がやられるってのは」


 俺が魔素吸収を出し惜しみした理由は単純にして明快。

 ある程度戦って、魔素を減らしたかったのだ。


 そして互いに吸収を繰り返して、俺がその勝負を望んでいると見せかけた。

 ヤマトはそれにまんまと乗ってきた。


 当たり前だ。ヤマトの方がうまく魔素を扱える。

 魔素の奪い合いをすれば、勝つに決まっている。


「……なぜだ?」

 大量の魔素を奪われて不思議そうな顔をする。


「いいねえ、その顔。種明かしはしないぜ」


 弱点を攻めるのはプロレスの鉄則。

 分からない技に怯えるがいい。


 俺はもう一度ヤマトの胸に手を当て、魔素を吸収した。


 ああ、気持ちいい。



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