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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第9章 異界の旅路編
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 奴らは牙を抜かれた肉食獣だ。

 去勢されたペットでもいい。

 飼い慣らされ、闘争本能をどこかに置き忘れている。


 だから想像以上に脆かった。


 魔王級というのは本当だろう。

 だがどんなに強力な攻撃でも、当たらなければ意味が無い。


 どれほど強靱な肉体を有しても、鍛えなければ弱点はそのままだ。

 誰にだって柔い箇所はある。関節には可動域が存在する。


 重心が高ければバランスを崩すし、受け身が満足に取れなければ、重大な隙を作ってしまう。

 そのため、側近Aの攻撃を側近Bへ向かわせるのは簡単だった。


 側近Aの爪が、側近Bの腹を深々と抉った。

 逆もまたしかり。


 戦い慣れてない連中は、痛い思いをすれば気力が萎える。

 当たらない攻撃は、心が折られる。


「てめえら、武の進化を甘くみているようだな」

 そう告げたところで、何を言っているのか分からないだろう。


 昔、新体操の技は、最高難易度がCだった。

 その後、C難易度では収まらない技が出現し、ウルトラCという言葉が生まれた。


 ガキの頃、ウルトラCってなんだ? と思ったものだ。

 その頃にはもう、競技でウルトラCという呼び名は消え、難易度Dと呼ばれ始めていた。


 そしていま、難易度Cの技はもう「易しすぎる」と言われているらしい。

 驚きだ。ほんの数十年前まで最高難易度だったものが、もはや基本技となっているのだ。

 それだけ技術の進歩は凄まじい。


 戦いの歴史だってそうだ。

 石を持って殴っていた時代から、棍棒、青銅器と経て、鉄器、銃器と進歩してきた。


 武の歴史も同じ。

 徒手で敵を倒す技は連綿と受け継がれ、時代に合うように改良され、無駄をそぎ落とし、より効率的に進化していった。


「お前たちの拳は軽い。魔界の拳はもっと重いぞ」

 殺し、殺される覚悟を持った連中の拳はもっと重かった。


 ヒャッハーな脳筋たちだが、奴らは信念を持って拳を振っていた。絶対に倒すという信念を持っていた。

 俺はそんな世界から来た。


 なぜ擬人の器で俺が復活したのか。

 ここをそんな世の中へ戻すためじゃないのか?


「……フッ、まさかな」


 冥界にそんな意志があるわけない。ただの偶然だろう。

 だがたとえ偶然にしろ、小覇王ヤマト相手に啖呵を切るのも悪くない。


「キサマは擬人だぞ、なぜに!?」

「いかにその器が高性能でも、ありえん」


 側近AとBが騒いでやがる。まったく勘違いも甚だしい。

 魔素が多いイコール強いと思っている間抜け。

 頑強な身体を持っていれば、傷つけられないと考えている甘ちゃんたちだ。


 そんなものは幻想。まやかしでしかない。

「お前たち、強靱な肉体を持って生まれたら何をする?」


「?」

「どういう意味だ?」


「強い肉体を得たら、それを鍛えるだろ?」

 鍛え上げるだろうが。


 牙も爪もない最弱の人間が鍛えたら、熊すら倒すんだぜ。

 熊に生まれたらどうする? そこから鍛えるだろ? 熊の特性を生かし、限界まで身体を酷使し、最新技術で鍛え上げないのか?


 しないだろうな、お前たちは生まれたままの熊だ。


 俺がオーガ族に生まれて感謝したのは、人間時代にはできなかった無茶な鍛錬が可能になったことだ。

 オーガ族の肉体を十全に使うために、俺はあり得ないほど鍛錬した。


 鍛えれば鍛えるほど強くなった。

 動かすのに特化した身体だったのが大きいだろう。


「お前たちは弱い」

 力に頼っただけで、技がない。

 技がないから、攻撃が単調。何をするか丸わかりだ。


「そして心が弱い」

 歯を食いしばり、どれだけ辛い思いをしてきた?

 気の遠くなるような、終わりのない鍛錬を休まず続けたことがあるか?

 痛みに耐えたことは?


「心が弱いからすぐに見透かされるんだ」


「何だと……」

「言わせておけば……」


 人間だった頃と、オーガ族だった頃の俺。

 鍛錬に鍛錬を重ねて磨き上げた技のキレ。


 側近Aが躍りかかってきた。

 いなし方は何百と思い浮かぶ。

 だが今回は違う。


「まだ一度も転がしてなかったよな」

 踏み出した足を払ってバランスを崩させ、重心が前にきたところで後ろから持ち上げてやる。

 するとあら不思議。一回転して背中がこっちを向く。


「もしかしたら、俺の一番の得意技はこれかもしれないぜ」

 空手でいう所の抜き手。鍛えた指先を相手に深く穿つ技。


 俺は擬人で旅をしているとき、極限まで身体強化させて抜き手を放ったことがある。

 大木だろうが、岩隗だろうが、難なく穿つことができた。


「お終いだ」

 背中から心臓をひと突きする。

 それだけで終わった。側近Aは撃沈したのだ。


「こ、このっ……」

 側近Bが不用意に近づいてきた。

 やはり戦ったことのない奴はオツムが弱い。


 ここで間合いを詰めてくる愚。

 テレホンパンチしかできない側近Bには、理解できないだろう。


「獣だってもう少し慎重になるぜ」

 やってくる勢いを利用して、すれ違いざまに首を半回転。


 動きが止まったところに最大パワーでもう半回転。合わせて一回転だ。

 同じく側近Bも撃沈。


「こんな感じでどうだ?」

 俺はヤマトに向き直った。



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