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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第9章 異界の旅路編
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 俺は疑問だった。


「はたしてそれで上手くいくのですか?」

 だからそう尋ねてみた。


 するとヤマトの答えは、意外なものだった。

「そのための布石はいくつか打ってある」


 ヤマトが打った布石に俺は驚いた。

 俺の想像を少しばかり越えていたのだ。


 同時に、「そういうことだったのか」と納得できるものだった。

 というのも、ヤマトが打った布石とは……。


「私は長い年月をかけて、天界の住人を悪者に仕立て上げたからね」

 というものだった。


 たとえばゼウスやヘラという存在。

 彼らは太古から神として崇められている。


 古くから人界へやってきていた彼らは、行動や容姿から人間を導く存在と思われた。


 天使もそうだ。

 天使の存在も、人界の宗教と見事に調和して、人類の救世主誕生に一役買った。


 だが、結界が張られ、ゼウスが死んだ。

 ヘラもまた行方不明となった。


 その後の歴史は、ヤマトの独壇場である。

 ヤマトは人心を逆の方向へ誘導していったのだ。


 ヘラの研究組織「エンラ機関」はどうだろうか。

 エンラは、閻羅王えんらおうとして浸透させ、死者を裁く閻魔大王えんまだいおうとして人間に認識させてしまった。


 ヘラの組織に地獄のイメージを定着させたのだ。

 天界の研究機関が地獄になってしまったのだ。


 俺はその話を聞いて、ちょっと笑ってしまった。


 同じく、ヤマトの種族名。日本武尊もそうだ。

 歴史では、日本武尊は神として崇めるようになっている。


 なぜ魔界の住人が神? と不思議だったが、そういう思惑があったわけだ。


「これまで聖と魔が逆転していると感じることがありましたが、あれはヤマト様の仕業だったのですね」


「それ以前にあった認識は書き換えられないが、できることはあったからね」


 天界の住人を神と同一視するのは止めさせられないものの、彼らが無慈悲な存在であることや、魔界の住人の中でも人間の味方をする存在がいる事を浸透させたらしい。


 それらはみな、擬人ぎじんの器に入って人界に下りていったヤマトや、他の上位種族の成果だという。


 たとえば、結界が解除されたらどうなるのか。

 天界の住人が真っ先にやってくる。


 ヤマトはそれを『ハルバゲドン』と定義し、天使たちが人間を滅ぼすためにやってきたのだと思わせることに成功している。


 その後、遅れてやってきた魔界の住人たちが天界の住人と戦う。


 ハルバゲドンは善と悪の最終戦争だが、先に現れた天界の住人こそ、人間を襲う存在と認識させることができたのならば、人間が『魔界の住人だけを敵視する』ことは避けられるのではないかと思ったようだ。


 それら様々な工作が実を結ぶかどうかは、異界にいる連中の行動にかかっている。

 彼らが率先して人間を襲い、食い散らかし、軍隊によって蹂躙されたならば、関係修復は不可能となる。


 ゆえにヤマトはそんな未来を限りなく回避するために、異界の中で、彼らの闘争本能を変えようとしたらしい。


 だがどうしても反発する者がいる。

 何しろ、戦わずにいられないのが魔界の住人たちだ。


 反抗勢力が現れては潰される。

 それが異界で繰り返されてきたのだという。


 事情は分かったが、正直いうと、「何でそんな面倒なことを?」というのが俺の感想だ。


 どうやらヤマトは、時期がきたら、温厚な種族を少しだけ人界に出して交流させようと考えているらしい。


 その時期というのも決まっている。

 それは『人類の飢え』が無くなったときだ。


 日本は別として、世界ではまだまだ「食べるために必死」である者が多い。


 彼らには余裕がなく、他者を思いやるのに精一杯。

 他種族を受け入れるにはまだ成熟していないだろうというのがヤマトの見立てであるらしい。


 以上がヤマトの話の概要だった。




 なかなか壮絶な話だった。

 ヤマトのネガキャンはそれなりに成功したと思う。


 ヤマト自身も神になっているし、天界への嫌がらせも成功している。

 異界を造って、これ以上魔界の住人が人間に被害を与えるのも防いだ。


 それが相まって、魔界の住人はすべて伝説上の存在としか思われていない。

 神話、伝説、伝承なども、ヤマトは結構作っていると思う。


 気になったのは、魔界の住人に『72柱の悪魔』に相当する者たちがいないこと。

 メフィストフェレスを含めて、これらは天界の住人を悪魔に見立てたものらしい。


 ヴォラクなんか天使の姿だし、それを匂わせたことでしっかりと現代まで話が残っている。


 またヤマトが擬人を持っていた理由。

 世界中で天界の住人を殺して回っていたときに回収したものだったらしい。


 天界の住人は、擬人に入って人間に信仰を教えたという。

 人間の想いは聖気となって天界へのエネルギーとなる。


 ヤマトのネガキャンが成功したのと、新たなる(天界の住人入り)擬人が地上に出現しなかったため、いまでは天界は聖気不足に陥っているはずだとヤマトは言っていた。


 やはりヤマトも魔界の住人だ。

 こういったところは、かなり強かであると思う。


 ここでゼウスの目的はなんだったのか、俺は聞いてみた。

「ゼウスは人の魂の研究をしていたらしいね。その多様さに魅せられて、判断を誤ったのだけど」


 判断を誤ったというのは、人間の味方をしたことだ。

 ゼウスは早い段階で神と崇められたが、自分を崇める者たちが次々と狩られていくのに心を痛めたらしい。


 ちょうど魔界の住人の侵攻が増え始めた時期らしく、対抗措置として天界の住人を呼び寄せると、人界が戦場になってしまう。


 世界の人口が数分の一になるほどの戦いがおこるかもしれない。


 当時、人界の歴史は浅く、人の数はそれほど多くなかった。

 事と次第によっては、繁栄不可能なほどのダメージを受けるかも知れない。


 そう考えたゼウスは、人界を閉ざすことに決めた。

 自分の力すべてを使うだけでなく、その命を投げ出してまで強力な結界を発動させた。


 しかも、自分の死体を結界の要とすることで、外から破られないようにする周到さをみせた。


 ゼウスの目論見は成功し、天界と魔界の一部の者が人界に取り残されたものの、人界は完全に閉ざされてしまった。


 つまり、ゼウスにしろヤマトにしろ、力ある者が思いつきで行動した結果が今なのである。


「迷惑なこった」

 それが俺の正直な感想だ。



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